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異世界生活を満喫するために努力し続ける

今回は今までと違い、思いついたネタを真面目にしっかりと、そしてギャグとして書いてみました。

少しでも笑って頂ければなによりです。

 俺は今、剣と魔法のファンタジー溢れる()()()で生活している。そう異世界――俺は地球の日本生まれの日本育ちだ。

 そんなある日、“不幸な出来事” に見舞われる。幼い子供が車道に飛び出しトラックに轢かれそうになっていた。それを助ける為に飛び出すサラリーマン――を避ける為にハンドルを切るトラック。

 子供とサラリーマンを避けた為に、俺がトラックと衝突するはめに……()()な出来事でしかないよな。


 そんなわけで、俺は死んだ。まだ高校生2年生という若さで、人生を終えた……はずだった。

 トラックと正面衝突して死んだと思った、そして気が付くとおかしな空間に立っていた。死後の世界ってこんな場所なのか、なんて考えていたら目の前に美女が姿を現した……そう外見だけは美しい。


「ぷぷぷ。あんな死に方をするなんて不幸以外のなにもでもないですね、(かぶ)() (りょう)()(ろう)くん。しかもその名前、歌舞伎役者かってーの。あはははは」

「初対面の相手に対して随分と失礼な奴だな。名前は子供の頃からいじられ慣れて――って、なんで俺の名前を知ってんだよ?」

「そんなの決まってんでしょう、私が女神だからよ。女神なんだからなんでも知っているのよ」

「はぁ? 女神ぃ? 普通死んだら閻魔様とこに行くんじゃねぇの?」

「そうよ。死んだら閻魔のとこよ……()()はね」


 目の前の腹の立つ女神が『普通はね』と含みを持たせてそう言う。確かに……この状況は普通じゃないよな。

 女神の話はこうだ。本来はあのサラリーマンの人を死なせるつもりだったらしい。おいおい、女神が人を簡単に殺そうとするなよ。それには一応の理由があったりする、なんでも異世界に転生させる為だとか。

 しかし女神はうっかりしていたらしく、トラックの運ちゃんは前にも誰かを轢いて異世界へと(いざな)ったことがあるという。まぁそれもこの女神の差し金ではあるのだが。

 そこで予想外の出来事が起こる。トラックの運ちゃんは前の事故を教訓に運転技術に磨きをかけた。その結果、サラリーマンの人を避けることに成功したトラックの運ちゃん。

 けれど、それが女神にとっては予想外だった。そして、俺が代わりに死ぬことになった。


「あははは。あんな死に方をするなんて不幸以外のなにもでもないですねー」

「お前が俺を殺したんだろうが!」

「はいはい、そんなに怒らないでよ。だからこうして新たなチャンスを与えてあげてるんだしさ」

「新たなチャンス?」

「そうよ、ありがたく思いなさいよ。不幸にあった、君を異世界へと転生してあげるわ」

「……それ、サラリーマンの人の替え玉にして、己の失敗を無かったことにしようとしてないか?」

「……まっさか~女神のこの私がそんな姑息なことするっと思ってんの~? やだなぁもうぅ」


 図星かよ。わかりやすい態度だ、目なんて完全に泳いでるじゃないか。

 まぁそんわけで、俺は女神の計らいで異世界へと転生することになった。その異世界は俺からするとRPGを思い出すような世界観だった。姿や記憶をそのままに……それと女神お勧めだという “ある特殊能力” も授かり、新たな世界へと俺は降り立った。


 プリンキピウムの町――RPGで言うところの最初の町。俺が降り立った場所であり、数カ月が経った今現在でも生活している町でもある。

 この異世界にはどうやら魔王という存在がいるらしい……それも二人。二人の魔王が世界を二分して覇権争いをし続けているとのことだ。

 こんなにも他人事のように語るには理由がある。その魔王が争っているのは、ここから海を渡った大陸の話だからだ。そうこのプリンキピウムの町はいわゆる辺境の町という扱いであり、安全な場所として認識されている。魔王もこんな辺境には興味が無いらしく、わりと安全に日々の生活を送れている。

