第15話 リリアの《神宣》 後編
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その日、神殿の巫女であるタマナは《神宣》の忙しさに辟易としながら次々とやって来る新成人達に《職業》を授けていた。
タマナは珍しいタイプの巫女であった。なぜなら、彼女はなりたくて巫女になったわけではなかったから。タマナ以外の巫女、そのほとんどは幼少期から神殿に関わって育っていたり、巫女となるために生活をしていたりするものがほとんどだ。しかしタマナは違う。普通にただの平民として暮らしていたのだ。そんな彼女がなんの因果か《巫女》に選ばれてしまった。最初は断ろうと思ったタマナだったが、衣食住完備うえに給金も高いということをしってあっさり巫女となることを決めた。そんな事情もあって他の巫女達が《神宣》に熱心に取り組んでいるのをよそに、彼女はどうにかして楽はできないかと常に考えていたりするのだ。
巫女となったことを後悔しているわけではないが、それでも《神宣》の忙しさだけはどうしても慣れることができていなかった。
そして、そんな彼女のもとにやってきたのがリリアだった。《神宣》も半ばを過ぎ、疲れがピークに達しようとしていた頃にやってきた少女。タマナはやってきたリリアに目を奪われていた。
(うわ、すっごい綺麗な子……)
輝きを放っているように錯覚するほど綺麗な金髪、どこまでも澄んだ碧眼。神がどれほど苦労すれば出来上がるのかわからないほど整った造形にタマナはただただ見惚れていた。
(この前アウラ様もちょっとだけ見たけど……同じくらい綺麗かも)
アウラは静謐な月のような美しさ。リリアは燦然と輝く太陽のような美しさという違いはあるものの、どちらもある種極まった美しさも持っていることに変わりはなかった。
(はぁ、やっぱいるんだなー。こういう子って。私も地元じゃ綺麗だーとか、可愛いとか言われてたけど、こういうレベルの違う子見ると世の中の広さを痛感するよね、ホント。下手に調子のらなくてよかったー)
「——の、あの」
(どこかの貴族様の子供とかかな。だったら一度くらい見たことありそうだけど……)
「あの!」
「あ、はひっ!」
そこでようやく目の前の少女、リリアに話かけられているということに気付いたタマナ。美少女というのは怒ったような顔も綺麗なんだなとか場違いなことを考えていたりする。
「な、なんですか」
「なんですかじゃなくて、まだ始めないんですか?」
「始める? あ! す、すいません!」
そこでようやく自分が何をしていたのかを思い出すタマナ。早く終わらせてハルトの所へと帰りたいリリアはいつまでもボーっとしているタマナに若干の苛立ちを募らせていた。
「ゴホン、それでは《神宣》を始めますので、こちらのカードをこの水晶の下に差し込んでください」
タマナの差し出したカードを受け取ったリリアは言われるがままに水晶の下にカードを差し込む。それを確認したタマナは呼吸を整えて集中する。
『我らが神、職業神カミナよ。未来を照らす導をこの者に与えたまえ』
ここでいつもならば、水晶が輝きを放ち、カードに《職業》が刻まれるのだが……この時は少し様子が違った。
水晶の光が明滅し始めたのだ。
「え、え?」
見たことのない光景に戸惑うタマナ。そしてしばらく明滅したのち、光が完全に収まる。
「終わったんですか?」
「えーと……たぶん、はい。そのはずです」
歯切れの悪いタマナの返答に首を傾げるリリア。《神宣》のやり方など知らないのだからしょうがないだろう。
一方のタマナも、初めて見る現象になんと答えていいかわからない。それでもちゃんとした手順は踏んだのだから終わっているはずだと考えたタマナはリリアのカードを手に取り、そして目を丸くする。
「どうしたんですか?」
「その……どうぞ」
タマナに差し出されたカードを受け取るリリア。そして、そこに書かれてあることを見て固まる。
『リリア・オーネス 15歳 職業:《姉 (仮)》』
そこに書かれてあることを見たリリアの表情が次第に変わり始める。驚きから、怒りへと。
そして、目の前にいるタマナに詰め寄る
「どういうことですか!」
「ひぃ! いえその、私にもわからなくてですね……」
「なんの騒ぎだ!」
「あぁ司教様~、実はですね」
リリアの声を聞いて駆けつけてきた司教に泣きつくタマナ。事情を説明すると、顔色を変えた司教がタマナとリリアを神殿の内部にある部屋へと案内する。
「君のカードを見せてもらっていいだろうか」
司教に言われて、リリアはカードを差し出す。そして、そこに書いてあることを確認した司教は深くため息を吐く。
「やはり見間違いではないのか……」
「それ、どういうことなんですか」
いまだに怒りの冷めやらないリリアが司教に聞く。
「あぁ、君の戸惑いや怒りもわかる。こんなわけのわからない《職業》が出れば戸惑うのも無理はな——」
「そうじゃありません!」
「「え?」」
司教とタマナの声が重なる。
そう、リリアは《姉 (仮)》というわけのわからない《職業》が出たから怒っているわけではなかった。
「姉の後についてる仮、ってなんですか! 仮って! 私は正真正銘、ハル君の姉なんですけど! 仮なんかじゃありません!」
((いや怒るとこそこなんかい!))
と司教とタマナの心の声がシンクロする。
そう、リリアが怒っているのはその部分だった。仮、とつけられてしまうことで、自分の姉としての人生を否定されたような気がしたのだ。
「ゴホン、と、とにかく。君の《職業》は訳あって公表するわけにはいかないものだ。ご家族には話してもらって構わないが、できる限り外部には漏らさないでくれ。タマナ君、君もだぞ」
「は、はい。わかりました」
なぜ隠さなければならないのか、それについては話さない司教。その態度を見るに聞いても教えてはくれないことは明白だった。
「君の《職業》は《村人》であったという風に処理しておく」
「え!?」
驚きの声を上げたのはタマナだ。しかしそれも無理はないだろう。職業神カミナから与えられる《職業》を偽ることは許されない行為なのだから。それを司教の立場にある人間がするというのだ。
そして、今ここでタマナがそれを黙認すればタマナも共犯ということになる。そこでようやくタマナは自分が想像以上に厄介なことに巻き込まれているのだと気付いた。
「……わかりました」
事態を上手く呑み込めてないリリアだったが、少なくとも《姉 (仮)》よりは《村人》の方がましだと受け入れるリリア。表面上誤魔化せるだけで、《職業》が《姉 (仮)》であることにかわりはないのだが。
「今日この場で起きたことはくれぐれも口外しないでくれ」
そして司教から偽装されたもう一枚のカードを受け取ったリリアは本当の《職業》を隠してシーラ達の元へと帰ったのだった。
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次回投稿は2月10日18時を予定しています。