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最強のキョウダイ  作者: ジータ
第一章
41/309

第40話 平穏な一日

誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

 ハルト達がダミナへやって来た次の日。イルはいつもよりも早く目を覚ましていた。


「ん……」


 窓から差し込む朝日の眩しさに目を細めながら、イルは未だ眠気を訴える体を無理やり起こす。


「う~ん……もう食べれませんよぉ……えへへ」

「……どんな夢見てんだこいつ」


 隣のベットで眠るタマナはイルが起きたことに気付くことはなく未だ眠りこけている。それどころか、夢まで見て涎をたらしている。呑気に眠りこける姿に少しだけイラっとしたイルは一瞬たたき起こしてやろうかとも考えたが、このまま眠らせておいたほうが結果的には静かだろうと思い直してとどまる。


「はぁ、もう一回寝るって気分でもなくなったし起きるか」


 部屋にかけられた時計の時刻は朝の七時前。本来のイルであればあと一時間は寝ていただろう。といっても、神殿に来てからはアウラに朝早く起こされることも増えていたのでしんどいということもないのだが。

 逆にタマナは本来なら起きていなければいけない時間だ。しかし、今はハルト達についている。寝坊しても起こる厳しい上司はいない。その安心感がタマナを深い眠りにつかせる原因になっていた。

 一応寝ているタマナのことを気遣ってあまり足音を立てないように部屋を出たイルは顔を洗うためにそのまま洗面所へと向かう。しかし、そこには先客がいた。


「あ、イルちゃんだー。おはよー」

「……おはよ」


 そこにいたのはシアであった。しかし、シアも寝起きなのか未だ目は開き切っておらず、どこかフラフラとしている。


「もう起きたの? 早いねー」

「お前も起きてんじゃねーか」

「私は家の手伝いがあるから……うー、でも眠たいよー」

「はっ、そりゃ大変だな」

「慣れないといけないんだけどねー。そういえばイルちゃんはどうして起きたの? 何か用事? あ、ここ使っていいよ」


 顔を洗ったことで少しだけスッキリしたのか、先ほどまでより少しシャキッとした表情でシアはイルに場所を譲る。


「ただ起きただけだよ。二度寝する気にもならなかったからな」

「そうなんだ」

「あの二人もまだ寝てるのか?」

「ハルト君とリリアさんのこと? あの二人ならそこにいるよ」


 そう言ってシアは洗面所の窓の外を指さす。そこには少し開けた場所になっていて、その中心にハルトとリリアの姿はあった。

 何をしているのかといえば稽古である。お互いに木剣を持ち、打ち合っている。ほとんどはハルトがリリアに吹っ飛ばされているだけなのだが。それでもハルトは何度も立ち上がり、リリアに向かっていく。いつもはハルトに甘々なリリアもこの時ばかりは容赦なくハルトのことを叩きのめしている。いつもイルが気付いていなかっただけで、これは神殿を出てからもずっと続けていたのだろう。


「お母さんが言うには五時くらいからずっとやってるらしいよ。すごいよね。ハルト君も真剣な表情で……カッコいいなぁ」

「…………」


 稽古をする二人を、というよりハルトのことを見つめて少しだけ頬を赤らめるシア。


「お前……あいつのこと好きなのか?」

「へぇっ!? な、ななななんの話かなぁ」

「いや、わかりやすすぎるだろ」


 ものの見事にうろたえるシア。予想通りといえば予想通りの反応にイルは呆れた視線を向ける。


「あいつのどこがいいんだよ」

「えぇ……言わなきゃダメ?」

「いや、別にいいけど。そんなに興味あるわけでもないし」

「聞いといてそれは酷いよイルちゃん!」

「言いたくないんじゃないのかよ」

「それはさぁ、ほら、あるじゃない。いったん言い渋って……みたいな会話の流れがさ」

「いや知らねぇよ。言いたいのか言いたくないのかどっちなんだよ」

「……言いたい、かな?」

「はぁ、じゃあさっさと言えよ。聞き流すから」

「そこはちゃんと聞いてよー。まぁいいや。私とハルト君はね、《神宣》の時に出会ったの。その時にその……ちょっと男の人に絡まれちゃってね」

「あー……そうなのか」


 まさかその絡んできた張本人が目の前にいるとはシアも思わないだろう。イルはそんなシアの話をなんとも言えない表情で聞いている。


「すごく怖くて、泣きそうだったんだけど……その時に、ハルト君が助けてくれたの」

「…………」


 その時のことはイルもよく覚えている。その日の朝、家でひと悶着あったイルはその気分のまま《神宣》へとやって来て……期待や希望を持っている新成人達を見て、どうしようもなく腹が立ったのだ。そして、ただ目の前にいたシアにいちゃもんをつけたというわけだ。別にこれといって深い理由があったわけではない。そんなイルの前にハルトは現れたのだ。