 俺もこの異世界へとやって来た時はRPGな世界で楽しめると思っていた。現実は厳しかった……生活するにはお金が必要なのは変わらない。この世界で独り身の俺は孤独にお金を稼ぐしかなかった。元の世界でいう、日雇いバイトをしながら日々の生活資金を稼ぐ毎日を続けた。


 冒険者組合(ギルド)というものがある。町が行う事とされている事務のほか、独自に定めた住民へのサービスなど、あらゆる行政事務を行うために幾つかの部署が設けられた内の一つ。主な仕事は冒険者での互助や情報交換のための団体であり、自警団の役割をも担っている。手に職が無い者は主に冒険者を生業とし、生活の糧としている。

 言ってしまえば、代行業者とも言える。そんなわけで困ったら冒険者組合(ギルド)に行けば、仕事を請け負い報酬を貰え生活の足しにするのが、常といったところだ。


 俺もRPGのようにモンスターを討伐して金を稼いでやろうと……最初はそう思っていた。

 新米冒険者が初めて相手にするモンスターの大半は、“ケルウスシーカ” という名のモンスター。そのモンスターについて聞いてみると、どうやら名前通りに鹿らしい。

 鹿ならば楽勝――


「――無理無理! こんなの相手にショートソード、一本で立ち向かえって無理だろ⁉」


 最大種であるヘラジカサイズでなければ。それに角がやたらと鋭利で、まるで短剣がいくつも生えているようなものでなければ。

 更には女神から授かった特殊能力だが、これが全く使えない能力だったのも戦えない理由の一つでもある。

 どんな相手だろうと問答無用で対象者の能力を()()()ことが出来る特殊能力。そう、借りるのである、奪うのではなく借りるのだ。

 借りると言うことは代金を支払わなければならない。払う代金は、俺の寿命。借りる対象能力によって寿命の年数は異なる。つまり相手の能力が強力であればあるほどに、俺の寿命が縮む能力。


 その名も《 借り入れ商売(TATSUTAYA) 》――なめてんのか⁉ あのクソ女神ぃぃいいい!


 ――そんな使えない……いや使用するわけにはいかない特殊能力だった。そして、ただの高校生が満足に戦えるわけもなく日雇いバイトを続ける日々となったわけだ。

 今の生活は確かに苦しい……それでも俺は今、充足感に満ちている。日本での生活は漫然と過ごすだけだった。だから今の生活が楽しく思える、この町で出会った人達とも仲良くなり日々平穏に過ごしている。それだけで充分だった。

 魔王なんて俺には関係ない、そんなのは他の転生した人が勇者となって倒せばいい。俺はただの村人として小さな幸せを掴む。


 そう思った矢先――魔王配下、幹部の “ストロンス” と名乗るモンスターがこの町へとやって来た。

 この町に居る全ての冒険者に召集がかけられ、正門前で待ち構える。


「本来であれば、このような町に興味は無い! しかし、弱い人間を(なぶ)るのも一興!」

「くそ、俺たちはお遊びにしかならないってーのか」

「仕方ないじゃない。あれは魔王軍の幹部ですもの。それもエルダースケルトン、ここに居る冒険者で勝てる相手じゃないわ」

「……エルダースケルトンってのはそんなにヤバイ相手なのか?」

「カブキ、知らないのか? いいか、エルダースケルトンってのは、通常のスケルトンと違ってとんでもなく強いんだよ」

「…………説明終わりかよ⁉ もっと具体的にあんだろうが!」


 いまいちエルダースケルトンの強さがどのくらいなのかわからない。しかし魔王軍の幹部だと言うことは相当強いんだろうな。RPGで例えると、今の俺はレベル5くらいか? だとすると、魔王配下、幹部ならエルダースケルトンのレベルは20~30と見積もっていいだろう。確かにこの町の冒険者じゃあ、敵わない相手だな。

 そもそもあのエルダースケルトンのストロンスはなんの為にこの町にやって来た? アイツは言った『本来であれば、このような町に興味は無い』と。なら、わざわざここに来る理由はなんだ? 遊びと言っていたがそれだけでここに来るとは考えにくい。


