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6、白米でワンバウンド

 キン肉マンと疎遠になりつつある頃、それと反比例するように読書家と話すようになった。

 前回彼に話しかけたときに少しだけ小説の話をしたので、主には本や作家さんのことを話すようになった。

 私はそれまでグルメ本や料理人の書いた自伝などしか読んだことがなかったが、彼の影響で小説を読み始めるようになった。

 彼は物静かで話も続かないし話しても楽しくない。でも、人間は自分にないものを持っている人を本能的に探す生き物だというのを聞いたことがある。つまり、長く付き合える人というのは自分とは真反対の人なのかもしれない。また、新しい自分の発見にもなるかもしれない。そういうわけで、様子見として最近は読書家と接する機会を増やしている。

 ただ、ちぃちゃんはこれにはあまり納得していないようだ。

「だってそんなのおかしくない? 自分にないものを持っている人を本能的に探す生き物なんでしょ? なのに本能的に話してても別に楽しくないんでしょ? 矛盾してない?」

「それはそうなんだけどねぇ。こう、もっと話してみれば見つかってくるんじゃないかと思って」

「ゆめがいいならいいけどさ」

「ちぃちゃんはそういう話はないわけ?」

「え、私彼氏いるけど」

「えっ?」

 知らなかった。ちぃちゃんは私と同じ立場の人間だと思ってた。っていうことは、先輩じゃん。恋愛の先輩じゃん!

「結構前からだよ? 一緒に焼肉いったときに写真見せたじゃん」

「覚えてない……」

「ゆめって本当にお肉しか見てないよね」

「いやぁそれほどでも」

「ほめてない」

 ということでその彼氏さんの写真を見せてもらった。中肉中背で普通の人っていう感じ。こりゃ印象に残らないのも無理はない。というようなことを言うと失礼になっちゃうから、これは心の奥にしまっておく。

「で、どうやって付き合ったの?」

「たしか向こうから告ってきたんだと思うんだけどねぇ。あんまり覚えてない」

「ちぃちゃんからアピールしたの?」

「全然してないよ。話したことは何度かあったけど。あ、何人かで遊びに行ったことはあったかな」

 普段真っ先に帰ってお肉を食べることしか頭にない私には、そもそも放課後遊びに行くとか休みの日に誰かと遊ぶという選択肢を用意してこなかった。放課後はいつも焼肉屋でのんびりするし、休みの日は家でゴロゴロしながら焼肉屋のレビューを見たり焼肉動画を見てるばかりだった。そんな干物女子高生だった自分を、今は真反対の人間にしようとしているのだと改めて気づき、自分で自分に呆れた。

「やっぱり私には焼肉しか無いわ。恋する乙女は牛さんと結婚します」

「いやいや、まだ早いっしょ。キン肉マンとは最近話してないみたいだけど、他にも候補は2人いるわけだし」

「読書家と、あと誰だっけ」

「はぁ? 伊藤くんは? 運命の人なんじゃなかったの?」

「ああ、転校生か。確かに来たばっかりの時は少女漫画みたいなシチュエーションでちょっと意識したけど、最近別にどうってことないっていうかね。転校生っていう言葉の響きにやられてたのかもしれない」

「ふぅん。そんなもんかねぇ」

 実際、伊藤くんはただの隣の席の人であって別に大してかっこいいわけでも気が合うわけでも仲が良いわけでもない。もちろん隣の席同士交流はゼロではないけど、意識するまでもないというような感じ。悪い人ではないと思うから、きっかけさえあれば好きになるのかもしれない。

 ということは、読書家もきっかけさえあれば私のことを好きになるのかもしれないし、私もきっかけさえあれば読書家のことを好きになるかもしれない。じゃあ、そのきっかけって何? どこから来るの?

「きっかけねぇ。告白でもしてみたら?」

 ちぃちゃんの言葉にちょっと動揺した。

「告白って。まだ好きでもないのに告白ってどうよ」

「今どき好きにならないと告白しないなんて古いでしょ。付き合ってから好きになるなんて今では当たり前なんだし」

「そんなもんかなぁ」

 焼肉屋で好きでもないメニューをわざわざ頼んで食べることってあるだろうか。考えてみたが、新メニューができたときにお試しで頼んでみることはあるけど、それ以外には思いつかなかった。ということは、好きでもない人にする告白はある種のお試し感覚なのだろうか。

 ということで、私は読書家に思い切っておためしで告白してみることにした。


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