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境界のアゲハ  作者: 千鶴太郎
1/1

1. This Is Real

「せんせぇ!こっちのドアもあかないよぉ…。」


― ザザァァァ ―


「まま、ままぁぁぁ…。」


― ザッザッザァァァ ―


「みんな!おついて!大丈夫よ!きっと出られるから!きっと…。」


― まぁ、死にはしないさ ―


「わぁぁん、こぉちゃ、ウグ、ゼンゼェ~。」

「こうちゃんっ。健太君、こっちへ来て。こうちゃんは先生がおんぶしていくから!」


― た、たぶん大丈夫さ 大丈夫だとも ―


「水無月先生!よかった、ご無事だったんですね!」

「野口先生!」

「先生、こっちに来てください!救助隊が道を作ろうとしているんです!たぶんそろそろ通れるようになりますから!俺についてきて!」

「本当ですかっ!さぁみんな!こっちよ、ついてきて!あんまりケガしていない子はケガをしている子をしっかり助けてあげるのよ!焦らずに周りの瓦礫に気をつけて!」


― おいおい まだ残りがいるだろう? ―


「え?野口先生、何か言いました?」

「いえ、なにも言ってないですよ?あ、ほらあそこです!瓦礫をどかしてる音が聞こえるでしょう!」


― 天秤の測り違い? それともお得意のあれか? ―


「…そうだ、テッちゃん。野口先生!ちょっと、こうちゃんお願いします!」

「ちょ、み、アゲハさん!?ま、まって!」

「すぐ!すぐ戻りますから!」


― …君はバッジを手放せる人だ 知っていたよ ―

“おい、起きろ。起きるのだ、アゲハ!…反応がないな。おい、いい加減動け。おい!”


「…う…うぅん。」


“ふむ、やっと起きたか。おい、聞こえているのだろう?返事をしろ。”


ゆっくりと開いた瞼の先に映るのは、薄い肌色の平面。そのうえで、それをきれいに分断しているいくつもの茶色い平行線と、絵の具が混ざり合うときの境界のような、ぐにゃりと不規則に曲がった焦げ茶色の線。それが木目の目立つ目透かし天井だと気づくまでにそれほど時間は必要なかった。まったく見覚えのない天井だ。私はどこにいるの?いろいろなことが一度に起こった気がするけれど、うまく思い出せないのはなぜ?混乱した頭を抱えながら、私はゆっくりと上体を起こし、周囲を見渡した。


「ふあぁ…どこ、ここ。私の部屋、じゃないよね。」


 薄く日に焼けた畳が敷き詰められた四畳半。半円の形をした出窓のついているクリーム色の壁と、それに対面した同じ色の壁。正方形の残った面は、四枚のふすまからなる一面と四枚の障子からなる一面となっている。そんな私の実家の部屋によく似ていてどこか違う、何も置かれていない殺風景な部屋の中心で、布団も敷かれないまま私は寝かされていたようね。

 座った状態のまま、なにげなく簡単な体操をして固まっているであろう全身をほぐしてみる。うーん、なんだかすごく気持ちが悪い。体調が悪いわけじゃなく、なんだかこう…伸びをしたりして体を動かしているのに、肌に絡む空気がないような感じがする。そういえばこんなに日に焼けて古びた畳の部屋にいるのに、いつも自室にいるときのような嗅ぎなれたイグサの匂いが全く感じられないのは、なんでだろう。


「まぁ、いっか。」


“まったく。やっと起きたと思えば、なんだ?その腑抜けた様子は。”


「……はぁ。」


 どこからともなく意味の分からない声が聞こえてくる。やっぱり、強く頭を打ったのがよくなかったのかな。頭を、打った?あれ?それだけじゃなく、足が折れてそのままコンクリートに挟まれた?やっと頭が体に追い付いてきたみたい。でもどうして?私、ケガしたところが全部治ってる。腕だって変な方向に曲がってたから、絶対に骨折してると思ってたけど…案外、体って丈夫な物なのね。

 ということはクラスの子供たちは大丈夫って考えてよいだろうか?私がこうやって無事でいるってことは、少なくとも私が押し出した鉄平君は事故からは逃れられたんだろうけど。それ以外のみんなもあれからケガなんてしていないかしら。


“おい!水無月アゲハ!!”


