デルタダートをさがして
お父さんはひたすら走っていた。
我が息子、かずひろ君が欲するデルタダートを手にいれるために。
人々が家路に着く夕刻。
お父さんは街中を駆け回っていた。
三軒目の模型店に駆け込む。走り続けて息も切れ切れの状態。呼吸を整えながら店主に探し求めている物の名を告げる。
「あ、あの。デルタダートという飛行機のプラモデルを探しているのですが」
「デルタダート?ごめんなさいね、あれはもう売ってないよ。メーカーに問い合わせてスポット生産していれば、今日受注して来週にでも…」
「今日でなければダメなんです‼️今日手に入れないと息子の、かずひろの誕生日が」
「ええ…」
お父さんの勢いに店主は困惑した表情となった。
それは先週の事だった。
「かずひろ、来週は誕生日だね。一学期の成績も良かったし、お父さんが何か買ってやろう。何か欲しいものはあるか」
長い出張から帰ってきたお父さんは久々に息子のかずひろ君とお風呂に入り訊ねてみた。
「ホント!?だったら、ぼく、デルタダートが欲しい‼️」
かずひろ君は元気に答えた。
「デルタダート?なんだいそれは」
「コンベアのF-106デルタダートだよ。アメリカ軍のげーげき戦闘機なんだ。ぼく、それのプラモデルが欲しい‼️」
「ああ、飛行機のプラモデルね。どんな飛行機なんだ?」
「えっとね、翼がね、学校で先生が持ってるおっきい三角定規みたいでね、それから胴体がえりあ・るーるっていうかたちでこーんなコーラのびんみたいにくねーってなってるの」
かずひろ君は難しい言葉とジェスチャーを交えながら一生懸命、お父さんに説明した。
「よしわかった。デルタダートだね。来週の誕生日を楽しみにしていなさい。男と男の約束だ」
「やったー‼️お父さんありがと!それじゃ今日はごひゃくまでかぞえるぞー」
大喜びしたかずひろ君は嬉々として、肩まで湯船に浸かりながら数をかぞえた。
こんなに喜んでいる息子のためにも父として、必ずやその戦闘機のプラモデルを手に入れなければならない。そう決心したお父さんだったが、その後も仕事が忙しく、デパートや模型店が開いている間に仕事を終わらせることがなかなかできずにいた。
そしてとうとう、かずひろ君の誕生日が来てしまい、お父さんはたまたま外回りの営業の日だった今日を利用して会社に直帰の連絡をしたあと、デパートに繰り出した。
しかし、デパートのおもちゃ売り場にデルタダートはなく、代わりに最新鋭の戦闘機のプラモデルばかりが並んでいた。
戦闘機に全く詳しくなかったお父さんはデルタダートという戦闘機がとうの昔に退役していた機体だということを知らなかったのだ。その後も街中の数少ない模型店を探し回り、この三軒目の店にたどり着いたのだった。
お父さんは店主に事の顛末を語った。
「なるほどね。お客さん、その飛行機のプラモだけどね、ずいぶん昔に発売されたやつだから手に入れるのは難しいかもしれないよ」
「そんなに昔の戦闘機なんですか?」
店主は店の奥から黄ばんだ雑誌を持ってきて広げた。内容はアメリカ軍のジェット戦闘機を特集したものだった。
「ほら、こいつがデルタダートだよ」
店主はきれいな三角形の主翼をもつ戦闘機の写真を指さした。
確かにかずひろ君がジェスチャーで説明した通りの三角形だった。
「確か初飛行が1956年で部隊配備が59年だったかな。でも88年に退役しちまってね。今でもメーカーが定期的に生産していると思うんだけど、最近のお子さんにはやっぱりF-15とかF-16が人気で、店側としてはどうしても売れ筋のものしか置かない所が多いんだよ」
「そんな…」
「それにしても、息子さん、よくデルタダートを知ってたね。あたしもお客さんに言われるまで思い出さなかったよ」
「実は私の上司が家に来た際、息子に戦闘機のムック本をプレゼントしたんです。以来、息子は戦闘機にはまってしまいまして。学校の絵の授業にもF-4の絵を描くくらいなんです」
