開花前の日常③
連続投稿、第2弾!
ヤンデレを早く書きたいです。
「おはよう」
あちらこちらからそんな言葉が行き交っている。当たり前ではあるのだが。
ここは学校だ。それも正門付近。友達と会っては挨拶を交わし、先生と会っては挨拶を交わし。
例にも漏れず俺も挨拶を交わそうとするのだが。それは一瞬のうちに揉み消されることになる。
「おは―――――」
「柏木さんおはよう」
ある女生徒がそんなことを口ずさめば、すぐさまにそこ一帯の雰囲気は変わる。
「柏木さんだって、どこだ」
さあ、式典の始まりだ。そこら一帯のみんなが恵に挨拶をして、またそれに恵も挨拶を返している。
そんな大量の生徒がてんやわんやした状況で、もみくちゃになってしまった俺は、その波から放り出されるように出てきた。
「はぁ〜。朝はいつもこれだから嫌だ」
なんなんだよ。みんなして一気にお祭り騒ぎになって。女神様のご来光かよ。こんな悪態はついてはいるものの。
人の壁に押しつぶされ、足はヨロヨロ、手は痺れ、視界は少し歪む。立ちくらみ、的な症状が出ていたのだ。
俺の体はなんてひ弱なんだ。だからといって筋トレしようとは思わないし、しんどいし。ああ、力が抜けてきた。
「もう、ダメだ。今日こそ死ぬ…………」
がっくりと膝をついた瞬間。
「きゃっ!」
そんな聞き覚えのある女の子の声と、風が吹き荒れる音が聞こえた。その風は俺の後方から前方にかけて吹き、そして目の前にはなんと女生徒のスカートが見えています。
スカートですよ。ズボンじゃありません。スカートです。
ゆえに、そんな強い風が吹いてしまったゆえに。
それは起きてしまったのだ。
「黒?」
ほぼ無意識的に、いや若干意識的に呟いたのはこの俺。たった今までそのスカートを凝視していた俺だった。いや、不可抗力だし。ギリギリオッケー、みたいな。
たぶん、ありますよね、香澄―――――
「ふんっ!」
一拍遅れて顔を真っ赤に染めた少女が、腕を振るい。俺の溝に元気よくストレート!
ギリオッケーなかったー。
「ぐぅぇ!」
酷い鈍痛が俺を襲う中、俺は見てしまった。顔を真っ赤に染めている香澄の姿を。っていうか、なんでちょっと笑ってるの。
それを見たのも一瞬。おい、全速力で逃げずに俺の話も聞いてくれー!
はぁ、帰ったら何とか誤解を解かないと。
♦︎
なんでだろう。兄さんのことが頭から離れない。さっきだって、パンツ見られて恥ずかしいはずなのに。
なんで私はこんなに嬉しいの。こんなのおかしいよ。だってこれじゃあまるで私が、へ、へ、変態みたいじゃない。
パンツ見られて悦ぶ変態みたいじゃない。黒のパンツを見られて喜ぶ変態みたいじゃない。大人っぽいパンツを穿いて、そしてそれを見られて悦ぶような変態みたいじゃない。
『もっと、もっと、見て欲しい』
何?
ふと頭の片隅に浮かんだこんな言葉。
『早く、思い出して…………そうすれば』
「兄さん………」
儚げな表情が口にするのはそんな言葉。今にも消え入りそうな声で、私はそう呟いていた。