「……幹部のストロンスさん。少し聞いてもいいですか?」

「お、おい、カブキ。なにを聞くつもりだ?」

「なんだ人間、命乞いか? まぁお遊びだ、聞いてやろう」

「遊びってことは、俺たちを滅ぼしに来たわけじゃないんですよね? つまり魔王の命令ではなく個人的理由でここを訪れたと」

「ん? あぁ、まぁそうなるな。ここは辺境の町ゆえに、()()()()しかいないからな。遊びにはもってこいよ」

「あーそういうことか。つまり強い人間……例えば勇者一行と戦って、負けた腹いせにここを襲うと」

「ち、違うぞ! 幹部であるストロンス様がそんな真似をするわけないだろう」


 図星かよ。女神に続けてなんてわかりやすい反応なんだ、動揺が隠しきれていないのが丸わかりだ。とは言え……あっちにとっては遊びでもこっちにとっては死活問題なのは変わりない。

 ――けど、この隙を逃す手はないよな。


「みんな! 今だ攻撃するんだ!」

「な、なにぃ⁉ 卑怯だぞ!」

「なるほど、この為に話をしたってわけか。やるじゃねーか、カブキ」

「「 浄化魔法アンデッドクリーンアップ! 」」


 確かに俺たちがまともに戦って勝てる相手じゃない。けど、隙を突いての弱点特性の攻撃を一斉に浴びせれば大打撃になるはずだ。いくら実力差があっても数では俺たちのが多いんだ、手数で押せばなんとかなるはずだ。ここはRPGじゃないんだ、現実なんだ。実力の違いだけで勝敗が決まるわけじゃない。

 つまらなかった学生生活。その歴史の授業でもあったではないか、圧倒的に不利な状況においても勝利を収めた話は。


「アンデッドにとっては聖なる加護を持つ浄化魔法アンデッドクリーンアップは弱点――」

「カブキのおかげで弱ったぞ! 畳みかけるなら今だ!」

「――魔王軍、幹部であるこのストロンス様にも通用するとでも!」

「なっ⁉」


 弱ったところをさらに追撃を仕掛けるべく数人が襲い掛かったが、ストロンスは手にしていた段平(だんぴら)のような長剣を一振りし、数人を真っ二つにした。


「う、嘘だろ……あれだけのアンデッドクリーンアップを喰らっても平気だなんて……」

「確かに貴様らがいくら最弱の部類であろうと、あれだけの浄化魔法であれば効果はあるだろうな」

「じゃあ、なんで……」

「私に浄化魔法は通用しない。そう、聖属性に対して絶対の耐性を有しているからだ。魔王様に仕える者として恥じぬようにな」

「なんてこった、この町の冒険者が戦える相手じゃねぇ」

「だから言ったろ? ()()()だと」


 数人を一瞬で殺せるだけの強さを持ち、そして唯一の弱点を克服した相手にどう戦えばいいんだ。相手はたったの一人だと言うのに。

 奴の持つ絶対耐性の能力さえどうにか出来れば……ん? 待てよ……能力だとしたらなんとかなるかもしれない。俺の持つ《 借り入れ商売(TATSUTAYA) 》ならなんとかなるかもしれない。

 相手の能力を借りると言うことは別の言い方をすれば、相手はその能力を()()ってことじゃないのか。

 ならやってみるっきゃねぇよな。ここで死ぬより寿命を数年分縮めるのがマシだ。


「行けぇぇええ! 俺の借り入れ商売(TATSUTAYA)!」

「……なんだそれは? 何も起こらんぞ?」

「みんな、もう一度アンデッドクリーンアップだ!」

「でも――」

「いいから早く!」

「何度やっても無駄だ」

「「 浄化魔法アンデッドクリーンアップ! 」」

「はぎゃぁぁあああぁぁあああ⁉」

「アンデッドクリーンアップが効いてるのか⁉」

「悶絶してる⁉ 一体どういうことなんだ、カブキ?」

「俺が奴から絶対耐性を借りて、その能力を失わせたんだ!」

「ば、馬鹿な。本当に私の絶対耐性が失われたと言うのか⁉ だが甘い! 直接戦えばいい――」

「「 浄化魔法アンデッドクリーンアップ! 」」

「はぎゃぁぁあああぁぁあああ⁉」


 確かに、先ほどの剣の腕を見る限り俺たちでは近接戦闘で勝つことは不可能だろう。しかしだ、今は弱点であるアンデッドクリーンアップが効く状態にある。わざわざ、相手の土俵で戦う必要など無い。魔法なのだから遠距離攻撃で攻め立てればいいだけの話だ。

