第52話 孤立した村 10 次なる犠牲者
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殺人犯を取り逃してしまったリリアとタマナはそれからしばらく森の中を探し続けたものの、結局もう一度犯人を見つけることが出来ずに帰ることになってしまった。
「もう囮作戦は使えませんね」
「そうですね。あそこで捕まえられませんでしたから」
「すいません。私がもっとしっかりしてれば……」
「そう自分を責めないでください。しょうがないこともあります。かなりの手練れって感じでしたし」
「そうですね。それに……名前が見えませんでした」
「名前が? どういうことですか?」
「【姉眼】で名前を見ようとしたんです。でも、何かに阻まれたみたいに読めなくて」
「それはもしかしたら……何らかの阻害アイテムを持ってたのかもしれませんね」
「そんなのがあるんですか?」
「はい。あまり普通に出回ってるものではありませんけどね。自分の身分とか、《職業》を隠したい人が使うアイテムです。カミナ様は己を偽ることを良しとしていないので、あまり勧められたものではないんですけどね。それを使えば《鑑定士》のもつ【鑑定眼】や他の眼系のスキルからも《職業》や名前を隠すことができるみたいです」
「少し耳が痛い話ですね」
「あ、ごめんなさい! リリアさんのことを言ったわけではないんです!」
リリアはまさに職業を偽っているヒトだ。タマナの言うように、それは褒められた行為ではないし、バレれば非難される行為だろう。それがわかっているからこそ、タマナの話はリリアにとって耳が痛いものだったのだ。
「まぁ、今さらしょうがないのでいいんですけど。それより、他の眼系のスキルってあるんですね。あんまり他の職業のスキルについては知らなくて」
「そうですね。色々ありますよ。さっきも言った【鑑定眼】もそうですけど、《騎士》の人が得ることができる【心眼】。《賢者》の人が得ることができる【千里眼】とかも。種類はいっぱいです」
「私の持つ【姉眼】もその一つというわけですか」
「はい。それぞれ効果は全然違いますけどね」
「なるほど」
「それよりも、これからどうしますか? この囮作戦が使えないとなるとだいぶ痛手だと思うんですけど」
「そうですね……確かに囮作戦は使えなくなりましたけど、まったく手掛かりがないわけじゃありません」
「そうなんですか?」
「さっき戦った時、確かに手ごたえがありました。おそらくですけど、犯人は腕を怪我しているはずです」
リリアは犯人と戦っていた時、振るった剣が腕に当たった感触があった。深い傷ではないものの、それは犯人を見つけるのに役立つだろう。
「腕を怪我しているヒトがいればその人が怪しいというわけです」
「でも服とかで隠してると思いますよ?」
「無理やり確認するしかないですね」
「えぇ……」
そして次の日の朝の事。ローワがハルト達の元へとやって来て言った。
「また……殺されたよ」
ローワに連れられてやって来たリリアとタマナが目にしたのは、昨日リリア達が話しかけた商人の死体だった。そして、その隣には昨日と同じようにメッセージの書かれた紙があった。
『残念だったね。次は誰かな?』
それは明らかにリリア達に対する挑発だった。リリアは思わず手に持った紙をくしゃくしゃに握り潰す。
「ふざけたことを……」
「君達が怒るのも無理はない。私もはらわたが煮えくり返る思いだ。こんなことをした犯人を絶対に捕まえてみせるよ」
「……はい。そうですね」
目の前の商人の死体を前に、リリアは昨日捕まえることが出来ていればという気持ちに襲われる。しかし、たらればの話を考えている暇はないと気持ちを切り替える。
「次に会ったら絶対に捕まえる……覚えてなさい」
決意を込めてリリアはそう呟いた。
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「姉さん、大丈夫かな」
リリア達が出て行った後、ハルトは呟く。
「大丈夫って今さらなんだよ」
「タマナさんが言ってたでしょ。昨日犯人を見つけたけど逃げられたって。姉さん、あんまり気負い過ぎてないといいけど」
「それは結局あいつ自身の問題だろ。オレらが心配したってしょうがねぇよ。それに、あいつの傍にはタマナもいるんだし、大丈夫だろ」
「……そうだね。信じよう」
「それよりも今日はどうするよ。また東の森まで行くか? 一応タマナには出かけるかもとは言ってあるけど」
「そうだね。結局昨日はちゃんと探せてないし、行ってみてもいいかもしれない」
「よし、じゃあもう一回行くか」
「二人ともどこか行くの?」
ハルトとイルが出かける準備を始めていると、シアがひょっこり顔を出して聞いて来る。
「あぁ昨日の花畑にな」
「そうなんだ……あのー、私も一緒に行っていいかな?」
「なんか用でもあんのか?」
「うん、昨日ちょっと忘れ物しちゃったみたいで」
「それぐらいならボク達で取って来るけど」
「ううん、ちょっとどこにあるかわからないからさ。一緒に行けるならその方がいいかなって。あ、もちろん迷惑ならいいんだけど」
「別に大丈夫だろ。それくらいならすぐだろうし。オレらもちょっと確認するくらいだからな」
「まぁ、イルさんがそう言うなら。でも、何かあったらすぐに逃げてね」
「うん、わかってる。ありがとね、二人とも」
「まぁついでだしな」
「それじゃ行こっか」
そしてハルト達が家を出ようとしたその時、シアの家の扉が無遠慮に開かれる。
「邪魔するぞ」
そこに立っていたのは、帝国騎士のウェルズであった。
思いもよらぬ来訪に、ハルト達はただ立ち尽くすことしかできなかった。
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次回投稿は4月3日21時を予定しています。