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最強のキョウダイ  作者: ジータ
第一章
65/309

第64話 孤立した村22 リリアの決断

誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

 ゆっくりと迫って来るローワを前に、リリアは立っているだけで精一杯だった。むしろ立っていられるだけですごいのだ。ローワがリリアに使ったのは常人ならすでに昏倒していてもおかしくないような毒なのだから。


「まだ倒れない君の精神力には驚かされるよ。でも、安心するといい。すぐに楽にしてあげよう」

「黙り……なさい」

「もし君が私を殺すことができていたらこんなことにはならなかったのにね。君は、自分の甘さのせいで全てを失うんだ」

「私の……甘さ」


 言われて、リリアは頭を巡らせる。リリアの甘さとはなんだろうか。ローワを殺せなかったことか、それとも油断していたことか。


(もっと早くに人を殺すことに慣れていればこんなことにはならなかった? タマナさんを危険にさらすようなこともなかった? 私の……自分勝手な弱さのせいでこの事態を招いたっていうの? ……そうだ。私は誓ったはずだ。ハル君の前に立ち塞がる障害は全部排除するって。そのために必要なら……私は…私は……)


 毒のせいか思考が上手くまとまらないリリア。しかしその心は一つ、冷徹な判断を下そうとしていた。俯いたまま動かなくなったリリアを諦めたのだと思ったローワは止めを刺そうとナイフをかかげる。


「……『姉力』解放」

「姉力? うぉっ!?」


 耳慣れぬ言葉にローワが首を傾げるのと同時、突如としてリリアの体から溢れ出た力の奔流に耐え切れずに吹き飛ばされる。毒で立っているだけでやっとだったはずのリリアが地面に突き刺していた剣を抜き去る。


「いったい何が……これはいったい」

「そうだ……殺す。殺せばいい。何も遠慮する必要なんてない。敵は……全て殺す」


 リリアの目は虚ろになっており、正面に立つローワのことさえ視界には入っていなかった。ただ冷静に、自身の体を巡る毒のことすらも無視して敵を排除する方法を考えていた。

 意識がはっきりとしていないせいか、リリアは姉力を抑えることができずに、まるで暴風のように周囲に荒れ狂っていた。


「ふはは、面白い。面白いですよリリアさん。まさかこんな力を隠し持っているとは!」

「…………」


 ローワの言葉にリリアは答えない。リリアの姉力がゆっくりと剣に纏わりつく。この時に至って、リリアは魔力と同じように姉力を扱えるようになっていた。

 不意にリリアが顔を上げたかと思うと、その姿がこの場から掻き消える。


「ぬっ!」


 ローワがその攻撃を避けることができたのはリリアの体に毒が回っていた影響か、それともただ単純に運か。ローワの頭上すれすれを通っていった剣は紛れもなく殺意のこもった一撃だった。

 剣を振り切った瞬間がチャンスだと思ったローワはがら空きになった胴体にナイフを突き立てようとする。が、しかし、


「バカなっ!」


 驚愕に目を見開くローワ。それもそのはずだ。リリアの体に刺さるはずだったナイフを、リリアが素手で掴みとっていたのだから。そのままリリアは刀身を握る手に力を込めて刃を握り潰す。毒が塗ってある刀身であるということにもお構いなしに、だ。リリアも無傷とはいかず手を切っていたが、今のリリアにはそれすらどうでもよいことだった。


「ナイフを素手で握り潰す? どれだけ常識外なんですか君は!」

 

 潰されたナイフを捨て、リリアから距離を取るローワ。しかしリリアはそれを許さない。すぐに距離を詰めて連続で剣を振る。リリアの攻撃は木ごと切り裂く。それは先ほど使った『木裂衝』とは違う。ただただ姉力でのごり押しだ。リリアの強大すぎる姉力に耐え切れず、リリアの持つ剣は少しずつ自壊を始めていた。


「くはは! ですがこれは避けれますか!」


 ローワが放つのはリリアが見破ることができなかった技だ。しかし今のリリアにはその技が見えていた。ローワが振るった攻撃をリリアは掴む。


「それはもう効かない。今の私には……全部見えてる」


 リリアはローワの技を『姉眼』を通して見破っていた。ザガンの使った『幻影剣』と同じ。わかってしまえば単純なタネだ。リリアが剣に魔力を纏わせていたことの応用。ローワはナイフの先端に魔力を集中させることで刃を伸ばしていたのだ。見えざる魔力の刃。それがローワの技の正体だった。だから、見えている部分だけ避けたリリアは傷とつけられたのだ。戦い慣れていればいるほど、攻撃をギリギリで避けようとしてしまうから。

