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2 カノジョと嫉妬と#

「じゃ、また明日も放課後に、先輩。今度こそ、わたしへの愛を語ってもらう」

「あはは……じゃあ、またね」

「いやなにマジで一緒に帰っとるんじゃ。わし、縁切れって言ったじゃろ。呪うって警告したじゃろ。もしかしてこわいもの知らず? おぬし、こわいもの知らず? のんきに手ぇ振ってさよならしてる場合じゃないじゃろが」


 もうとっくに日の落ちた時間、下校途中。

 未唯後輩が手を振ってくるから、ぼくも手を振り返さざるを得なかった。そういうキャラでもないが、反射で仕方なくだ。


「無視されるとガチで凹むんじゃが」


 視認できなくなるところまで後輩を見送って、周囲に人がいないことを確認してから、ぼくはカノジョに向き合った。


「ごめんごめん。だけど、他人のいるところで話しかけるわけにはいかなくて」

「どぉだかのう。地雷女に夢中な感じがびしびし伝わってくるんじゃが」

「『地雷女』って……『のじゃキャラ』の使う言葉じゃないけど」


 ぼくの指摘に、


「うっ、たしかに。ワタシのロールプレイ、詰めが甘かったかも……反省反省……メモメモ……」


 カノジョは普通にしょぼんとしていた。かわいいが、幽霊としてはどうなのだろう。


「大体、どうしてそんな口調? 現代的な幽霊でいいんじゃない? ぼくはもっと素のままでいいと思うけど」

「そういうこと、しれっと吐くおぬしも路無のことを非難できんと思うが――まあよいか。わしのこの口調はな、権威付けじゃ」

「権威?」


 ゴースト界隈もそういうの必要なのか?


「わしは未だ他の幽霊に会ったことがないが、もし遭遇した場合はマウントを取らねばならん。生者に遭った場合も同様じゃ。そのために――」

「のじゃ口調?」

「そうじゃ。アグリーが早くてたすかるの」


 自信満々に頷く幽霊少女。霊体であってもセーラー服姿なので、口調がどうだろうとあまり威厳はない気がするが……黙っておこう。

 ぽーっとした顔で夜空に目を向けて、何やら語り始めそうな少女を今は見守る時だ。


「おぬしと出会った時もそうであった。わしは余裕ある態度で、熱烈にわしを求めてきた少年に鷹揚に応じ――」

「待って。あの時のことは違うって」

「なにが違うか。『君と仲良くなりたい』なんて、明らかに口説き文句じゃろ。初対面じゃぞ。わしが数年間生者にも死者にも認知されぬ、名無しのぼっち亡霊でなかったら通報モノじゃ」

「あれは、ええと……」


 説明がしにくい。

 ぼっち過ぎて友人が欲しくなり、『次に出会った人と友達になろうとやけになって声を掛けたら、幽霊だった』なんて――恥ずかしくて言えない。

 カノジョと交流した後で『さすがに友達が幽霊だけはな……』となり、別の人に声を掛けたことも――言いだせない。

 第一、そうして出会ったのが路無未唯後輩だ。カノジョがどう反応するかなんて、決まりきっている。


「そう恥ずかしがるでない。ここにはおぬしとわしの二人だけじゃ。どれほど熱く愛を発露しようと問題ないのじゃ。なのでほれ、存分に好きだと伝えよ」


 後輩を嫌うくせに、言っていることは瓜二つだった。意外と気が合うのかもしれないし、同族だからこそ気に食わないのかも。

 ここはひとつ、逆襲を仕掛けてみよう。


「ぼくが好きだって言っても、きみは恥ずかしがるだけでしょ?」

「なにを言うか。動揺など一ミリもせず、わしは受け止めるだけじゃ。何言われても嬉しいだけだからの」

「そうやって強がるところも好きだけど」

「ほ、ほう……」


 好意を伝えると、カノジョは途端にしおらしくなった。霊体で若干透けているのにちゃんと頬は赤くなっている。どういう仕組みか分からないけれど、魅力的だからよし。

 ちなみにこれ、ぼくもかなり恥ずかしい。若干のいたずら心が勝って行動に出てみたはいいのだが、気恥ずかしさが後から大波のように押し寄せてくる。


 今さら羞恥で舌が回らなくなり、無言が続いた。

 気まずい。

 視線だけがほんのちょっとぶつかって、すぐ逸れる。また少し目と目があって、再度お互いにそっぽを向く。

 そんなやり取りを何回繰り返したか分からなくなったところで、呟きがひとつあった。


「なんじゃ、これ」

「さあ……?」

「おぬしも赤くなるなら、言うでないわ」

「じゃあ、言わない。気を付ける……」

「今のは言ってくれの合図でしょうが――のじゃ」


 とってつけた語尾に、ぼくは笑った。


「わ、笑うでないわ」

「いまのはかわいかったし、面白かったし」

「またそういうこと言って……なんか慣れとらんか? というか、路無とかいう女に影響されてバグっておらんか、おぬし?」

「それはないと思うけど……」


 いまいち否定しきれない自分もいる。何しろ唯一の友達で後輩だから、感化されている可能性も否めない。

 ぼくが黙り込むと、カノジョは眉をひそめた。


「不安じゃのう。サークラ毒婦に毒されておらんか不安じゃのう。おぬし、あの手のおなごには気を付けた方がよいぞ」

「きみに言われるまでもなく、健全な距離は保ちたいと思ってるけど……中々それは出来なくて……」


 好意を携えて関わってくれる人を、


「相談できる友とか――」

「いない」

「今のは失言だった、すまぬ。では家族などに……こんな話など出来ぬか……」


 形の良いあごに小さな手をあて、うんうんと頭を捻ってくれている。


「なにか手は、ないかの……」

「実はぼくもそう思って、少し頑張ってみたんだよね」


 ぼくはカノジョにスマホの画面を見せた。


「ということで、ぼくはSNSのハッシュタグで案を募集してみた」

「いやアホすぎじゃろ。なんでフォロワーがBOTしかいないアカウントでやろうと思ったんじゃ。しかも『#カノジョより距離近かわいい後輩を拒絶しないと嫉妬されてまずいから助けて』てなんじゃ。こんなん誰が助けてくれるんじゃ」

「うん、ぼくも自棄になっての行動だったんだけど――なんとなんと、好ましい反応がひとつ。アカウント名的に、クラスで喋ったことのない陽キャの女子から」


 夜の闇をぼうっと照らすのは、画面に現れるひとつのリプライ。


『距離近いのって、ただの交流だと思うな! 詳しい事情聴かないと分かんないけど! あたしでよかったら詳しい相談乗るよ!』


「これ、すごくない? ぼくに人生の揺り戻しが来てるんだよきっと!」

「いや罠じゃろ。ハニトラじゃろ。もしくはいたずらか罰ゲームじゃよ」

「いや、陽の人って意外といい人だから。ツイッターでそういう記事読んだことあるし。トレンド入ってたやつ」

「だからSNSを信用してはならんじゃろ。ネットリテラシーわし以下か?」


 散々怪訝そうな瞳をした末、カノジョは結論付けた。


「そうまでおぬしがインターネットを信じるなら、そうじゃの……わしもやればよいか、SNS‼」


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