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「姫様大丈夫ですか?」
「…うん、まぁなんとか」
濡れたまま王宮に戻ってきたとたん、力尽きたように熱を出して寝込むとか。
どんだけこの体貧弱なのよ。
熱のせいか朦朧とする頭で考える。
もうすでにここに来てから三回は寝込んだよな~。
前の体は鍛えててかなりタフだったので熱を出すことも寝込むなんてことも久しぶりすぎる。
初めは姫だし、美少女ルックに喜んだものの、その喜びがかき消されるように問題の方が多い。
うん…ちょっと事態を整理しよう。
私はあり得ないこの事態に落ち着きを取り戻すべく物事を整理してみた。
まず私はこの国の第二王女フェロニア、長年子供が出来ずに悩んでいた王の待望の子供であった事。
でもタッチの差で生まれた第一王女に継承者の印であるオッドアイ(片方の目の色が違う)が有ることが分かり
それのなかった私は継承権から外れ、誰からも見向きもされていないこと。
そのせいか内向的で自宮に閉じこもりがちだった姫は元々そうなのかはわからないけど、病弱で寝込みがち
この宮も、最低限の召使しかおらず、それも下級貴族の令嬢だったり、奴隷のような最下級の立場の人達が働いていた。
「姫様は繊細なのですから、あまりご無理はなさならいように、
勝手にいなくなられては私共がお叱りを受けます」
三人いる侍女は皆貴族の四女や五女、家計を支える為に仕方なく
宮使いしていたり、
第一王女の侍女にはなれなかった、いろいろと癖があり性格にも問題がある人達だ。
嫌味な物言いにも慣れてる、こちらに来る前は毎日言われてたから。
「それではこちらで大人しくしていてくださいませ」
クスクスと嫌味な物言いで去っていく侍女たちをしり目に、もう一人の私に付くまだ若い女の子
侍女ではなく下女という身分らしいが、この子が唯一私を心配していろいろ世話を焼いてくれる。
「姫様、何かお飲み物でもお持ちしましょうか?辛い所はございませんか?」
「…ありがとう、大丈夫…ええとあなた名前は…」
「私に名前はございません、卑しい身分ですので…」
そう言って申し訳なさそうに頭を下げる。
この世界は身分制度が厳しいらしく最下層の人達は皆名前がないらしい。
元居た場所から考えたらあり得ない事だし、なんか差別的で気分が悪い。
見た目まだ14、5歳くらいの幼さ残る少女…
茶色の髪を三つ編みにして、そばかすの可愛いくりっとした瞳の子。
この子とは長い付き合いになりそうだし、もっと仲良くなりたい!
この子だけだもの、内心は分からないけど表面だけでも心配してくれるのは。
そう考えた私はこの子に名前を付けてあげることにした。
「…呼びにくいし…よかったら私が名前考えてもいい?もちろん嫌なら無理にはいいんだけど」
私は大した意味もなく発した言葉だったけど、彼女は驚いたように顔を上げ、ただでさえ大きな瞳を
これでもかってくらいに見開いた。
「そそそそそ、そんな!!私などが!!王女様に名前を頂くなんて!!!」
両手をぶんぶん振ってるが、顔をみるなり嫌そうではない。
「私はあなたともっと仲良くなりたいし…そうだなぁリリイ…リリィなんてどうかな?」
「…リリィ…」
感慨深そうに呟くとウルウル瞳から涙をこぼして泣き出す。
「嫌だった???!!!」
ネーミングセンスはないとよく言われる私なので気に入るかなんて全く自信がない。
熱のある体を起こして彼女を見つめる。
「姫様~~~!!!私などに名前を!!ありがとうございます!!私リリィは今日この瞬間より
あなた様のしもべとなり一生お仕えすることを誓います!!!」
な、なんか重い!!?…そこまで感謝してくれないていいんだけど…
「…まぁ喜んでくれたのならなによりです」
うん、なんか熱が上がってきた気がする。
慣れない事はするもんじゃないね。
私はこのか弱い体をベットに横たえ、益々甲斐甲斐しくお世話してくれるリリィに
少しだけ心がほっとするのだった。
最も彼女がここまで喜んだ本当の意味を知るのは、少し先の事なんだけどね。