お父さんはかずひろ君が戦闘機好きになった経緯を話した。
「その上司さんのムックの中にデルタダートがあったわけだ。全く罪作りな上司だねぇ。ああ、ごめんなさいね」
「私としてはあまり兵器に興味を持ってほしくなかったのですが、他でもない上司からのプレゼントですし、今でも会社で息子の事を聞かれるんです。どうしようもなくて」
店主はサラリーマンも大変だなと内心で思いつつ、助言を与えた。
「お客さん、なら目の付け所がちょっと違うかな。リサイクル屋をあたってみたらどうだい?」
「リサイクル屋ですか。でもあそこにプラモデルなんて置いてあるのでしょうか」
「最近じゃ、マニアが欲しがる物を扱ってる店も多いらしいよ。昔のソフビ人形とかミニカーの方が家具なんかより需要があるみたいでね。もしかしたらプラモデルを置いてる店もあるかもしれない」
「それならリサイクル屋をあたってみます」
「でも昔のプラモデルじゃ少し値が張るかも」
「息子の頼みなんです。値段がどんなに高くても構いません」
「こんなに頑張ってくれるお父さんで息子さんも幸せだねぇ。これね、遅くまでやっている店の住所のメモだから、ここに行ってみて。きっと見つかるといいね」
お父さんの熱意に応えるように店主はメモを渡した。
「ありがとうございます‼️早速行ってみます」
お父さんは店主に頭を下げると、店を出て一目散に走り出した。
「いまどき珍しいお父さんだな。よほど息子さんがかわいいんだろうな。デルタダート見つかるといいけど」
店主はお父さんの背中を見送りながら呟いた。
待ってろよ、かずひろ。お父さん必ずデルタダートを買って帰るぞ。
お父さんにとって今日は愛する息子の誕生日の他に、大学時代の陸上部以来のマラソンの日となった。
陽も完全に沈んだ頃、ようやくリサイクル店に到着。腕時計は19時を過ぎていた。
息は切れ切れ、スーツも汗でびっしょりの状態。明日からしばらくは筋肉痛に悩まされる事になるだろう。
しかし息子のためならば、そんな事はたいした問題では無かった。
呼吸を整えて店に入る。
店内は静かだったが、多くの客がいた。
――なんなんだこれは。ここは本当にリサイクル店なのか?
店内はほとんどガラスケースでいっぱいだった。
お父さんはまたガラスケースの中の商品に目を疑った。
彼が子供の頃の特撮ヒーローのソフビや変身アイテム、古い箱のミニカー、原作者も鬼籍に入って久しい漫画等々、どれも古い物ばかりが並んでいた。
価格も当時の倍以上の値段で売られている。
――こんなものをこんな値段で買う人間がいるのか?
あたりを見回すと客は自分よりも年上のサラリーマン風の客ばかりだった。
独り無言でガラスケースの中を物色している者もいれば、連れとマニアックな話をしている者もいる。
お父さんには店の品物も客もすべてが異質に見えた。
しかし、お父さんは目的を思い出して我に返る。
「いけない、デルタダートを見つけなくては」
お父さんはレジで新聞を読んでいる店主に話し掛けた。
「あのう、デルタダートという飛行機のプラモデルはこちらにございませんか」
店主は新聞から目を離さずにぶっきらぼうに応えた。
「飛行機のプラモなら模型売場にあるだろうよ、見つけてから声を掛けてくれないか」
態度の悪さにお父さんはムッとしたが、今は目的を果たさなければならない。
お父さんは模型売場に向かった。こちらはガラスケースは少なかったものの、プラモデルの箱が積み上げられた棚ばかりでやはり古いプラモデルがたくさん並んでいた。古い埃やカビのような臭いが鼻をつく。
「轟天号にジェットモグラ、パンサータンクまであるぞ」
お父さんは自身が子供の頃に売られていたプラモデルを発見して再度驚いた。
「でもここならデルタダートがあるかもしれない。どれ探すとするか」
お父さんは積み上げられたプラモデルの中からデルタダートを探し始めた。
所々黄ばんでいて、箱も潰れているものばかりで名前の判断も難しかったが、箱絵さえ確認できればなんとかなりそうだ。
