第14話 リリアの《神宣》 前編
誤字脱字がありましたら教えてくれると嬉しいです。
それは二年前、リリアが《神宣》を受けた時の話だ。
「いよいよ私達も《神宣》受けるのね……」
目の前の神殿を眺めながらシーラが呟く。その声音には緊張感が滲んでいた。
「そ、そそそそうだな。お前ら緊張してないか? 俺は全然平気だけどさ」
「シュウうるさい。あと、緊張してるの丸わかりだから。恥ずかしいから離れてくれない」
「んだと!」
「怒るくらいなら黙りなさいよ鬱陶しいわね! 田舎者丸出しなのよ!」
「実際田舎者なんだからしょうがないだろ!」
「わかってるなら取り繕う真似くらいしなさいよ!」
そんな言い合いが一番注目を集めているということに二人はまだ気づいていない。
そんな中、リリアは神殿にいながら全く別のことを考えていた。
(早く終わらせてハル君に会いたいなー)
自分の《神宣》のことになど微塵の興味も持っていなかった。頭にあるのは家にいるハルトのことばかり。
(今日はシーラ達と一緒だから、今頃家でハル君とユナとフブキが一緒にいるわけで……あぁどんな話してるんだろ。やっぱりハル君も連れてきた方がよかったかな。でも神殿には入れないし……そんなことしてる間に王都にいる変態共がハル君のこと狙うかもしれない。それはダメ、絶対ダメ。はぁ……早く終わらせて帰るしかないか)
「ねぇちょっとリリア聞いてる? 絶対アタシよりシュウの方が悪いよね」
「そんなわけねぇだろ! シーラが悪いに決まってる。な、リリア!」
「え、何が?」
「「聞いてなかったんかい!!」」
「そんな喧嘩なんてどうでもいいから、早く終わらせて帰りましょう。ハル君が待ってる」
そう言ってさっさと神殿に向かっていくリリア。どうでもいいと言われたシーラ達もまた、喧嘩を続ける雰囲気でもなくなり、リリアに続いて神殿の中へと入っていった。
神殿の内部はいつもとは違い、新成人達の熱気に満ちていた。
どんな職業につきたいとか、これだけにはなりたくないとか、そんな話ばかりだ。
「ねぇみて、アウラ様よ」
「ホントだ。そう言えばアウラ様も今年成人なされたのよね」
「アウラ様と一緒に《神宣》を受けれるなんて感激だわ。同じ《職業》になれたりしないかしら」
「ズルいわよ。私だって同じ《職業》になりたいわ」
リリア達が並んでいると、そんな会話が漏れ聞こえてくる。
「うわ、すごい美人」
「ホントだ。すげぇな。リリア以外にもいるんだなー。あんな綺麗な人」
「なにそれ。私は綺麗じゃないってーの?」
「そういうこと言ってんじゃねーよ!」
「どーだか。ねぇリリア。リリアはどう思うあの子」
「ん? ハル君の方が可愛い」
「そういうこと聞いてんじゃないわよ。あんたとどっちが綺麗だと思うって話」
「そんなのわかるわけないじゃない。どっちでもいいし」
「はぁ、あんたってホントにハルト君以外に興味ないのね。まぁ確かに可愛いけどさ、ハルト君」
「……シーラ?」
「いやいや、別にそういう意味で言ったんじゃないから!」
リリアの目から光が消えたのを見て、慌ててシーラが否定する。そんなやりとりをしていると、後ろから一人の男が近づい来た。
「失礼、お嬢さん達。先を急いでいるんだ。順番を譲ってくれないかな」
声を掛けられたリリアとシーラがそちらの方を見ると、いかにもイケメンといった風貌の男が立っていた。その甘いマスクに魅了される女性も少なくないだろう。ちなみに、シュウは無視されていた。
「どうしてかしら」
「え?」
「どうして私達があなたに順番を譲らないといけないの?」
しかし、リリアはそれが通用する女性ではなかった。そもそも、ハルト以外の男に興味などないのだから。
「もしかして私のこと知らないのかな。ドレッド・マースキンというんだけど」
「うそっ、マースキンって、四大公爵家の一つじゃない!」
隣にいたシーラが焦った声を出す。四大公爵家の人間に逆らえばどうなるかわからないのだから焦るのも無理はないだろう。
そして、そんなシーラの様子を見たドレッドはようやく自分のことを理解してくれたかという顔をする。ドレッドの立場を理解すれば逆らうものなどいないはずなのだから。
しかし、
「ふーん、それがどうしたの」
「は?」
「ちょっとリリア!」
「あなたが四大公爵の人間だかなんだか知らないけど、そんなの私には関係ないわ。家が偉いだけであなたが偉いわけじゃないでしょう。少なくとも、ここにいる間は《神宣》を受けに来た新成人。それだけのはずよ。わかったらさっさと元の場所に戻って」
リリアの頭にあるのは早く《神宣》を終わらせてハルトのいる村に帰ることだけ。もしこれがドレッドではなく、王であったとしてもリリアは同じことを言っただろう。リリアはなにもまったく見当違いなことを言っているわけではない。この神殿の中では全ての者は平等であるというのが職業神カミナの教えなのだ。つまり、四大公爵であっても王であっても平民であっても立場は平等なのだ。
一方、まさか断られると思ってなかったドレッドは唖然としてしまう。
「……まさかそんなことを言われるとは思ってなかった。名前を聞いてもいいかな」
「リリア・オーネスよ。別に覚えてもらわなくてもいいわ」
「いや、覚えておくよ。それとすまなかったね。君の言う通りだ。大人しく後ろに戻るよ」
そう言ってドレッドはリリア達から離れていく。完全にドレッドがいなくなった後、ホッと胸を撫でおろすのはシーラだ。
「もうリリア~。心臓に悪いよぉ」
「お前よく公爵家相手にあんなこと言えるな」
「別に間違ったこと言ったわけじゃないし。いいでしょ」
「そうだけどよぉ」
物事には暗黙の了解というものがあるのだとシュウは言いたかったが、言ったところでリリアは聞きはしないだろうと諦める。
それからしばらくして、リリア達の《神宣》の順番が回ってきた。
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次回投稿は2月9日18時を予定しています。