 そのタネがわかれば怖いことなどなにもない。リリアは剣でローワのナイフを叩き落とす。そして剣の柄の部分をローワの腹に叩きこみ、吹き飛ばす。


「ぐはっ!!」


 木に叩きつけられたローワは一瞬息ができなくなるほどの衝撃に襲われる。形成は逆転した。先ほどとは違い、今度はリリアがローワに止めを刺そうと近づく。

 しかし、命の危機であるというのにローワは薄くニヤリと笑う。


「そうですか……ここに来て君は殺す覚悟を決めたということですか。くくく、面白い非常に面白いですよ。さぁ私を殺しなさいリリア・オーネス!! そしてあなたも、私の同類となるのだ」

「…………」


 リリアはゆっくりと剣を振り上げる。ローワは抵抗する素振りすら見せない。今まさにヒトを殺そうとしているというのに、リリアの瞳はなんの感情も写さない。

 そのまま剣を振り下ろそうとしたその直前のことだった。


「ダメ……です」


 か細い声が聞こえ、リリアは剣を振り下ろそうとしていたその手を止める。その声の主は、気絶していたはずのタマナだった。まだ意識ははっきりとしていないのか、フラフラとしながらもタマナは立ち上がっていた。


「そのヒトを……殺しちゃ、ダメです」

「おやこれはタマナさん。まさかもう目を覚ますとは。毒の量が少なかったですかな」

「おかげさまで。夢見は最悪でしたけど。リリアさん、その剣を降ろしてください。あなたが、彼を殺しちゃいけないんです」

「何を今さら。彼女は決断をしたんですよ! 守るために殺すと! 私はその記念すべき第一号となる。これほどの力だ。彼女はこれからも屍の山を築きあげることができるでしょう。私はその礎となるのだ!」

「黙ってください! リリアさん、今振り下ろそうとしている剣の意味を、本当にわかってますか」


 タマナが意識を取り戻した時、リリアの姿が目に入りすぐにまずいと思った。今のリリアは非常に危ういと。

 自分に簡単な治癒の魔法をかけながら、タマナの意識は少しずつはっきりしていく。


「敵を排除する。そのために殺す。それを一緒に考えないでください」

「殺せる者と殺せない者、どちらがより強いかなど明白でしょう? それともタマナさん、あなたはこれからさきもずっとそんな綺麗事を言うつもりですか? そうして殺さなかったばかりに自分が殺されてもしょうがないと、そう言うつもりかな」

「綺麗ごとでもなんでも、言い続けないと叶わないんです! あなたが選ぶ道はそんな道ですかリリアさん! それをハルト君が本当に望むと思っているんですか!」

「っ!?」


 ハルト、その名にリリアの目に動揺が浮かぶ。


(ハル君を守る。そのために殺す……そう決めた。でも、それは本当に正しいの? ハル君は、本当にそんな私を望んでるの? ……違う。ハル君はそんな私を望んでるはずがない)


「私の知ってるリリアさんは、ハルト君のために無理を押し通して道理を退ける人です。なら、きっとできるはずなんです。それがリリアさんなんです!」


 タマナの言っていることに根拠など何もない。ただの精神論だ。それでもそのタマナの言葉が、リリアに勇気を与えてくれた。

 リリアは振りかぶっていた剣を降ろし、『姉力』を解除する。

 それを見てローワは明らかな落胆のため息を吐く。


「愚かな。ここで私を殺さなかったこと。いずれ必ず後悔することになりますよ」

「では……そんな日が来ないようにこれからも強くなり続けることにしま……す……」

「リリアさん!」


 最後まで言い切ることができず、リリアはその場に崩れ落ちる。タマナは慌ててリリアに駆け寄る。


「私の毒が本格的に効いてきたようですね」

「毒!?」

「くくく、手遅れに……ならないと、よいです……ね……」


 そしてそのままローワも意識を失う。リリアの攻撃が相当に効いていたらしい。

 意識を失ってしまったリリアとローワ。残されたのは未だ飲まされた薬の影響が抜けきっていないタマナ一人だけ。


「私にどうしろっていうんですかー!!!」


 タマナの叫びがむなしく森に吸い込まれて、そして消えていった。



今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク&コメントしていただけると私の励みになります!

それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は4月20日18時を予定しています。

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