 全員して、一定の距離を保ちながら上手く立ち回りアンデッドクリーンアップを詠唱し続ける。


「ま、まさかな。貴様らのような雑魚に、この幹部であるストロンス様が倒されるとはな。だがしかし! 私は幹部の中では最弱! 私たち幹部の上には大幹部たちが控えている! さらにはその大幹部たちを束ねる四天王が――」

「浄化魔法アンデッドクリーンアップ!」

「はぎゃぁぁあああぁぁあああ――――――」

「いっっっよしゃああああ!」

「魔王軍、幹部を俺たちが倒したぞぉぉお!」

「すげぇぞ! カブキ!」


 魔王軍、幹部であるストロンスを相手に辛くも勝利を収めた。冒険者だけではなく、この町に住む人々が歓喜に沸く。だがしかし、この勝利は犠牲無くして掴んだものではない。だから、その者たちに哀悼の意を評して慰霊碑を後日、建てることになった。

 それでも九死に一生を得たことには変わりなく、死んでいった者たちを手厚く葬るとその日は朝まで宴が行われた。


 ――あぁ~……気持ち悪い。昨日、飲み過ぎたなこりゃ。まぁ、飲んだと言っても酒ではない。異世界とは言え未成年者の飲酒は違法となっている。しかし、さすがは剣と魔法のファンタジーな世界である、 “不思議な水” と言う飲み物が存在しているのだ。この水にはアルコールは無いのだが、酒と同じ様に酔うことが可能なのである。

 うぷっ……これが二日酔いってやつか、めっちゃ辛いなこれ。それでも酒――じゃないけど、仲間と共に酔いしれるのは楽しい。世のサラリーマンたちが、酒を呑む気持ちが少しだけわかった気が――


「オロロロロロロロ」


 もどしちまったぜ……そう言えば、()()で思い出した。

 あのストロンスとの戦いにおいて、俺は《 借り入れ商売(TATSUTAYA) 》の能力を使って奴から絶対耐性を借りた。それによって勝利を収めたわけだが、実際のとこどうなっているんだろうか。借りたのは事実であり、その代金である寿命は支払ったのだろうか、という疑問が残っている。

 本来であれば借りた相手に支払うべきものであり、支払うタイミングは返却時となっている。だからこそ、名前が《 借り入れ商売(TATSUTAYA) 》であると、あのムカつく女神は言っていた。

 が、しかしだ。その借りた対象が存在しない場合はどうなるんだ? レンタル料金を払うべき相手がいないのであれば、それはどうやっても払えない。つまりレンタル料金の踏み倒しとなるのではないか。

 だとしたら、この《 借り入れ商売(TATSUTAYA) 》の能力は相当なインチキ性能ということになる。


 しかし、俺は知っている。ここで調子に乗ると絶対あとで酷い目に遭う。

 なによりも俺の寿命が縮んでいないという確証はどこにもない。RPGとは違ってステータス画面があるわけじゃない。確認できる手段がない以上、こんな危ない能力を過信してはあっさりと死んでしまうに決まっている。

 だから俺は今回のようなことがない限りこの能力を絶対に使わない。普通に生活を送れればそれで良い、無理はしない。今の生活で満足だ。


「さて、今日もバイトに勤しむか」


 この小さな幸せで充分だ。そんなわけで、今日も日雇いバイトへと繰り出す。

 昨日の今日だけあって、町は賑わっていた。あんな危機的状況に陥ることなんて、これまでなかっただろうしな。その危機を脱したのだから喜びもひとしおだろうからな。

 浮かれるのも無理はないし、理解できるのだが……なぜか今日は妙に町の人たちから挨拶される。なんかやたらと視線も感じる気がするし、俺の顔がそんなに血色でも悪いのか? 心配されるほど飲み過ぎたのか。