先ほどの模型店の店主に見せてもらったデルタダートの写真を思い出しながらデルタ翼の戦闘機のプラモデルだけを集める。
「これも三角形だな。ええと、ミ…ラージュ、似てるけど違うな。こっちはクフィ…ルか。なんだ、どう違うのかまるでわからんぞ」
戦闘機が全くわからないお父さんにとってはすべてが同じように見えた。
しばらく探して、ひとつの箱に目を止める。
箱自体は色褪せていて他の物と同様に汚れていたが、うっすらと残る文字にお父さんは注目した。埃を払って箱に書かれている文字を読み上げる。
「F-10…デ…ルタ…ダ…」
かろうじて読めたのはこれだけ。
「ん?デルタ?あっ…」
お父さんは気付いた。
「もしかしてデルタダートか!?」
ようやく目当ての物を見つける事ができた。
「うおおおーー‼️かずひろやったぞ‼️」
お父さんはその場で歓喜の声を上げた。
愛する息子のために街中を駆け回り、ようやく見つけたデルタダート。
おそらく彼の人生の中で、妻との結婚式と息子の誕生の次に数えられるほどの喜び。
ひどく汚れてしまっているが、息子に昔に出たプラモデルだったと説明すれば納得してくれるだろう。値段も汚れのせいか他のものよりも破格だった。すぐさまプラモデルをレジに持って行く。
店主は相変わらず無愛想だったがお父さんは気にも留めずに会計を済ませた。
スキップしながら店を出る。
「おっといけない」
箱が凹んでいるので一応中身を確認しておく――無事なようだ。
説明書は底にあるようだが、舞い上がっていたお父さんは広げてみようとはしなかった。
ついに帰宅。
時計はすでに21時を回ってしまっていたが、かずひろ君は寝ずに待っていた。
「お父さんといっしょにケーキ食べるって聞かなくて」
お母さんは嬉しさと困惑が混じった表情で話す。
「ごめんなかずひろ。お父さん、もっと早く帰ってくるつもりだったんだ」
「ううん。お父さんお仕事忙しいもの。ぼくの誕生日だからって早く帰っちゃったら怒られちゃうよ」
「かずひろ。お父さんな、お前のためにプレゼントを探し回ってたんだ。箱は汚いけど中身は無事だよ。ほら」
お父さんは鞄からプラモデルを取り出してかずひろ君に見せた。
「まあ、汚い箱ね。かなり古いものなんじゃない?」
お母さんは汚物を見るような表情だったが、かずひろ君の眼はお母さんと違って輝いていた。
「こ、これひょっとしてデルタダート!?」
「そうだ。お前が欲しがっていたデルタダートだよ。もうどこにも売ってなくてね、昔のおもちゃが売っている変わったお店で見つけたんだ」
「お父さん、ぼくの欲しいものおぼえてたの!?」
「おまえの欲しいものを忘れるわけないだろ、男と男の約束はどんな事よりも大事なんだ」
「良かったわね。かずひろ、お父さんにちゃんとお礼を言いなさい」
「お父さんありがとー!!完成したらお父さんに見せてあげるね!」
喜んでいる息子に感謝された時のこのなんとも言えない達成感。
仕事で取引先との話が上手くいった時よりも倍以上に感じた。
父として、男として、自分は誇らしい事をしたのだと思う。
そう思うと今日の苦労など全く苦ではない。疲れさえ吹き飛ぶ。
「ランナーと説明書を確認しなくちゃ」
かずひろ君はプロのモデラーのようにランナーを箱から出して確認する。
「かずひろ、ケーキを食べてからにしなさい」
お母さんが制止しようとしたがお父さんはやらせてあげなさいとそれを止めた。
「僕も子どもの頃さ、プラモデルを親父に買ってきてもらった時、夕飯食べるのも忘れて箱を開けてたよ。中身を見るくらいやらせてあげようよ」
親父もきっとこんな気分だったのかもしれない。
父になれて本当に良かった。
「あれ?」
説明書を広げたかずひろ君の動きが止まる。
「どうしたかずひろ?部品が足りないのか?」
かずひろ君の隣に座る。かずひろ君は説明書を注視したままだ。
