第45話 孤立した村 3
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その死体を発見したのは村の娘だった。
発見場所は村の近くにある水くみ場。いつものように朝の水くみにやって来たその時に発見したのだ。しかも、その人数は三人。いずれも男性だった。
その知らせを聞いたリリアは、ハルト達を家に残し知らせに来たローワと共に発見場所へと向かうのだった。
「朝早くからすまないね。ここが死体の発見場所だよ」
「今度の死体は三人ですか」
「しかもメッセージ付きと来た」
ローワは死体の傍に置いてあった紙を拾い上げる。『私はこの村の中にいる』。メッセージには簡潔にそう書かれていた。
「村の中にいる……つまり、逃げる気はないということでしょうか」
「そうだろうね。できれば村人には被害を出したくなかったんだけど……まさかこんなに早くもう一度動くとはね」
「そうですね。もう犯人が逃げているかとも思ったんですが、この様子だとそれもないでしょう。死体を確認してもいいですか?」
「あぁ、でもなるべく早くしてくれ。彼らの家族が来る前に……ね」
「わかりました。それと、一つ聞きたいんですけど」
「何かな」
「この人たちって……昨日サルドの死体を運んできた人たちですよね」
「あぁそうだね。彼らはこの村でも指折りの力自慢だったんだけど……まさか三人まとめて殺されるとはね」
「なるほど。わかりました」
話ながらリリアは手早く死体の確認をする。することは単純で、昨日のサルドの死体の傷との比較だ。サルドの死体には多くの傷があった。しかし、この死体は違う。戦い慣れているリリアだからこそ気付いた。
(……綺麗に殺され過ぎてる)
三人の死体の傷には無駄がなかった。三人とも、一撃で殺されている。一人は首を切られ、一人は胸を刺され、そして最後の一人は脳天を貫かれている。それは、普通の人ではできないことだ。サルドの死体とは違い、足の腱を切って動きを封じてからというわけでもない。
「この村に戦い慣れている人っていますか?」
「? いや、いないね。私も含めてだけど、魔物とすら戦ったことのある人は少ないんじゃないかな。いるとしたらそれこそこの三人くらいだよ。この村には不思議と魔物が近寄ってこないからね」
「なるほど……」
はっきり言ってしまえば、リリアはこの三人のことを疑っていた。昨日のウェルズ達がハ人をさがしていた時の反応。あの怯え方が普通ではないと思っていたから。しかし、その考えはこうしてあっさりと否定されてしまったわけだが。
(つまり、この三人を殺せる可能性があるのは私と、帝国の騎士達くらい……というわけね。でも帝国の人たちにはこの人たちを殺す理由が無い。メリットがない。このメッセージの意味も不明。どうしてわざわざ居ることを私達に教える必要があるのか……怖がらせたいから? でもこんなことをしたら無駄に警戒心を高めるだけなのに)
残された手掛かりをもとにリリアは頭を働かせる。メッセージの意味、死体の傷、そして発見場所……しかしどれだけ考えても犯人に繋がるような閃きはなかった。
(犯人は私達のことを挑発してる。見つけれるものなら見つけてみろって。このまま放っておいたらきっとまた殺人が起きる。せめて誰が狙われるかわかれば……でも、この村は小さいと言っても百人以上はいる。私一人でその全てをカバーはできない。こうしている今も村のどこかで犯人は次の相手を探しているかもしれない)
考えても見つからないなら相手のアクションを待つ方が賢明だとリリアは思っている。動くのは相手にとってもリスクある行動なのだから。しかしその結果また誰かが殺されては意味がない。この犯人が何を考えているのかリリアにはまったくわからなかった。
「リリアさん、ローワさん!」
思考に耽るリリアのもとにシアがやって来る。相当慌ててやって来たのか、はぁはぁと荒く息を吐いている。
「シアじゃない。どうかしたの?」
「いえその……もしかして邪魔しちゃいました?」
「そんなことはないけど。何か用かしら」
「いえ、もうすぐ彼らのご両親がこちらに着くそうで。父も母も一緒来ます。それで、もうすぐ着くと伝えるように言われまして」
「そうわかったわ」
「彼らが……今回の殺された人たちなんですね」
「えぇ。知り合い?」
「少し。何度か診療所に来たこともありましたから。その時に。あまり話したことはないですけど。気の良い人たちだと思ったんですけど」
そう言ってシアは跪き、静かに手を合わせる。
「どうか安らかに……助けてあげられなくて、ごめんなさい」
「…………」
その様子をリリアはジッと見つめる。鎮魂の祈りを捧げるシアの様子は心から彼らの安寧を望んでいるようにリリアには感じられた。
「すいません。考え事の邪魔をしちゃったみたいで」
「ううん。それは別に大丈夫よ」
「それでその、彼らのご両親、相当動揺してるみたいで、リリアさんはここにはいない方がいいかもしれないって言ってました」
「……そう、わかったわ」
もしこのままこの場にいれば、昨日のように、昨日以上にリリアに非難の目が向けられるかもしれない。リリアもそれはわかっていた。人は往々にして精神が弱ると攻撃的になる。自分の心を守るために怒りをぶつける対象を求める。そして、今の現状において、一番責めやすいのはよそ者であるリリア達だ。
「それじゃあローワさん、私はここで戻ります。また何かわかったことがあれば教えてください」
「あぁ、わかったよ。君達もまだ朝とはいえ、十分に気を付けるんだよ。一人では行動しないように」
「はい。わかりました」
「それじゃあ私も一緒に戻りますね」
そしてリリアとシアは途中で出くわすことのないように別の道から家へと戻る。その道中でシアがポツリと呟く。
「私、両親の仕事に憧れてたんです」
「え?」
「《治癒士》っていう、人の怪我や病気を治せる職業。小さい頃から村の人に頼りにされてる姿を見てきて、いつか私も《治癒士》になるんだって……でも《治癒士》は死んだ人までは治せない。心の傷も、癒せない」
「…………」
「どうしようもないことだっていうのはわかってるんです。でも、それが悔しくて……」
今までは死に直面するような場面がなかった。それほどに平和な村であったから。しかし、人の死を目の当たりにして、それはけして当たり前ではないのだということをシアは知った。
「あはは、何言ってるんでしょうね。まだ私なんて血を見ただけで気分が悪くなっちゃうくらいに新米で、《治癒士》としてもできることなんてほとんどないんですけど」
「そんなことはないわ」
「え?」
「確かに人の死をいうのはどうしようもないことよ。たとえ神であっても救うことはできないでしょう。でも、あなたのその優しさがあれば、人の心は救うことができる。人の心に寄り添える《治癒士》に、いつかきっとなれるわ」
「……ありがとうございます」
「まぁだからってハル君は渡さないけどね」
「えぅあっ! な、ななな何の話ですか!」
「別に、なんでもないわ。一応言っておくだけ」
あわあわと慌てるシアを尻目に、リリアはこれからどう動くかを考えながらハルト達の待つ家へと帰るのだった。
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次回投稿は3月24日18時を予定しています。