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4話・きみを助けに来た

 ところが翌日からサンドラがいなくなってしまった。侍女頭の話では、彼女の実家の使いが奥様の元に来て、身内に不幸があり仕事が続けられないとかで辞めさせたという話だった。あまりにも突然過ぎて嘘くさい話だった。もしかしたらサンドラは何かわたしの事で抗議して辞めさせられたのかもと疑いたくもなる。


 それからの二週間はあっという間に過ぎ去った。継母には使用人の真似事などしなくても良いと言われたが、侍女頭は何も聞いてなかったようで、普段通りに仕事を割り振りられたのだ。

 朝から晩まで休みなく働き夜には体がくたくたになってベッドに倒れこむ日々。サンドラがいなくなった寂しさを埋めるように仕事に一層打ち込んだ。余計な事を今は考える暇がなくて良かった。どうあがいても好きでもない男が迎えに来る日を逃れそうにはなかった。それに気を向けることさえ怖かった。


 そして当日。侍女頭が珍しくも朝早くから部屋を訪れわたしの身なりを整えた。それが可笑しかった。わたしがこの屋敷で侍女として扱われているのはサルロスも分かっているのに、あえて着替える必要もあるのだろうかと。


 しかもわたしが着せられたドレスはベージュ色のドレス。レースが無駄に沢山ついているが今時仕様の物ではない。流行からは遅れていて継母のお古だと一目で分かる。野暮ったい格好をしてサルロスの元へ向かうなら侍女の服装で十分ではないだろうか?

 髪の毛は丁寧に梳かれてドレスと同じ配色のリボンで髪を束ねられた。

姿見に映るわたしは普段よりも老けて見えた。これからの未来を予想しているかの姿だ。幸せなど望めなさそうになかった。こんなにも継母には疎まれていたらしい。  


 侍女頭の気休めのような「綺麗よ」と、言う言葉に、鏡に映るわたしは自虐的な笑みしか返せなかった。

 窓の外から馬車の音がした。侍女頭は明るく言った。


「どうやらサルロスさまは待ちきれない様子でお時間よりも早く迎えに来たようね」


 その言葉に断頭台に立つような気持ちになった。あの男と出来ることなら会う時間を一分一秒でも長く遅らせたかった。


 神さまは非情だ。わたしが一体、何をしたというのか? わたしが生まれて来たことは害悪でしかないのか? 実母には捨てられ、実父には存在を抹消された。継母には当たられ、使用人達とは一線を引かれている。唯一、分かり合えたと思った友達はこの屋敷を去った。



 ああ。神さま出来ることなら──。



 両手を胸の前で組んでいると、廊下が騒がしくなった。何やらパールス伯爵夫人と誰かが争っているようだ。その争う声が段々と近づいてくる。


「騒がしいわね。一体何事?」


 侍女頭が部屋のドアを開けた所に、一人の男性が現れた。彼と目が合った。


「きみがマーリー嬢か? きみを助けに来た」


 その言葉は、わたしが今一番欲しい言葉だった。胸に染みた。助けに来たという男性は、陽光のように明るい金髪に茶色の瞳をしていた。美しい顔の右目には金縁の片眼鏡が輝く。それは彼の持つ美麗な顔立ちを損なうものでもなく、知性が寄り添うようにそこにあった。


 何者にも犯しがたい威風堂々とした態度は気高く、まるで天から使わされた天使がわたしの窮地を救う為にこの世界に舞い降りたようだ。


「あなたは……?」


 すると頭の中に天啓のように蘇ってきた記憶があった。それは光の矢の速度で脳裏を駆け巡り、一瞬にして膨大な情報量をもたらした。目まぐるしい速度に目眩がして頭痛までしてきた気がする。

ここはある世界に酷似していた。前世のわたしが夢中になってやっていたゲームの中の世界。


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