 そんな妙なまま、今日の仕事現場である外壁前と着いた。昨日の戦闘によって町の外壁が一部壊れた為その補修が本日の仕事だ。そして以前にも世話になった親方に挨拶する。


「親方、今日も仕事よろしくお願いします」

「おっカブキか。仕事は確かに頼んだが、しなくてもよかったんじゃねーか? 真面目だなぁ」

「え? まぁ昨日の戦闘のあとですからね。疲れてますけど、仕事は仕事なので」

「は? なに言ってんだカブキ。お前さん大金を手にしたんだろ? しばらくは、その日仕事なんてしなくても大丈夫なはずだろ?」

「……親方、それはなんの話ですか?」


 奇妙なことほど続くものである。親方が突然、俺が大金を手に入れたなんて言い出す。もちろん、そんなことは無い。一日、一日をなんとか食い繋ぐのが出来る程度のお金しか所持していない。よくわからないので、親方になんのことなのか詳しく聞くことにした。

 話を聞いたところ、昨日戦ったストロンスを倒したことにより報奨金が出ているとのことだ。魔王軍の幹部である為にかなりの報奨金だと言う。


「なるほど、そういうことなんですね。それじゃあ、親方申し訳ないですが、今日は仕事は休ましてもらいますね」

「なぁに、気にすんなよ。なんたってカブキは町の英雄だからな!」

「なに言ってるんですか、そんなんじゃないですよ。それに町の英雄は戦った全員ですよ。俺はその内の一人に過ぎませんから」


 そんなわけで本日の仕事は休み、急ぎ冒険者組合(ギルド)へと向かう。

 そうか、そうか、だから冒険者のみんなは今日も浮かれていたわけか、報奨金で大金を手に入れたわけだしな。戦闘に参加した冒険者に分配されているみたいだし、ここは俺もありがたく頂戴しよう。これで少しは生活が潤う……いやいやここは無駄遣いしないで、質素倹約に努めるべきか。悩みどころだな。


 冒険者組合(ギルド)内に入ると見知った顔を見つける。向こうも俺を見つけたようで、テンション高めで絡んで来る。


「いっよぉ、カブキ! よかったなぁ大金が手に入ってよぉ」

「まぁな。これでなんとか生活に困らなそうだな」

「フッ……俺はカブキを初めて見た時から、この男は凄いことをやるって判っていたがな」

「な~にバカなこと言ってんだよ、二人して。さすがに浮かれ過ぎじゃないか?」

「カブキこそ、なに言ってんだよ。そんな謙遜する必要はないぜ」

「別に大したことじゃないだろ……」

「ヒュ~さすがはこの町の英雄さまだぜ!」

「おい、今の聞いたかみんな⁉」


 なんなんだこの騒ぎ様は。組合(ギルド)に居た他の冒険者を煽るなんて。大金が手に入ったから昼間から呑んでるのか? いくらなんでも騒ぎ過ぎだろ。ここに居るみんなだって報奨金が貰えたんだろ、そこまで大騒ぎするほどじゃないだろうに。

 組合(ギルド)内に設置された、待合所や会合の場でもある飲食スペースで昨日に引き続きどんちゃん騒ぎが始まる。おいおい、勘弁してくれ……俺は二日酔いなうえに金を受け取りに来ただけなんだからよ。

 まぁそれも仕方ないのかなぁやっぱ。この町の冒険者にとっては、あんな危機的状況に陥ったことないだろうしな。それは俺も変わらない――ただの高校生だった俺には危険とは無縁だったからこそ、その気持ちは人一倍に理解しているつもりだ。

 気の良い冒険者仲間たちと再び宴会へとなだれ込む。これも冒険者としての嗜みだろうし、これぞ醍醐味だよな。

 な~んてことを思いながら騒いでいたら、おもむろに組合(ギルド)職員のお姉さんがこちらに近づく。

 やばい……ちと騒ぎ過ぎたか。


「あのすいません。冒険者のカブキ=リョウシロウ様ですね?」

「へぇ~カブキって、そんなフルネームだったのか。今知ったわ」

「初めて会った時にちゃんと自己紹介しただろうが⁉」

「え、えっと……カブキ様に報奨金のお話が――」

「あっと、そうだった。それを貰いに来たんだった」

「細かい手続きは(のち)ほど致すとして。まずは感謝とこの報奨金300万チョロインをお受け取り下さい。この度は、町を救って頂きありがとうございます、カブキ様」


 待て待て待て……確かこの世界だと最低が1チョロインで、日本円だと1円相当になるんだったよな。300万円⁉ そんなに貰えるの⁉ そりゃあ、みんなが浮かれまくるわけだ。