「はっはい?」


“やっと返事をしたか。…とりあえず第一段階はクリアといったところだな。では、アゲハ。君は今、自分の身に何が起こっているのかはわからなくて困惑していることだろう。こちらとしても君の現状が知りたいわけなのだ。だからまずは情報交換といこうじゃないか。君はここに来る以前の記憶をどれくらい覚えている?答えてくれ。”


 「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!幻聴じゃない?なら、あなたいったい誰?どこから話しかけてるの?あと話をするつもりなら顔くらい見せなさいよ!こっちはいきなりこんな状況でびっくりしてるんだからそのくらいの配慮ないの?そういえばここどう考えても病院じゃないわよね。ここ、どこよ?子供たちは無事なの?他の先生たちは?私がここにいることみんなは知ってるの?あと」


“ちょ、ちょっと落ち着け!落ち着いてくれ!そうだな。まずは我々のことだが、ひとまず大神とでも呼んでくれ。代表の名前だ。ふぅ、どうやら大方の記憶の方は問題なさそうだな。安心したよ。さて、君の質問にはできる限り真摯に答えてよう。だが、どうか冷静に、取り乱さないようにしてくれ。少しばかりショッキングな内容もふくまれるからな。”


「…ゴクッ」


 全然意味が分からない。幻聴でも何でもないなら、大神と名乗ったよくわからない人?と、それの発する気持ちの悪い声はいったい何?確かに聞こえてきているはずなのに耳から聞こえてくるような感じじゃない。なんだか文章でできた塊が頭の奥のほうからブワァっと湧いてきている、そんな感じ。どう考えても普通の声じゃない、抑揚のない一直線に流れ出ている不気味な言語は、まるで生気を感じさせない。何かが、私の中に住み着いてしまっているかのような奇妙な感覚が私を襲っている。まさか私、悪霊に憑りつかれて…ってそんなわけないでしょ!でも、だとするとこれはいったい。

 もしかして、生徒や先生方がよく話題にしていたSRシミュレーテッド・リアリティってやつ?事故にあった後、病院に連れてかれて、手術をされはしたけど、私が植物状態になっちゃったから、意思疎通を図るために脳とかを機械か何かにつないでるとか?腕は元通りになってるように感じるだけで、現実だととんでもないことになってたりするのかも。じゃあこの声の主はお医者さんか何かってこと?だとしたら相当ショッキングな出来事だ。気をしっかり持ってないと。


“まずは吉報からにしよう。君の担当していた小学校の子どもたちは、全員無事だ。多少のけが人は見られたが、あのテロでのビルの崩落で逃げ遅れた生徒は一人もいない。同僚たちの中にも死者は出ていないようだ。まぁ、全体として死人は多く出たのだが。”


「そうなの。でも、あぁ、よかった…。」


“学内の人間がほとんど被害を受けなかったのは、適確な生徒たちの誘導ののち、はぐれた生徒をすぐに探しに戻った君のおかげだろう。生徒たちの家族もみんな君に感謝していたぞ。…さて、凶報の方だが、私は回りくどいことは嫌いなのだ。だから、ズバリ言わせてもらう。アゲハ、お前はもう、死んでいる。”


「…はい?」


“あの事件で君は体の八割以上が建物の瓦礫の下敷きになってしまったのだよ。我々が駆け付けたときにはほとんど瀕死の状態。折り重なるようにしてずっしりのしかかった瓦礫を取り除く時間は当然なく、数十分後にはその場に駆けつけ、救命処置を施していた救急隊員によって死亡が確認された。”


「ちょっと、待って、よくわからない。」


“戸惑うのは想定済みだ。だからそのまま聞いてもらおう。我々はその駆けつけてから君がなくなるまでの時間で、失礼ながら君の脳みそから重要な記憶を抜き取らせてもらった。”


「で、でも私いまここに…。」


“そう、確かに君は今、そこにいる。しかし、水無月アゲハが現実で死んでいることも変えられない事実だ。君は彼女の記憶をベースとして我々が復元したものだ。孤立状態だったおかげでルルイエに汚染されずに生き残ったPCを利用してな。これから君は、ヒューマン型対ルルイエ自立AI.Ver.4.0・水無月アゲハとして生きていくことになるのだよ。”


「…あぁ、そうか、そろそろおはようなのね。ほわぁ…おやすみなさい。」


“混乱するのはもっともな話だ。だがこれは紛れもなく現実なのだ。受け入れてくれ。…おい、聞こえないふりをするな!横になるんじゃない!眠ろうとするな!起きろ!起きるのだ!…お~い。”


 どうも、初投稿させていただきました。自分の考えたことを言葉にするのがこんなに難しく、楽しいとは思ってもみませんでした!勉強不足なため、おかしな文面になっていたり、表現が浅い場合もありますが、大目に見ていただければ幸いです。

 一話目はテンプレっぽくさせてもらってますが、ここから少しずつ色を出していければと考えてます。

 最後まで読んでいただき本当にありがとうございました。もしよろしければ簡単にでもコメントなどで感想をいただければ感激の極みであります。

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