表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/32

28.天使と悪魔


人間を跡形もなく消してしまう『黒い風』。

人々はそれに怯えながら暮らしている。


文明が崩壊した荒廃する世界、『黒い風』の真相を探るべく、少年少女は都へ辿り着いた。


一度は倒したノックスだったが……。



相対したノックスは淡々と語り出した。


「ある日、悪魔が生まれました。悪魔達は増え続け、この世を恐怖に陥れる存在でした。そこに天使が降臨し、悪魔を退治しました」

ノックスはエラリーを見つめる。

「さて、悪魔とは何者でしょう?」


戛々(かつかつ)と靴を鳴らし、ノックスはエラリーに近づいた。

()しき者が悪魔とは限らないし、聖なる者が天使とは限らない」

ノックスはエラリーの目の前で止まった。

「では、君はどっち?」



ノックスの人を食ったような態度に耐えきれなくなって、エラリーは震える拳をノックスに繰り出した。ノックスはそれを容易(たやす)()けた。エラリーはすかさずノックスの首を掴もうとする。ノックスはそれも(すんで)(かわ)した。

「ははっ、またそれか」

ノックスはエラリーの無防備な腹に膝を入れた。エラリーは顔を歪めた。

「ぐふっ!」


「エラリー!」とクレイグとアガサは思わず叫んだ。

エラリーは(ひざまず)きそうになりながらも必死で体勢を保った。歯を食い縛り、ノックスの頬へ左拳を突き出した。ノックスはそれも軽く避けて、エラリーの右頬に逆にパンチを食らわせた。

「ぐあっ!」

エラリーの体が吹っ飛び、倒れ込んだ。口から血を流し、倒れた体を起こそうとするが、なかなか起き上がれない。

「物理的な力では僕に勝てるわけないんだよ、エラリー」


「エラリー!」

アガサは駆け寄って、エラリーの体を起こした。


ノックスはその姿を横目で見た。

「君に絶望を与えてあげよう」



ノックスは静かに歩き出した。

そして歩みを止めた。

ノックスは(みなぎ)る力を込めて右手を挙げた。右手が次第に黒くなる。

ノックスの目が(とら)えたのは、ひとりになったクレイグであった。


エラリーは痛みを堪えて叫ぶ。

「や、やめろ!」

エラリーが必死で立ち上がろうとした。脳が揺れて足がうまく動かない。アガサがそれを支える。

「そんな体で彼女を防ぐことが出来るかい?」


エラリーはアガサに支えられてようやく立てている状態だ。クレイグの元へ駆け寄る力が出そうにも出せない。


ノックスの右手が黒い渦を巻き、クレイグに『黒い風』の照準が合った。

クレイグは青褪(あおざ)めた顔で震えていた。目の前2m、ノックスがこちらを向いて立っている。


クレイグはしかしながら恐怖に背を向けることなく、(おもむろ)に体を大の字に開いた。

トロフェンを着ている。

ジャンの想いとチェスタトンの遺志。


足が震えている。けれど勇ましく『黒い風』を全身で受けようとしている。

「クレイグ! よせ! 逃げろ!」

エラリーは叫んだ。

それでもクレイグは動かない。

「アガサ、エラリー、今のうちに逃げて!」


クレイグは叫び続けた。

「あなたたちは人類に必要なの!」

クレイグは涙を浮かべて微笑んだ。

「お願い、二人で逃げて!」

「やめろ!」とエラリー。

「お願い!!」



クレイグの叫びが皇居内に響いた。


その姿を淡々と見つめ、ノックスは右手を止めて気だるそうに溜め息をついた。

「君がそんなことしたところで何も変わらないよ」


クレイグは震える口元を緩ませて微笑んだ。

「そうかな。私はともかく、エラリーは違う。どんな世界だって悪は必ず成敗されるって決まってるの」


ノックスはフッと嘲笑(あざわら)った。

「悪、ね」

そして止めていた右手を振りかぶった。

「ならばお望み通り『悪』を成敗しよう」



ノックスの右手がクレイグ目掛けて振り下ろされた。『黒い風』がクレイグに襲いかかる。

「クレイグぅ!」

ノックスは叫んだ。

クレイグも覚悟を決めてギュッと目を(つむ)った。『黒い風』が包み込む。



エラリーは呆然とクレイグの姿を見つめた。

その目はクレイグの悲惨な最期を見届けたわけではない。クレイグの前でノックスの放った『黒い風』が弾かれていた。目を閉じ、体を(すく)ませるクレイグの前で(さえぎ)られていた。









前に立っていたのは、



アガサだった。






(わず)かな隙をついて駆け寄ったアガサはクレイグの前に立ち、『黒い風』を弾き制していた。



『黒い風』は城壁を通り、都へ世界へと過ぎ去っていった。



静寂に戻り、目を開けたクレイグは驚いた。

「アガサ……?」

常にエラリーの陰に身を(ひそ)めていたはずのアガサが、自らクレイグの前へ立ち、『黒い風』を弾いている。

エラリーは茫然(ぼうぜん)としていた。

『黒い風』を放ったノックスも目を見張った。

誰もが今の光景を予想だにしていなかった。



「アガサ、大丈夫なのか?」

エラリーは痛みを堪えて叫んだ。

「大丈夫だよ、エラリー」

アガサはそう答えると、ゆっくりと顔を上げ、ノックスへとその眼光を向けた。

そして静かに口は語り出した。




「……かつてこの世界に、7度の爆発があった」

その声は低く、明るいアガサとかけ離れていた。


「あなたもエラリーも知らないでしょう。あなたたちが生まれる前から世界は7度爆発を経験している。

その時も各地で人は消えたけど、さほどの威力を持たなかったため『神隠し風』と呼ばれる都市伝説として片付けられた。けれどそれは無色透明でありながら確実に存在し、世界を巻き込んでいた。

抵抗を持たない者は消え、大半の者は知らぬうちにそれを弾いていた」


エラリーはなんとかクレイグのもとへと足を引き()って近づき、彼女の震える体を座らせた。

前に立つアガサは微動だにせず、けれど(りん)(たたず)んでいる。


「1度目の爆発で生き延びた者が子供を産み、2度目を生き延びた者がまた子を産む。そうして人間はより耐性の強い子供を作っていった。わたしたちはそうやって知らぬ間に進化してきた。

そんな耐性を持つ子供ですら壊滅させられる強力な存在が現れた。それが8度目に舞い降りたあなたよ」


エラリーはクレイグを抱え、アガサの話を一緒に聞いた。



「わたしはあなたの『黒い風』を受けても幸運なことに生き延びた。どうして助かったのかわたし自身にも分からなかった。

けれどクレイグやチェスタトン、フィルボッツ、そしてルルーとあなたの話を聞いて、わたしの記憶が、いや、遺伝子がそれを今、導き出した」



アガサの瞳が鋭く光った。

「あなたの言う、舞い降りた者を『天使』と呼ぶなら、生き延びた者は天使の子なのよ」




お読み頂きありがとうございます。

感想お待ちしています!



>>次回「29.天使の子」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