「他の人は見ない振りをしてるばかりだったのに、その中でハルト君だけが唯一助けてくれたの。それが嬉しくて、カッコいいなって思ったの。こんなので好きになる」


 つまり、元をただせばイルがシアに絡んだことが原因であったというわけだ。そのことを知ったイルはなんとも言えない気持ちになる。


「それだけかって言われちゃうとそれだけなんだけど……私にとっては特別な出来事だったからさ。だから、今回ハルト君が家に来てくれてすごくドキドキしてるし……嬉しい」

「ふーん、なるほどな」

「イルちゃんは?」

「は?」

「その……ハルト君のことどう思ってるの?」

「どうって聞かれても……どうもこうもねーよ。別になんとも思ってねーし」

「ホントに?」

「なんでそんなことで嘘吐くんだよ。だいたいオレは——」


 男だ、と言いかけたイルはすんでの所で言葉を飲み込む。ハルトにも言われたことだが、あまり言いふらすべきことではないのだ。

 しかし言いかけたまま言葉をやめては不自然になってしまう。イルは必死に頭を働かせて言葉を発する。


「だ、だいたいオレはナヨナヨしたやつは嫌いなんだ。もっとしっかりした奴じゃないとな」

「そっか。そうなんだ。良かった。もしイルちゃんまでハルト君のこと好きだったら勝てないもん」

「あ、なんでだよ」

「イルちゃんすっごく可愛いし。言葉遣いはちょっとあれだけど。慣れたらそれも愛嬌って感じするし。昨日もなんか二人でコソコソ話したりしてたから」

「別にハルトとはなんもねーよ。この旅にも無理やりついてこさせられただけだからな」

「私はハルト君と一緒に旅できるの羨ましいけどなー」

「はぁ、代われるなら代わってやりてぇよ。ホントにな」


 心の底からそう思うイルだが、イルの《職業》のことも考えればそうもいかないのだろう。それを考えただけでイルは少し憂鬱になる。


「ま、ハルトのことを好きなのはいいけどよ。あいつにはあれがいるからなぁ」

「あれ?」

「あれ」


 イルが指さすのはハルトと共に稽古しているリリアだ。あのリリアの性格を考えればハルトに恋人ができることなど許容しないだろう。近づくだけでもキレるかもしれない。


「あー……」


 リリアのハルト溺愛ぶりはシアも知っている。《神宣》の時もハルトのことで神殿に乗り込むような人なのだから。


「ま、せいぜい頑張れよ」

「なんでそんなにどうでもよさそうなのー」

「どうでもいいからだよ」

「酷いっ!」

「そういえばさ、オレらって朝ごはんどうしたらいいんだ?」

「あ、それならお母さんがサンドイッチ作ってたよ。起きたらすぐに食べれるようにって。あ、そうだ。ちょうどいいしハルト君達のことも呼んできてよ。私リビングに持っていくから」

「おう、わかった」

「それとイルちゃん」

「なんだよ」

「朝ごはん食べ終わったらハルト君も誘って一緒にお出かけしようね」

「はぁ? なんでだよ」

「今日は何も予定ないんでしょ? イルちゃんも一緒ならリリアさんも怒らないだろうし。それじゃあ決まりね」

「あ、ちょ、待てよ!」


 イルの返事も聞かないままタマナはさっさとキッチンへと向かってしまう。


「……はぁ、やっぱオレついてねぇ……」


 誰もいなくなった洗面所でイルは小さく呟いて、がっくりとうなだれた。


今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

ブックマーク&コメントしていただけると私の励みになります!

それではまた次回もよろしくお願いします!


次回投稿は3月17日18時を予定しています。

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