「部品が欠けているならお父さんがメーカーに聞いてあげようか?部品を送ってもらえるかもしれない」
「そうじゃないの。部品はちゃんとあるんだけど…」
そしてかずひろ君はとんでもない事実を告げる。
「お父さん、これ、デルタダートじゃないよ。デルタダガーだよ」
「デルタダガーだって!?デルタダートとは違うのか?」
「F-102デルタダガーっていうの。デルタダートにそっくりだけど、ほら、インテークのついてるとこがちがうでしょ」
かずひろ君はムック本のデルタダートとデルタダガーの胴体の部品をお父さんに見せた。
確かにこの二機は非常によく似ている。
箱は汚れのせいで『F-10』と『デルタダ』しか読み取れなかった。
そもそも、見た目も名前もこんなにそっくりな戦闘機があることさえ知らなかった。
喜んだのも束の間、いっきに肩の力が抜ける。
自分はなんのためにこんなに苦労したのか。街中を駆け回り、親切な模型屋にアドバイスをもらい、変わったリサイクル屋でぶっきらぼうな店主にムカつき、埃まみれになりながらようやく見つけたプラモデルが息子の目当ての物ではなかった。こんなおかしな事はそうそうないだろう。
「ははは、こいつぁ、おもしれぇや」
生気のない声を出す。
「あなた、しっかり。かずひろ、お父さんは一生懸命探してきてくださったのよ。お礼を言いなさい」
「なぁ、かずひろ、お父さんかずひろにちゃんとした名前くらい聞いておくべきだったよ。102と106くらい覚えておけば間違えずに済んだのにな。すまん、本当にすまん」
許してはもらえないだろうが、こんな愚かな父をどうか許してくれ。
来年の誕生日、いや、すぐ明日にでももう一度、あのリサイクル屋に行ってデルタダートを探してくる。
これは最早、男の尊厳、そして父としてのプライドの問題だ。
決意したお父さんだったが、かずひろ君は笑顔を崩すことなくお父さんに告げた。
「お父さん、ぼくおこってないよ。ぼく、デルタ翼大好きだもん。あのね、お風呂のときにお父さんにデルタダートがほしいって言ったんだけど、あれね、あみだくじで決めたの」
「え?」
「お父さんが出張から帰ってきたら、誕生日プレゼントのおねがいしようと思ってほしいものずっときめてたんだ。ミラージュでしょ、クフィルでしょ、それにドラケンにデルタダガーとデルタダート」
かずひろ君はデルタ翼を持つ戦闘機の名前を読み上げた。
「でもね、お母さんにひとつにしなさいって言われたからじゆうちょうにあみだくじ書いてえらんだの」
「それであみだくじで決まったのがデルタダートだったのか」
「うん。でね、デルタダガーとデルタダートどっちにしようかすっごく迷ったんだ。でもお父さんが言ってたでしょ、男はいちど決めたことは変えちゃいけないって」
「かずひろ、おまえ…」
「お父さんありがとう。このデルタダガー、一生懸命作るね」
「ああ…かず…ひろ……うぅ」
お父さんは男泣きした。
「お父さん、泣いちゃだめだよ。男はひとまえで絶対に泣いちゃいけないって言ってたでしょ」
「かずひろ、それは悲しいときの涙だよ。これは悲しくて泣いているんじゃない。嬉しくて泣いているんだ」
気が付くとお父さんはかずひろ君を抱き締めていた。
不甲斐ない父の教えを息子はしっかりと守り、そして自分に感謝してくれた。
まだ小学生だというのに息子は立派に育っていたのだ。
きっと自分より立派な人間になってくれるにちがいない。
お父さんはかずひろ君を抱き締めたまま、延々と泣き続けた。
「あなた、いい加減かずひろを離して。ケーキ切りますよ」
「お父さん、お顔拭いて。お母さんとみんなでケーキ食べよ」
「うん」
デルタダガーはこの親子にとってかけがえのない存在となった。
その日かずひろ君はデルタダガーの箱を枕元に置いて眠った。
「はい、手続き完了。これで明日にはF-35が届くぞ」
かずひろはネットショップの決済完了の画面を確認するとパソコンから目を離して息子のはるとに告げた。