「300万チョロインかぁ。でもこんなにお金払って組合(ギルド)の運営費は大丈夫なんですか?」

「え? えぇ、大丈夫ですよ。確かに報奨金としては大金ですが、カブキ様はそれだけの働きをしたと(みな)が認めていますから」

「俺なんて大したことしてないよ。しかし、それだけ感謝されるなんて冒険者冥利に尽きますね。それにしても、一人300万チョロインなんて、冒険者組合(ギルド)って儲かっているですね。転職しようかな」

「「 はぁ⁉ 」」

「え? なに? みんなしてどうしたの急に」

「そんなわけないだろうが!」

「300万チョロインなんてカブキだけに決まってんだろ⁉」

「へ? なんで俺だけそんな大金なんだ?」


 よくわからないが、どうやら300万チョロインという報奨金を貰ったのは俺だけらしい。その真相を確かめるべく、組合(ギルド)職員のお姉さんに聞いてみることにした。

 まず魔王軍、幹部であるストロンス討伐に参加した全ての冒険者には報奨金が支払われている。その平均額は、5~8万チョロインだと言う。そこでなぜ俺だけが高額なのかと言うと、討伐に際して最も功績を上げたのが俺であると判断された為らしい。どうやら、戦闘指揮を執った事とあの《 借り入れ商売(TATSUTAYA) 》の能力を使い絶対耐性を失わせたことに起因するとのことだった。

 けれどあの時は無我夢中だっただけで指示を出したつもりはない。それに、あんな寿命を縮めるなんて恐ろしい能力なんてもう二度と使うつもりはない。だからそこを評価されても困る。

 なのに周りの連中きたら “やんや、やんや” と囃し立てる。なるほど、だからやたらと俺を英雄扱いしていたわけか。

 ものすごく惜しいが……この大金を受けているわけにはいかない。これを受け取ればこれからも英雄として祭り上げられてしまう。そんなのはごめん(こうむ)る、俺は日々平穏に過ごしたいだけなんだから。


組合(ギルド)のお姉さん。少しお願いがあるのですが、いいですか?」

「はい、なんでしょうかカブキ様」

「俺のこの報奨金を町の為に役立てて欲しいんだ。今しがた、外壁の補修しているのを見て来た。だから、その資金として欲しい。それと今後もこんなことがあるかもしれないから、警備とかの強化にも役立ててほしい」

「え? え? 本当によろしいのですか? カブキ様には受け取る権利があるのですよ?」

「まぁ俺にも生活があるからね、さすがに全額とはいかないけど。頼まれてくれますか?」

「わかりました。カブキ様のお気持ちと共に、ありがたく頂戴致します」

「ひゃっほう! さすがこの町の英雄だぜ!」

「英雄の誕生にみんな乾杯しようぜ!」

「おいおい……勘弁してくれ」


 より一層盛り上がってしまった。みんな勘違いをしている、俺は自分の身を守る為に町の強化を願ったに過ぎない。そう町の守備が強化されれば、今回の様に俺が戦わなくて済むのだから。利己的な生き方を追求した結果に過ぎない。

 それに英雄扱いなんてまっぴらごめんだ。あんな冗談めいた危険な能力を頼られては、いつか俺は死ぬ――いや、町の人たちに殺されるも同然だ。


 だから俺は決心した! 異世界生活を満喫する為には、俺が戦わなくて済むように努力すると!







 ――だがしかし……俺が戦いを避ける努力をすればする程に、なぜか戦いの渦中へと巻き込まれていく。


 けど、それはまた別の話。




『異世界生活を満喫するために努力し続ける』~完~

最後までご愛読してくださり有難うございました。


本当はもう少し書こうと思っていたのですが、短編なのでこの文量で収めた方が良いと思いここまでとしました。

私としては、なかなかに気に入った話になりました。読んで下さった方はどうだったでしょうか。

とは言え、なろうにしては主流から外れた作品なのではないかと思われる方が多いのではないかと心配なんですけどね。

それでも私はこういったお話が好きです。

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