第61話 孤立した村19 守りたいもの
もっともっと語彙を増やさなければと思いつつ、なかなか勉強が進まないのです。
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
目の前に迫るロックゴーレムの巨腕。しかし、体勢を崩してしまっているハルトはその攻撃に反応できなかった。迫る死の気配を感じながらも体は動かない。
「ハルトォッ!」
思わずイルが叫ぶが、それだけでロックゴーレムが止まるはずもない。一瞬が永遠に感じられるような、そんな感覚を味わいながらもイルはただ見ていることしかできない。そのことが何よりも悔しかった。無力さを痛感しながら、けして届かないハルトに向かって手を伸ばす。
しかし、確定しているはずだったハルトの死は、ロックゴーレムの腕が不自然に逸れたことで免れることとなる。どこからか飛来した石が、ロックゴーレムの腕に当たったことで軌道がずれたのだ。
その結果として、ハルトはかろうじて攻撃を避けることに成功する。それでも余波は避けきれず、衝撃でハルトは吹き飛ばされ壁にぶつかってしまう。
「ぐぁっ!」
肺の中の空気が押し出され、あえぐハルト。イルは走ってハルトの元まで駆けつける。ゴホゴホと咳をするハルトを動かして、少しでもロックゴーレムから引き離そうとする。今のイルの体格ではそれすらも難しく、改めてイルは自分が無力な存在になったことを感じてしまう。
「くそ、ハルトも運べないかよこの体は」
「ご、ごめんイルさん」
「いいから黙ってろ。あと、あんまり無茶なことすんじゃねーよこのバカ! お前に何かあったらオレがリリアに殺されるだろうが」
「はは、そうだね……ごめん」
「それにしても、どうすんだよあいつ。このままじゃやべーだろ」
「そうだね……どうしよっか」
「考え無しかよ」
「ロックゴーレム……か。どうやったら勝てるのかな」
「なんだ、勝つ気あるのかよ」
「そりゃね。じゃないとここから出れそうにないし」
「それもそうだな。でも、現実問題オレらにできることなんてないぞ」
「ボクの木剣もそろそろ限界みたいだしね」
そう言ってハルトは手に持った木剣を見る。先ほどロックゴーレムに『地砕流』を叩き込んだ時、罅が入ってしまったことには気づいていた。次に全力で殴れば砕けるだろうことは想像に難くない。いくら魔力で強化するといっても限度はあるのだ。ゴブリンと戦ったときにも一度全力で『地砕流』を放っているのだ。その時点から耐久力は大幅に落ちていたのだろう。
「あと全力で撃てるのは一回だけかな」
「あと一回の攻撃であのロックゴーレムを仕留めるとは思えないな」
「そもそも全然効いてないしね。何か弱点みたいなものがあればいいんだけど」
「弱点……か」
イルは自身の持つ知識を総動員してロックゴーレムのことを思い出そうとする。家に居た頃、勉強として様々な魔物について勉強させられたことがあった。といっても、それほど真剣に勉強していたわけではないため、覚えていることは少ないのだが。
「そうだ、ゴーレム系のモンスターには核となる部分があったはずだ。そこが弱点だ」
「そうなの?」
「あぁ、だから核を見つけて……見つけて……」
「どうやって見つけよっか」
パッと見てもロックゴーレムの弱点である核の部分は見つからない。そうこうしている間にロックゴーレムはゆっくりとハルト達のいる方向に近づいて来る。
「とにかく一回距離取るぞ。このままここにいても意味がない」
「でもこのまま逃げててもジリ貧だよ」
ハルトのいうことも最もで、この密閉された空間では逃げ続けることにも限界がある。やがて体力が尽きるのは明白だ。ロックゴーレムには体力という概念があるかどうかすら定かではない。
「…………」
このままでは負けることは確定。イルは打開策を考える。リリア達が助けに来るまで逃げ続けるということも考えたが、そもそもどこにいるのかということをリリア達は知らない。それでもリリアならハルトのことを見つけ出しそうなのが怖い所だが、それまでハルト達がもつとも限らない。
結局の所、一番現実的で最も難解な方法であるロックゴーレムを倒すという手段をとるしかないのだ。
「オレが……なんとかする」
「なんとかって……どうするの?」
「それは今から考える」
「えぇ!?」
「でも絶対になんとかする。こんな所で終わってたまるかってんだ。魔法……使えるようになりゃいいんだろ」
イルが思いついたこの場を打開するためにたった一つの方法、それはイルが魔法を覚えるということだ。
「魔法を覚えるって……そんなことできるの?」
「できるかどうかじゃない。やるんだよ」
アウラは言っていたことをイルは思い出す。
「私達《聖女》の使う魔法はね、《魔法使い》達が使う魔法とは少し違うの」
「そうなのか?」
「誰かのためを思ってはじめて私達の魔法は発現する。だから、あなたが誰かを守りたいと思った時に使えるようになるわ」
「じゃあ一生無理だな」
「そんなことないわ。きっといつか……使えるようになるわ。あなたは《聖女》なんだから」
(誰かを……守る。そんな気持ちオレにはわからない。でも、そんなオレでもこいつらのことを死なせたくはない……なんて、オレらしくないな)
気付けば芽生えていた自分の想いに思わず自嘲するイルだが、それは偽らざる想いだ。もちろん本人たちには口が裂けても言えないが。
(【聖魔法】を……今ここで使えるようにする。それしか方法はねぇ)
迫りくるロックゴーレムを前に、イルはそう決意を固めるのだった。
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次回投稿は4月15日21時を予定しています。