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最強のキョウダイ  作者: ジータ
第一章
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閑話 始まりのバレンタイン

バレンタインデーということでふと思いついて書いた話です。本編とはほとんど関係ありません。


誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。

 これは数年前のバレンタインの話だ。

 この世界、『カミナ』にも地球と同じように意中の相手や友達にチョコを渡すバレンタインの文化が根付いていた。それは数十年前にやってきた《パティシエ》の異邦人によって作られ、長い時間をかけて少しずつ文化となっていったのだ。

 そしてリリア達の住む街ルーラも、バレンタインが近くなり、女子達は準備に追われ、男子達はソワソワしはじめるという地球と変わらない光景が繰り広げられていた。

 しかし今年はその空気が例年とは違った。男達の間にとある噂が流れていたのだ。その噂というのがリリア・オーネスがチョコを作ろうとしている、というものであった。この噂が出た時に町に走った衝撃は半端なものではなかった。誰に渡そうとしているのか、男達はその話題で持ち切りになっていた。

 そんなことを全く知らないリリアはチョコを作るべく、シーラの家へとやってきていた。


「これを切ったらいいの?」

「うん。まぁホントは切らなくてもいいんだけど、切った方が湯煎した時に早く溶けるし……って何してるの!」

「まな板が切れたわ」

「なんでそうなるのよ!」


 シーラが少し目を離した間に、チョコだけでなくまな板まで両断してしまうリリア。これはもはや無意識の内に包丁に魔力を纏わせてしまい、その切れ味を大幅に上げてしまっていたのだ。


「はぁ……いきなりチョコの作り方教えて欲しいなんて言うからなんでかと思ったら。リリアって料理とかできなかったんだ。知らなかった」

「できないわけじゃないわ。したことがないだけ」

「それできないのと一緒だから」


 呆れたように言うシーラ。改めてチョコの用意をしながら、ずっと気になっていたことをリリアに聞くシーラ。


「あの、そう言えばさ、なんで今年はチョコ作ろうと思ったの? いつもは作るどころか渡しすらしないのに……も、もしかして気になる人でもできたの?」


 若干ソワソワとしながらシーラはリリアの方を見る。リリアはチョコを切ることに若干苦労しながらなんでもないように答える。


「この間ハル君とバレンタインの話になったの」

「え、うん。それで?」

「そしたら毎年ユナ達から手作りのチョコ貰ってるって聞いて……そういえば私作ったことないなって思ったの」


 ユナやフブキは毎年ハルトにチョコを渡していた。リリアにバレればどうなるかわからないため、隠れて渡していたのだが。


「いつもは王都まで行って買ってたんだけど、せっかくだから作ってみようかなって思ったの」

「え、それじゃあチョコってハルト君のためなの?」

「当たり前じゃない。むしろそれ以外の可能性なんてないわよ」

「そ、そっか……そうなんだ」


 どこかホッとした様子で息を吐くシーラを見て、リリアはそういうことかと、シーラがソワソワとしながら聞いてきた理由に見当をつける。


「安心して。シュウに渡したりするわけじゃないから」

「なっ、ちょっ、誰もそんなこと言ってないじゃん!」


 顔を真っ赤にしながら怒るシーラ。その態度が如実にシーラの内心を表していた。


「そんなに心配するぐらいならさっさと告白すればいいのに」

「だからそういうのじゃないって!」

「でも今年もシュウにあげるんでしょう?」

「それは……ほら、一個も貰えないのは可哀想かなっていうだけで……私とシュウはただの幼なじみだから! 好きとかそういうわけじゃないし!」

「はいはい、わかったから。そういうことにしといてあげる……よし、切れたわよシーラ」

「むぅ……違うのに。それじゃあチョコをボウルに入れて。湯煎して溶かすから。それができたら——」


 それからリリアとシーラは四苦八苦しながらなんとかチョコを完成させた。主に苦労したのはリリアのせいであるのだが。もう二度とリリアと一緒に料理をしたくないというのがシーラがチョコを作り終わった後に残した言葉だったとか。

 



□■□■□■□■□■□■□■□■


そしてバレンタイン当日。

街中で様々なラブストーリーが繰り広げられたり、チョコが貰えず絶望する男達がいたりと、賑やかな街がいつも以上に賑やかになっている中でリリアは一人、家の中でハルトが帰って来るのを待っていた。


「ただいまー」

「っ! 帰ってきた」


 珍しく少し緊張しているリリア。ハルトが帰ってきたことに気付いて自分の部屋から出る。


「おかえりなさいハル君」


 帰ってきたハルトの手にはおそらくユナ達から貰ってきたのであろうチョコが握られていた。それに少しだけムッとしながらも、努めて表情には出さない。


「それ……どうしたの?」

「あ、これ? ユナ達がチョコくれたんだ。どうせハルトにチョコくれる人はいないだろうからって。まぁ実際ユナ達以外でくれる人なんていないんだけどさ」


 そう言って嬉しそうに笑うハルト。そこまで気にしていないと言ってもハルトも男の子。義理でもチョコが貰えれば嬉しいのだ。

 その笑顔を見てしまってはリリアも次からは貰うなとは言えない。なのでしかたなく、本当にしかたなくユナ達がハルトにチョコを渡すことを許容する。


「ハル君はチョコ好きなんだよね」

「うん。好きだよ」

「あのね、今年は私もチョコ作ったんだ……貰ってくれる?」

「え、ホントに!」

「初めて作ったから上手くできたかわからないけど……」

「うわぁ、ありがと姉さん! 開けてもいい?」

「もちろん」


 リリアからのチョコを受け取ったハルトは、喜びながらチョコを包んである箱を開け……そして絶句した。


「っ!?」

「お姉ちゃん頑張ってね、ハル君の似顔絵をチョコで作ってみたの。どうかな」

「う、うん。いいと思う……よ」

「だよねだよね! 私も自信作なんだ。喜んでくれてよかった。来年はハル君の全身模型をチョコで作るね!」

「え!」

「そうと決まったら今から練習しないと。またシーラにお願いしようかな」


 そう言ってもはや次のバレンタインのことを考え始めるリリア。とてもやめて欲しいなおどと言える雰囲気ではない。


「が……頑張ってね」


 苦笑いしながらハルトはそういうしかなかった。

 そして、その後ハルトは自分の顔をしたチョコを食べきったという……味は美味しかったようだ。

 この日から長きにわたって続くバレンタインの受難をハルトはまだ知らない。



今回も最後まで読んでいただきありがとうございます。

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このあと予定通り21時にも投稿されます。


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