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ご対面

 ボクが動いたのは、誕生日まで数日と迫った日だった。

 何もせずに5歳を迎えられないと感じたんだと思う。


 平日だったのか日曜日だったのか。

 わからない。

 ボクが愛用の自転車のペダルに足をかけたのは、お昼を廻ってからだ。

 相手は幽霊なのに、夜に出掛けるという発想は幼児には無かったのだ。

 まだコマを外してない自転車。

 コマが立てる「ザ」と「ガ」を混ぜたような甲高い耳障りな音。

 今も耳に残っている。


 途中の記憶はない。

 だけど距離の遠さに打ちのめされていたように思う。

 泣きそうにはならなかった。

 使命感があった。

 行くんだ、行かなきゃ。

 自分は正しいことをしているという想いが、幼児のガソリンだった。

 心のどこかで、カッコいいと酔っていた。

 たっぷりと時間を使って、ボクは空き家に到着した。


 間近で見た空き家がどんな風だったかの記憶は無い。

 幼児には、関心が無かったからだと思う。

 幼児の頭では、幽霊のイメージが神さまと混ざっていた。

 呼べばいいんだと思っていた。

 だから、呼び鈴の場所さえ探していない。

「こんにちはァァァァっ!!!!」

 声の限りに挨拶した。

 そして、自己紹介。

「向田智則です!! キク組です!!」

 当然、返事は無い。

「お留守なんかな……」

 ボクはトンチンカンなことを考えて途方に暮れた。

 気を取り直して、もう一度。

 ボクは前よりも気合いを入れて、拳を握りしめてたくさんの息を吸うために、大きくのけぞった。


 目の前に、黒い髪の女の人が立っていた。


 幼心に、どぉぉぉぉんッという音が聞こえた気がした。

 触れられそうな距離でボクを見下ろしていた。

 白い大きな布をかぶって、スポッと顔を出したみたいな姿。

 見下ろす顔はハッキリと見えた。


 のぞき込むように小首をかしげ、大きく目を見開いている。

 怒りをたたえていて、ブツブツと独り言が聴こえてきそうな顔だった。

 いま思い出してもあまりいい気はしない。

 でも、その時はそれだけじゃなかった。

 その怒りに満ちた顔からは吹雪のように激しい感情が吹きつけてきて、ボクの顔を叩いた。

 怒り。

 憎しみ。

 悲しみ。

 それまでのボクの想いは、粉々に砕け散った。

 怖かった。

 見下ろす顔が近づく気配に、思わず目を閉じた。

 気配は僕の顔のすぐ前で止まった。

 震えた。

 涙がこぼれた。

 でも、その涙は怖かったからじゃなかった。 

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