開花前の日常⑥
「ねえ、たくちゃん。あの子は誰だったの」
下校中、恵が俺にそんなことを聞いてきた。
ちょいちょい恵さん。なんでそんなに機嫌が悪いのかしら。
「さっきから言ってるだろ。妹だって」
この質問さっきから何回目だよ。耳がタコになりそうだよ。
「だって、妹ならわざわざ昼休みにご飯食べになんてこないよ。普通ならね」
「なんで、そんな起こってんだよ」
「怒ってないし」
絶対怒ってるだろ。
「本当に妹なんだって。なんで来たかは俺も知らん」
本当に知らないんだもん。なんて言ったって恵の態度はむすっとしたまま変わらなかった。
「もういい。そこまでいうなら」
「ありがとう。恵はまじで優しいな」
「えっ!そう………。ふふっ」
あれ?なんかめっちゃ機嫌良くなった。よくわかんないけどラッキー。
と、俺は恥ずかしいこと言ったことを自覚してしまっていた。
「じゃ、じゃあ俺ここだから」
「あ、うん。また明日」
「おう!明日」
そして、恵とはそのまま離れっていった。だってめっちゃ恥ずかしいんだもん。
「ただいま」
「あら、おかえり」
いつもなら返ってこない声が今日は返ってきた。いや、今日からずっと返ってくるのか。
俺はリビングにはよらず自分の部屋へと向かっていた。
そして、廊下からドアを開けて部屋に入ると、そこには。
「お帰り、兄さん」
あれれ?なんでナチュラルに俺の部屋に入ってんの?
なんで、俺の部屋のベッド上で正座で座ってるの。
「なにかよう?」
「あっ!いや………その…」
「その……」
「兄さんに、謝罪を、と」
ああ、思い出した。思い出しちゃった。罪悪感がどんどん募って行くんだけど。
しかもこんなに丁寧に謝罪しに来るなんて。まず、香澄が謝罪する要素一切無いんだけど。
「俺の方こそごめん」
「いや、その………いきなり殴ったのは私ですし」
「でもそれの原因を作ったのは結局俺だし」
そのまま沈黙。
「それじゃあ、兄さん。またあとで」
と、香澄は外へと出て行った。
「ああ」
「やっぱ雪江さんの料理は美味しいですね」
「あら、そう?ありがとう」
朝の時よりもさらに仲良くなってはいたのだが、やはり香澄が黙りっきりだったのだ。
「雪江さん」
「なに?」
「香澄っていつもあんな感じなんですか」
「ええ。昔からずっと、自分の気持ちをあんまり言わない子なのよ」
「そうなんですか」
学校の頃はすごく活発な子だと思ったんだけどな。
「拓人くん。香澄のことよろしくね」
「はい」
間髪入れず俺は返事をしていた。それを聞いた雪江さんは満足といった表情だった。
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