「あざっす。でも父さんが注文しなくても俺が自分のスマホでやったのに」
「またそれか。おかしな話だよ、店にも行かずにインターネットで買い物ができるようになるなんて」
月日は流れ、かずひろ君もお父さんと同じ父親になっていた。息子のはるとは中学生だ。
「誕生日プレゼントくらい父さんに買わせてくれよ。最近じゃ、普段の買い物はすぐ自分でやるんだからさ」
「だってその方が便利だぜ。父さんはAIに買い物頼まないよな。AIに言えば、頼んだものが次の日に来るっていうのに」
「翌日に届くってのも変だ。それじゃ物のありがたみがわからないだろ。父さんは子どもの頃、おじいちゃんに一生懸命プラモデルを探してきてもらったってのに。近頃はなんでも便利になりすぎて良くない」
「またじいちゃんの話?すっごい良い話だけどさ、今父さんがやったら非常にナンセンスだよ。それにネット注文だったらデルタダートとデルタダガーを間違えるなんて絶対あり得ないし」
「ずいぶんとニヒルな事を言う奴だな。父さんはそんな育て方はしてないぞ」
「ニヒルって古いよ。確かにナンセンスだけどじいちゃん、父さんのことがよっぽど大事だったんだね。俺も息子に一生懸命な父親にならないとな」
「こいつめ分かったような口を聞くな。今頼んだF-35、作ったら父さんにも見せろよな」
「考えとく」
「なんで?」
「だって父さんのデルタダガーみたいに立派に作れる自信がないもの」
はるとはリビングのコレクションケースに飾られたデルタダガーを指さした。
ケース内のそれは塗装ははみ出し、デカールも所々剥がれ、ピトー管も真鍮線で応急措置が施されており、決していい出来とは言えなかったが、はるとはそれを立派と言った。
決して皮肉ではない。
はるとは父が未だに大事にしているデルタダガーのバックボーンを充分理解した上で立派と言ったのだ。
「俺さ、じいちゃんと父さんの話、馬鹿にしてないよ。この間のじいちゃんの十三回忌のときも父さんその話してたでしょ。その話をするとき、父さん誇らしげに話すからよほど大切な思い出なんだなって」
「そうだ、仕事が忙しかったおじいちゃんと父さんとの数少ない大切な思い出だ」
「その話を友達にしたらさ、無理ゲーじゃね?ってみんな言うんだ。だから俺、じいちゃんの事、ガチで立派な人だったんだなって思うんだ」
はるとの言葉は最近の言葉を使っていてよく分からなかったが言いたい事は理解できた。
かずひろは息子の頭をポンと叩く。
「なに?俺、変なこと言った?」
「いいや。お前がおじいちゃんがどんなに立派だったか分かってくれて嬉しいだけだよ。そうだ、久々に一緒に風呂でも入るか?eスポーツの対校試合勝ったんだろ?どんな試合だったか聞かせてくれよ」
「風呂はいいけど、試合の話は考えとく」
「つれないこと言うなって、このこの~」
かずひろは腕を回してはるとに軽くヘッドロックをする。
「やめれ、やめれ」
二人はそのまま風呂場へと歩き出した。
「あのさ父さん、今頼んだやつF-35だよね?X-35だったら洒落にならないよ」
「大丈夫だって。でももしX-35が来たら、それはそれでお前とのいい思い出になるな」
「いやいや、父さん、じいちゃんみたいに苦労してないじゃん。家でポチっただけだよ。ぜんぜん思い出話にならないって」
「父さんが買ってやった事に変わりはないだろう。お前も父親になったら子どもに話してやれ」
「うん。立派な話じゃなくてバカっ話としてね」
「こいつ~」
二人もまた仲の良い親子だった。
デルタダガーのコレクションケースの隣に立てられたフォトフレームには、老人になったお父さんと大人になったかずひろ君が写っている写真が飾られていた。
お父さんは入院着でベッドに座り、腕には点滴が繋がっている。その隣にはお父さんよりも背が大きくなったかずひろ君が椅子に座っていた。
親子のツーショットだ。
お父さんの手にはあのデルタダガーがある。
そして写真に写る二人の表情は満面の笑顔だった。