部長の手には
遅れてすいません。
これからもこんな感じになると思います。
「ああああああ、もうどうすればいいんですか!」
「言ったろ?攻撃するしかないって」
「分かってはいますけど………」
分かってはいるんだ。
そして初のお悩み相談、2日目。今は部長を抜いたメンバーで赤坂さんの今後についてを相談していた。
「う〜ん。デートとかは、早すぎるか?」
と、神楽が漏らすように呟いたその言葉に、その他全員が飛びかかった。見れば、俺以外も俺と同じ行動をしていて。
現在、神楽は全方位から指で指される事例に遭遇していた。
「それだ!」
「ど、どした?」
「いや、それだよそれ」
ん?と考え込む神楽。神楽にとってはデートは神聖なものらしい。
「いやだってカップルが行くもんだろ?それ」
「逆説的に一緒に行けばカップルなんですよ。まあその貧相な体では男女関係なんて経験してないとは思いますが」
「あ?恵は別として、神辺とその妹はそれぞれ童貞で処女だろ!」
「ま、その二人が最終的な結ばれるわけですが」
そして始まるのは、いつものごとく神楽と香澄の口喧嘩。女の子の口から、童貞とか処女とか聞きたくないんだけどな。
「でも、二人は兄弟だけどね?」
「!」
驚愕を隠せない俺。なぜなら今日はそれに恵も参戦したからだ。いつもは口数少ない恵、今日はどうして。
「というか、部活はないのか?」
「あ、ああ、今日はオフなんだよ!」
明らかに気が動転したような態度で受け答えする恵。首を振り、手を振り、目をぎゅっと閉じて、俺の方向に向かってくる。それだけでどういうことかは理解できた。
「恵さん!」
「はい!」
急に香澄に大声で呼ばれた恵は、現在の状況もあってか肩をビクつかせていた。そして恐る恐る香澄の方を眺め。
「兄弟は兄弟でも、義理ですから。オッケーです!…………それと、あんまり近づくなよ?」
恵は俺の真ん前で肩をガクブルさせる。そりゃ、怖いわな。ガチトーンであんなこと言われたら。
と、そこで赤坂さんが香澄と神楽の間に入るように大声を出してきた。
「ちょっと、私の話聞いてましたか?」
「あ、うん。もちろんだ」
「………」
赤坂さんの無言攻め。ジワジワと広がっていくダメージが神楽を蝕み、最終的に敗北へとその足を向かわせた。
「いや、ほんとすまん」
「分かればいいんです。それより、早く相談を再開してください」
「デートはどこに行くべきか、ですね」
香澄が椅子に座りながら指をくるくる回してそう行った。そう言うと、俺の目の前にいる神楽が一つ目の意見を出していた。
「これはあれだろ。遊園地だろ」
少し恥じらった顔でそう唱える。おそらくだが恋愛小説か何かに感化された結果だろう。
「まあ無難ではありますが、無しではありませんね」
「でも、お金って結構かかるよね」
「そこら辺はなんとかなるだろ」
恵の心配に俺が答える。
「近くのデパートとか、映画とかでも楽しめると思うけど………」
恵がそう言いながらどんどんと暗い顔になっていく。どうかしたんだろうか?
「楽しかったのに、途中で有耶無耶で終わっちゃったね」
「え?…………あっ!」
俺と恵は春(香澄がヤンデレ化する前)にデートへと行っていたのだ。色々ありその途中で止める羽目になってしまったのだ。
「あの時の埋め合わせはまたいつかな」
「うん!」
とても、嬉しそうに恵は笑った。それと対照的に香澄の表情はくぐもっていく。
「とりあえず、遊園地でいいか?」
神楽のその言葉に反論する声は聞こえてこなかった。
「じゃあそういうことで」
「でも、誘い文句はどうするんですか?」
と言う香澄の疑問に赤坂さん以外が顔をしかめる。
「それだな………」
「どういうことですか?」
赤坂さんの疑問に解説上手の恵が答えていた。
「え〜と、例えば。いきなり遊園地行こうって言われてどう思う?」
「それは…………ああ、さてはこいつ私に気があるな、ですかね」
「そうだね、でも遊園地っていうのはお金を取られるよね?それでいきなり誘われて、お金も取られて、そんな人好きになれる?」
「なんか、嫌ですかね」
「でしょ?」
お〜。わかりやすい。
「奢る、とかは」
「その後も奢られる羽目になったらどうするんですか?」
「あっ!そうか」
赤坂さんの案は香澄の言葉によってすぐに消される。
「どうしましょう」
恵の言葉通り現状、八方塞がり。
「みんな、どうしたの?そんな顔で」
間の抜けたような可愛らしい声が鼓膜を叩いた。その主は無論天音さん。
「いや、遊園地にどうやって行けばいいか」
「そんなのお金払って行くものじゃ………」
「それが、お金も払わないで行くにはどうすればいいか、と」
神楽さんが簡潔に現状を伝えると。
「え?こんなの、とかは?」
「?」
どれどれ、とその場の全員が天音さんの手の中を眺める。
そこには…………。
「ゆ、遊園地のチケット?!」




