第83話 孤立した村39 生と死
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【カサルティリオ】を握りしめたハルトの体から炎が巻き上がる。それはやがて形を成し、炎の翼となった。
「うわ、なにこれ」
『これもまた第四罪が力の一つ『不死の翼』。転生してより数分間、主様に力を与えてくれるはずじゃ』
「そっか……ありがと」
『礼などいらんのじゃ。妾達は、もうすでにお主のものなのじゃからな』
ハルトの目の前ではリリアがまさにシアに止めをさそうとしている。直感的にわかる。リリアの手の力は、止めなければならないものだということが。
駆け出したハルトはリリアが掴んでいたシアの腕を斬り飛ばす。それによってシアの体を蝕んでいたリリアの死の力は体に到達する前に止まった。
「はぁはぁ……ハルト君? どうしてワタシを助けたの?」
「……違う。ボクは君を助けたわけじゃない。ただ今の姉さんに……誰かを殺してほしくなかっただけ」
「はは……優しいなぁ……ハルト君は」
それだけ言って意識を失うシア。リリアの死の力に完全に蝕まれることはなかったとはいえ、今のシアは生命力のほとんどを失っているといっても過言ではない状態だった。
しかし、今のハルトにはそれを気にしている余裕もない。ハルトがシアを殺すことを邪魔したせいか、リリアがジッとハルトの事を睨みつけていたからだ。今のリリアはハルトのことにすら気づいていない。
「姉さん!」
「ふぅ……ふぅ……敵を……潰す……オレの……敵を……」
『完全に呑まれておるのぅ。力が暴走しておるわ』
「どうやって止めたら……」
『ふふん、そんなのは決まっておるじゃろう。いうことを聞かぬ奴には、力ずくじゃ!』
「えぇ……」
『それしかないのじゃからしょうがないじゃろう。心せよ、来るぞ!』
「っ!」
リリアの体からあふれ出す圧倒的圧力。それを正面からうけたハルトは、普段どれだけリリアが手加減して訓練してくれていたのかということに気付く。今のハルトよりも強いことは相対しているだけでわかる。それでも不思議とハルトは怖くなかった。その胸にある思いはただ一つだ。
「待ってて姉さん、今ボクが助けるから!」
その言葉と同時、ハルトとリリアが同時に駆け出す。
「うがぁあああああああっ!!」
『来るぞ主様、避けるのじゃ!』
突き出された右腕を空中に飛んで避けるハルト。それを見たリリアがハルトに向けて腕を振るう。次の瞬間、ハルトの目の前にリリアが現れる。
「っ!?」
『翼を使うのじゃ!』
リオンに言われて、とっさにハルトは翼で体を覆う。ハルトに向けて突き出された右腕はその翼に阻まれる。そしてハルトは再び空へと飛びあがり、リリアから距離を取る。
『奴の右腕は死の力を内包しておるようじゃ。クハハ、生意気じゃのう。ヒトの身で死を操ろうとは』
「それよりもどうしたらいいか考えてよ。今のだってどうして姉さんがいきなり目の前に現れたのかわからないし」
『まぁおおよその予想はつくのじゃが。わかったところで対処できなければ意味が無いじゃろう』
「そうだけど」
『とにかく避けるしかない。隙を探るのじゃ。右腕の動きに注意するのじゃぞ』
「わかった」
空を飛び続けるハルトのことをジッと睨みつけるリリア。鋭い目で、チャンスをうかがうように。
『生を操る妾に死で挑もうとは……面白い、その挑戦受けてやろうぞ!』
「受けるのはボクになるんだけどね」
『もはや妾と主様は一心同体。つまり、妾が挑戦を受けるということは主様が挑戦を受けるということと同義なのじゃ!』
「横暴!」
などとリオンと言い合いをしている間に、再びリリアが腕を薙ぐように振る。その動きを見ていたハルトはかろうじて避ける。もし避けなければ先ほどと同じようにリリアの目の前に引き寄せられる結果となっただろう。
「早く止めないと」
『確かにあれほどの力、そう易々と使えるものではないじゃろうからな。しかし手はあるぞ』
「ホントに!」
『先ほどシアにしたことと同じじゃ。右腕に力が集中しておるならば、その右腕を切り落とせばよい。簡単じゃろう』
「そんなのできるわけないでしょ!」
『シアにはできたのにあやつにはできぬとは……甘ったれじゃのう。が、しかしそれもまた主様ということか。よかろう、ならばその願いを叶えるのが妾の務めじゃ』
「リオン……」
『今ならばまだ不死の力が働いておる。そのうちに決着をつけるのじゃ。なんとかしてあやつの動きを止めるのじゃ!』
「わかった!」
とは言ったものの、不用心にリリアに近づくわけにはいかない。掴まれるということがすなわち敗北を、死を意味するのだ。
「姉さん……きっとボクのせいなんだよね」
今のリリアは暴走している。それは力に呑まれているせいだけではない。悲しみに心が悲鳴をあげているのだ。ハルトを失ったという悲しみが、ハルトを守れなかったという自責の念が、リリアを暴走させていた。
「だから……だから、今度はボクが姉さんを助けるよ。絶対に!」
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【死姉】の力を使えば使うほどにリリアの意識はどんどん深くへと沈んでいくのを感じていた。沈みきってしまえば二度と戻っては来れないだろうということがわかっていながらリリアは特に抵抗する気になれなかった。もはや全てがどうでもよかったからだ。自分の命すらも。
「結局なにも……守れなかった……」
守ると誓った存在。大切な弟。ハルトを守り切ることすらできずに何が姉だとリリアは呟く。
「結局オレは……お姉ちゃんにはなれなかったんだな」
この世界にやって来て、ハルトと出会って。ハルトに相応しい姉になれるようにとずっと必死に努力してきた。最初はイルのように男っぽかった言葉遣いから直し、料理を始め、全てからハルトを守れるようにと武術にも手を出した。
全ては、ハルトが誇れる姉であれるようにと。
「でも……全部無駄だったな……」
《神宣》の時に告げられた《姉 (仮)》という職業。それが全てを物語っていたのかもしれないとリリアは自嘲する。
「もう……いいや。もう何も……見たくない、聞きたくないよ……」
リリアの心は闇に閉ざされようとしていた。
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次回投稿は5月16日18時を予定しています。




