わが家の習慣
ボクが幼稚園だった頃。
ボクは家からけっこう離れた心霊スポットへ、幽霊に会いに行った。
お説教をするために。
ボクの家では母親が免許を持っていなかったから、週末に親父が休みの時でないと行けない場所や、出来ない買い物というものがあった。
そうやって週末に車で出掛ける時、ある空き家の前を、寄り道してまで通ることが親父の中のプチブームだった。
もしかしたら、ボクのリアクションを楽しみにしていたのかも知れないけど、その後の展開を考えると、どーしても、あまり怖がったりしたとは思えない。
ただ、とにかく、そのドライブはしばらく習慣になっていたと思う。
「智則、見てみ。
あの家、幽霊が出るんやで?」
親父の声の記憶。
ほらッ、ほらッ、て感じの響き。
やっぱりリアクションを楽しみにしていたのかも知れない。
うろ覚えだけど、和風ではなくずんぐりと四角い箱のようなイメージの家。
2階建てだったと思うけど、今、建ち並ぶ一戸建ての家々に比べると明らかに低かった気がする。
太くはないけどけっこう交通量の多い道路。
一段高くなって、ちゃんと柵が設置された歩道。
その歩道に玄関を向ける形で、その家は建っていた。
白を基調にした家は、全体的に薄く茶色に汚れていて、記憶の中にぼんやりと浮かぶ姿は、ひどい曇り空の下で撮られた写真みたいに暗い色をしていた。
そこが、どの程度に有名な場所だったのか知らない。
今は自営の代理店をしてる親父も、以前は大きな不動産会社にいたから、その時に知った情報なのかもしれない。
親父はその家について、何かいろいろと話してくれたと思う。
だけど、言葉も声も覚えていない。
幼かったボクが理解したのは、2つ程度だ。
取り壊し工事をしようとする人が事故に遭う。
夜に通りがかって幽霊を見た人がいる。
年月も経って成長したボクの理解では、今で言う、いわゆる事故物件。
人が死ぬ事件があった。
幼いボクにそんなことを説明したとは思えないからどこからの情報なのかわからないけど、原因は旦那の不倫。
ただし、逆上したのは奥さんではなく、若い若い不倫相手。
包丁を持って暴れ込んだのだ。
これも誰からの情報なのか、それともボクがいつの間にか想像を付け足したのか自信がないのだけれど、妊娠して旦那の指示で宿った命を堕ろしていたらしい。