第28話 ゴブリンの巣 前編
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ザガンへの挨拶を終えた後、リリア達は街のはずれにある森の中へとやってきていた。イルは未だ二日酔いでダウンしているので、来ているのはリリア、ハルト、タマナの三人である。
日中であるとはいえ、薄暗い森の雰囲気にタマナは若干の怯えを見せていた。
「暗いですねー。もっと明るかったら歩きやすいのに」
「ホントに……伐採してやろうかな」
「それはダメですよリリアさん!」
「冗談ですよ。本気にしないでください」
「ならいいんですけど……」
ホッと胸を撫でおろすタマナ。リリアは冗談だと言ったが、止めなければ実行してしまいそうなほどの本気をリリアの発言の中に感じてしまったのだ。普段のリリアならばそんなことは言わないだろう。しかし、今のリリアは若干不機嫌である。何をしてもおかしくないとタマナは感じていた。
「姉さん、いい加減機嫌直しなよ」
「別に機嫌が悪いわけじゃないわ」
そういうリリアだが、その声音は明らかに不機嫌だ。そしてその原因は、ザガンからの頼みごとにあった。
「街のはずれにゴブリンが巣を作ってしまったから駆除して欲しいですって? そんなの町の警備隊に任せればいい仕事なのに……わざわざハル君に言うなんて」
ゴブリン退治、それこそがザガンがリリアに、というよりもハルトに頼んできたことである。突如として増加したゴブリンの被害に、頭を悩ませていた所に《勇者》であるハルトがやって来た。《勇者》ならばゴブリン退治くらい容易いだろうというのがザガンの言い方だった。それを聞いた瞬間にリリアは若干怒りそうになったが、今後のことを考えてグッと堪え、こうして森までやってきたのだ。
「だいたい巣の場所まで把握しておいて。武器まで用意してあって……確実に私達にやらせる気じゃない。ハル君に頼む必要なんてないのに」
《勇者》になりたてであるハルトの実力をはかりたいというザガンの考えはわかる。しかし、納得できるかと言われればそれは別の話だ。
いきなりハルトのことを試すようなことを言われていい気がするはずがない。
「いきなりオーク討伐してこいとか言われるよりはマシだと思いますけどね」
「もしそれ言ってたら町長でも殴ってたわ」
「ゴブリンってそんなに強くないの?」
「ゴブリンにも色々と種類がいるから一概には言い切れないけど、普通のゴブリンなら弱いかな。一対一なら普通の子供でも倒せるくらい」
「そうなんだ」
「まぁ一対一になるようなことなんてほとんどないけどね。ゴブリンは数だけは多いから。だから嫌われてるんだけど。知能も高くないし」
「それでも私は行きたくないですけど……怖いですし」
ゴブリン一匹であるなら、タマナでも問題なく勝てる。しかし、だからと言って怖いという感情は無くならない。今回も一応簡単な回復魔法なら使えるということでついて来てはいるが、本音を言えば街に残っていたかったくらいだ。
「巣の規模はそんなに大きくないんですよね」
「えぇ。ザガンさんが言うには、ですけど。警戒するに越したことはないですけどね」
キョロキョロと周囲を見渡しながら、リリアの背に隠れるようにしてタマナは言う。ここはすでに森の中でいつゴブリンが出てきてもおかしくないのだ。
しかし、背に隠れられているリリアはタマナのことよりも、隣を歩くハルトのことを心配していた。
「本当にやるのハル君? 私だけでもいいんだよ?」
「ううん。やるよ姉さん。いつかは戦わなくちゃいけないんだから」
「ハル君……わかった。それならもう止めはしないけど、気を抜かないでね。ゴブリンは強いわけじゃないけど、一対一になることを意識して」
「う、うん」
「タマナさん、後どれくらいで巣の場所に着きますか?」
「そうですね。さっき二つ目の目印のあった場所を過ぎたので……あと少しですね。このまま真っすぐ進んだらいいと思いますよ」
「わかりました。ハル君、周囲の警戒の仕方は覚えてる?」
「覚えてるよ。確か……魔力を薄く放射状に展開して、その範囲内の反応を探るんだよね」
「うん。ちゃんと覚えてるわね。まぁ魔力に敏感な魔物もいるから気を付けないといけないんだけど、ゴブリンなら大丈夫よ。さ、やってみて」
そう言われてハルトは自分の中にある魔力を少しづつ外へ外へと薄く広げることをイメージする。いまだ木剣に魔力を纏わせることはできないが、それでも毎日鍛練を続けることで少しづつ上達はしていた。
「どう、ハル君」
「……うん。なんとなくだけど、気配を感じるよ。小さな気配が……いっぱい?」
「うん。とりあえず及第点かな。もう少し訓練して慣れたらもっと細かく気配を掴めるはずだから」
そういうリリアもハルトと同じように魔力を広げて魔物の気配を探っていた。ハルトよりもより広く、その精度も高い。何が何匹いるかまで把握していた。
(ゴブリンが七匹……コボルドも六匹いる。あの二種が共生するなんて考えられないし……争ってる? でもそんなのおかしいし)
ゴブリンとコボルドは仲が悪いことで有名だが、それでも戦うことなど滅多にない。どちらも己の種族が弱小であると理解している。戦って疲弊して共倒れになってしまっては元も子もないからだ。
(それに、まだ何か隠れてる気がする……ゴブリンの方が何か……気を付けたほうがいいかもしれない)
「ハル君、そろそろ武器を用意しておいてね」
「え、う、うん。わかった」
「タマナさんも……警戒しておいてください」
「わ、わかりました」
そして三人がゴブリンの巣の前で目にしたのは、コボルドを一方的に虐殺するゴブリンの姿だった。
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次回投稿は2月28日21時を予定しています。