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迷子になったのは?

「え、え〜と」


 戸惑いと、疑問と、後悔と、なんとやら。一つではない感情が混濁して頭の中に入ってきた。まさか、この歳で迷子になるとは思わなかったからだ。


 いや、しかし。


 今回の場合は香澄が勝手に飛び出しただけだから、俺が迷子、というわけではない気がする。まあ、どうでもいいことだが。


「ていうか、本当にここどこだよ」


 周りを見渡せばさすが遊園地と言うべきか、子連れの家族や、カップルなんかが多くみられた。そのなかでもカップルは人前で堂々といちゃつき始める。


「……………」


 とりあえず、怨念を送っておいた。


 え?箱舟と、赤坂さんの分?もちろん昨日のうちにやっておいたよ。


 やることがなく、人波に流されて、そしてくらっとしてしまった俺はベンチへとその足を進めた。


 そして座る。


「ふぅ〜」


 気持ちを落ち着かせて、これからどうするかを考えていた。とりあえず、箱舟と赤坂さんを探さなければならない。香澄は………まあ、保留でいいだろう。もし、途中で出会ったら探してたよ、とか言えばいいだろう。


「あとは、あの人たちにどう言えばいいだろうか」


 もちろん、あの人たちというのは恵と神楽のことだ。助ける対象を見逃してしまうなんて、あってはならないことだ。


「とりあえず、探すか」


 と立ちかけた時。そいつは現れた。


 クマのキャラクターの着ぐるみを着た辺なやつがいた。いや、もちろんそいつは知っている。パンフレットの片隅に載っていたここの遊園地のキャラクターだ。


 一人でいて寂しいと思ったのだろう。そいつは俺めがけて進んでくる。


 おいおい、俺は高校生だぞ?俺なんかじゃなくて、小学生、幼稚園生のところに行ってやれよ。


 そして、むぎゅー。


 柔らかな生地が俺を挟み込む。そしてこの太陽。


「ああああああああ!暑苦しい!は〜な〜れ〜ろ!」


 そう言って俺はそのキャラから逃げるべくその場を離れた。


 ♦︎


 つい、楽しみすぎてしまったようだ。恵が迷子になってしまっている。


 ふと、気づけば隣にいるはずの彼女の姿が見えなかったのだ。そして、私の手元にはこの遊園地のグッズが握られていて。


「ど、どうしよう」


 ま、待てっ!まだ、私の番じゃないはず。と、とりあえず電話を。


「ああああ!無い!」


 え、嘘。なんで無いんだよ。


「いつ、落としたんだろ?」


 仕方ない。恵を探しながらでもいい。とりあえず、携帯を探そう。


 ♦︎


「ぬぅ〜」


 兄さん、一体どこに。なぜか、運命の赤い糸で結ばれているはずの私と、兄さんが離れ離れになってしまっている。


 覚悟、決めといてくださいね?神さま?


「いや、これはワンちゃん神さまが与えた試練なのかもしれない。いや、絶対そうです」


 いいでしょう。証明して見せましょう。神様の与える試練を超えるほど私たちの愛は強いんだということを。


 兄さんだって絶対に私のことを探してくれていますし、私だって本気を出せば瞬間で見つけることだってできます。


 しかし、これは神の試練。自力で探してみせます。そして、私と兄さんの運命力を見せつけてやります。


 そうです。絶対に私と兄さんは離れることなんてないんですから。


 ふと、感じれば、私の顔はにやついているようだった。


 ♦︎


「はい、あ〜ん」


 今は昼時、の少し前。混雑すると予想して早めに来たようだ。店内はガランとしているわけでは無いが、たしかにピークには達していない。


 私は箱舟くんと赤坂さんの後を追ってその店へと入って行っていた。


「ふふふ」


 結論から言おう。


 場違いも甚だしい。


 なんなのこの団体様たち。全員が全員男と女(それ以外もいます)今すぐ机諸共粉砕したい衝動に駆られながらも、私は2人の動向を伺っていた。


「頼んだのは…………ナポリタン、か」


 定石通り。ここは女子力アピールだよね。そういえば、たくちゃんは麺類とか好きなのかな?今度、一緒に食べに行こうかな。


「あっ!」


 詰まったような声で赤坂さんはナポリタンをひっくり返す。そして、その先にいたのは箱舟くん。そのまま、吸い寄せられるようにそれは胸にかかる。


 ただ、赤坂さんのその顔は笑っている。


 なるほど、わざとかけて取り出したハンカチで拭くことで優しさをアピールするのか。


 少し、驚いた。


『少し』というのは赤坂さんならそれをするだろう、と思ってたからだ。


「?!」


 しかし、彼女の顔が青ざめたように血の気が引いて行く。その精気が抜けた目で赤坂さんはこちらを向いてきた。


 そして、ハンドサイン


『緊急事態』

『どうしたの?』

『ハンカチが、ない!』


 それを見た私は素早く鞄から、ハンカチを取り出して赤坂さんめがけて投球。


「だ、大丈夫ですか?ごめんなさい。箱舟くんとのデートが楽しすぎて興奮しちゃった」

「え?ああ、いいよ。これくらい」


 なんて、ずる賢い女の子なの?香澄ちゃんに通じるものを見出してしまう私だった。


「ていうか、早く帰って来て!」


 私1人じゃ絶対にフォローできないよ!

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