4、盛り合わせはどれがどれかわからない。
実は私にも色恋沙汰がないわけでもない。
噂程度だが野球部の某キン肉マンが私のことを好きだとか、物静かな読書家の同級生が実は私の写真を毎日見ているだとか、その程度の噂がないわけでもない。ただ噂は噂。どこまで本気なのかはわからない。少なくとも現時点でアプローチがないっていうことは、そうでもないんだろう。
というより私なんかを好きになるなんて相当な物好きだ。痩せたら可愛いとは言われたことはあるけど、痩せる予定なんかこれっぽっちもないわけだし。
でも華の女子高生、一度や二度の恋があってもいいかもしれない。としたら、噂のある3人の中から選ぶのが早そうだ。
まずは転校生の伊藤くん。今一番旬の噂だからね。まぁそれ以上でも以下でもないんだけどね。
野球部のキン肉マンはガツガツ来そうなイメージなのに意外と何もアプローチがない。ということはあの噂はデマだったのかな? この前廊下ですれ違った時は全然目も合わせてくれなかったし。
読書家の彼はたしかに色白で大人っぽくてメガネが知的で、素敵っちゃ素敵だから、アリかもしれない。
そうと決まったらさっそくアプローチ開始。私は意外と肉食系女子なのだ。焼肉少女だけにね。
「何読んでるの?」
彼の読んでいる本の向こう側から彼の顔を覗き込んでみる。お、こう見ると意外とイケメンかも。
「小説」
「面白い?」
「まあね」
「ふーん」
会話が続かない。せっかくのイケメンがもったいないよ。やっぱり読書家は無しかなぁ。
ということでお次は野球部のキン肉マン。
と思ったけど、練習の疲れか休み時間になるとすぐに机に伏して寝ちゃうし、放課後は練習だから会話する時間もない。せっかくの学園生活で話す機会がないのはちょっと辛いかなぁ。
となると、やっぱり伊藤くんか。
隣の席だし、ゆっくりお話でもしてみようかな。
「ねえ、伊藤くんて焼肉好き?」
「え、なんでいきなり?」
「ゆめは有名な焼肉少女なんだよ」
「あ、ちぃちゃん」
「焼肉少女?」
あ、これは引いてるね。何だこいつという目でこっちを見てくる伊藤くん。
「そうだよ。朝昼晩全部焼肉なのがゆめちゃんなの」
「胃もたれしないの?」
「これが全然しなくてねぇ。小さな頃から胃袋が強いのなんのって。ちなみに今日の昼ごはんは……」
ちぃちゃん、あなたは私のママか。なんでも知ってる親友のちぃちゃん。これは第4の彼氏候補になれる可能性があるかもしれない。
「あ、これさっき購買部で買った焼肉弁当。さっきチンしたからちょっと熱いかもよ」
私はカバンからそれを差し出した。蓋の下から湯気が漏れ出していてもう美味しい。匂いでご飯一杯はいけそう。
「すげぇな。こういうやつと焼肉一緒に行くと全部食べられてしまいそう」
「いやいや、そんな事しないと思うはずっぽいから」
「曖昧だなぁ」
ハハッと笑った伊藤くんはちょっと可愛いかもしれないと思った。
3人の中では伊藤くんが一歩リードかな。読書家は顔はいいけど面白くないし、キン肉マンは話す機会ないし。案外この噂の流れを利用すればすんなり付き合えるかもしれない。
焼肉弁当の蓋を開けて、さっそくがっつく。伊藤くんのほうをちらっと見てから、それを食べ始めた。
舌に残るほど濃いめのタレがご飯に合って美味しい。添えてあるだけの漬物もまたバランスを整えてくれる。これで500円とは、良い高校に来たなとしみじみ思う私であった。