開花前の日常⑤
第三弾!!
ヤンデレが足りない今日この頃
「やっと終わった。ああ、終わった」
みんなは食堂に行ったり、弁当を出したり、各々の行動を取っている。俺はといえば、朝に雪江さんに作ってもらった弁当を取り出していた。
「食べよう食べよう!」
と、隼人は俺たちに話しかけてくるのだが、その後方に忍び寄る影が。
「おい隼人!一緒に食べようぜ」
「お、おう!食べるか!」
ああ……行っちゃった。まあ、食べよう。ご飯美味しそうだし。早よ食べよう。
「たくちゃん一緒に―――――」
「恵、一緒に食べよう」
恵の言葉に上乗せするように女生徒たちが話してきていた。そのまま流されるように恵も向こう側に行っている。
そして残ったのは一人。
一人。
これはあれか?俺を一人にしようっていうクラスの陰謀なのか?クラス全体による陰湿ないじめなのか?
そうじゃなかったら、もうそういう運命なのか。別にいいけど。一人でもご飯たべれるし、楽しいし。
一人でもいいし!
「おい、あの子可愛くない」
クラスの中の一人が誰かそんなことを言った。もちろん俺たちは思春期の男子なのだ。そっちの方に無意識に目線を向けてしまう。
「可愛い」
「かわいいな」
教室から点々とそんな声が出てきた。
「え?!あれって………」
そこにいたのは。
「兄さん」
俺の妹の神辺香澄だった。
「か……す、み?なんで、ここに」
その香澄といえば、その表情を変えず俺の方を向いていた。
ていうかマジでなんでここにいるの?ここは2年の教室、香澄は一年のはず。
忘れ物でもしたか、それとも家族からの伝言だろうか。
「一緒に食べよう」
その教室はシーン、と静まり返った。
何拍か置いてから。
「「「「はぁぁぁぁぁあああああああ!」」」」
クラス中の人が(主に男子が)悲鳴と咆哮を上げていた。
「兄さん早く」
「えっ、ちょっ、待って」
有無を言わさず香澄は俺の裾を持って外に連れ出そうとする。成されるがままに俺も外に出て行った。
「香澄一体なんのつもり」
「えっ?!あっ!」
屋上に登る階段で、急に態度が変わった香澄の足がふらつき。
そのまま掴んでいた俺の裾を道連れに、階段の下へと落ちて行く。
「あぶない!」
咄嗟に俺は香澄を抱きかかえ、一緒に転がっていった。
何度かの振動の後、その動きは静止する。
もう、大丈夫か?
瞑っていた目を開ければ、そこに広がったのは目一杯の黒髪。そして、鼻腔を満たす香水の香り。
ふう、なんとか。
"むにゅ"
あれ?なんだ、これ。すごく柔らかくて、気持ちがいい。
何度でも触っていたい。どれ、もう一回。
「んっ!」
謎の物質はピクンと痙攣するように震える。
これは一体なんなんだ。ようやく捉えた視界の先にあったのは、緩やかな草丘が二つ。
「に、に、兄さんの…………」
ああ、終わったな。
「ばかぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!」
瞬間顔に届いた酷い痛み。これは罰だ。
妹のそれを触って、揉んじゃったことへの。
そのまま、香澄はUターンして去っていった。
♦︎
『どうして、逃げるの』
『折角のチャンスだったのに』
なんで、こんなこと考えちゃっているの。というよりまず、なんで私は兄さんのところに行ったのだろう?
ふつうに教室で食べればそれでいいのに。
なんなの、この複雑な感情は。
もしかして………私は兄さんと会ったことがあるの?