表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/53

中学語り

さて、物語を動かしていきます

「……」


 そこには4人いた。4人が席を囲んで、弁当を開き、それを食べていた。


「なんで、こんなに静かなんだ」


(お前が来たからだろー)


 そこにいた3人全員がそう思っただろう。


「なんで、来てるんですか?!兄さんのこと狙ってるんですか?お生憎様、兄さんは私のものですから、残念でしたね。妹の私から断っておきます。ね?兄さん」


 いちいち確認取らないで、その目が怖い。もはや強要じゃねーか。


「同じ部員じゃねーかよ。一緒に食べちゃ悪いか?」

「天音さんがいるでしょう?」

「天音は今日、どっか違うとかいってるんだよ。だからこっちに来たってわけ」


 そう言いながら弁当に入った卵焼きをパクっと一口で食べた。その表情は幸せそうで。肩が少し踊っていた。


「神楽は自分で作ってるのか?」

「あ?まあな」


 へぇ〜。案外家庭的な一面もあるご様子で。恵も自分で作ってきて、俺も作れないわけじゃない。じゃあ………。


 と、俺が目を向けた先の人物は。


「兄さん……わ、私だって疲れないわけじゃないんですよ?いや、たしかに、料理を披露したことはございませんが」

「………」

「本当ですよ。じゃあ、今日は私が作ります。兄さんのために作ります。愛情いっぱいの料理を作ります!異論は認めません!」


 必死の叫びもこの状況下では無意味なようで。


「ああ、なるほど。お前、料理できないのか?」

「あ?」


 香澄は即座にその言葉に反応し、一瞬でその眼光を鋭くさせ、神楽を睨みつけていた。


 事あるごとにぶつかるな、この二人。喧嘩するほど仲がいい、とは言うけれど。これはもうその次元ではないのがうかがい知れる。


「か、神楽さんは料理とかしてたの?」

「まあな」


 険悪ムードになりかけていたところを恵が割って入って和らげた。


「そういえば、中学時代のエピソード聞かせろよ」


 唐突に神楽がそんなことを言いだしていた。


「ほら、お前からだぞ。神辺」


 見ると、神楽は箸で俺の方を指し示していた。


「え?!俺っ?」


 いきなりとか酷すぎるでしょ。急にそんなこと言われても困るって。


「ええと。部活は入ってなかった。色々あって。でも授業な体育とかは好きだったかな」

「は?それだけ?」


 神楽が頬づえを突いて呆れたような口調で俺を眺めていた。眼差しは憐れみの色を含んでいるようだった。


「な、何いえばいいんだよ?」

「あるだろ?一つや二つ、面白いエピソードが」

「面白いエピソードって………」


 俺がしばらく口を閉じていると、代わりにと言った風に恵が名乗りを上げていた。


「じゃあわたしから」


 俺が遅くなることを見越して先にやってくれようとしているのだろう。なんて優しいのだろうか。


「たくちゃんと同じ中学校で、空手部でした。エピソードは…………セクハラ問題があった当時の教頭のところに殴り込みに行かされたことですかね」


 若干笑いながらそんなことを言うが、辺り一帯は冷え切っていた。おいおい、地球温暖化じゃ無かったのかよ。めっちゃ寒いんだけど。


「それってどういう状況?」


 神楽が疑問に思ったことを口に出してくれた。


「友達の子がセクハラ受けたとかで、当時私強いことで有名だったので、適任だ!って言われてそのまま……」

「………」


 神楽が絶句していた。俺はその時の記憶を掘り下げていた。次第に浮かび上がってきたのは全校集会で教頭の退職を説明する校長の顔だった。


「ああ、あったな。別次元の話と思っていたが、お前が関わってたとは」


 あの時から俺は一人だったからな。まあ、今ほどではないがな。


「神辺、なんかあるか」

「そういえばたくちゃん、家庭科無双してたよね」

「家庭科無双?」


 と疑問の声を上げるのはもちろん神楽、なのだが、香澄も俺の話となると興味津々そうに聞いていた。


「家庭科の実技で、たくちゃんと同じ班になった人は何もしなくてもよかった、ってやつだよ」


 まだ、分かってない俺に恵は笑顔で説明していた。あの……恵さん。思いのほか近いような気がするですが。


「兄さん」

「ひっ」

「………流石です!」

「ひっ…………え?」

「やっぱり、兄さんは頼りになる人だったんですね。ですが、次からはその人頼りにしてたやつ、それも兄さんに押し付けるなんて愚行をしでかす者が現れないようにしないといけませんね?」

「…………そうですね」


 適当に返しておく。そう、適当がいいのだ。


「神辺妹、お前はなんかないのか」

「私は…………」


 詰まる香澄。


 そして、記憶をさかのぼりなぜそうなっているのかを理解した。


 つまり、『あれ』があったから、ということだ。


 当たり前だ。そんなことで面白いエピソードなんて思い浮かぶわけがない。仕方なく、庇うようにその会話に入った。


「まあ、香澄はいいじゃないか」

「え?でも……」


 神楽はあまり納得してないようだが、押し通すしかない。


 今思ったが、俺は中々香澄に甘いな。


 その香澄を助けるためになにか話題を逸らさないと。


「そういえば、神楽はどうなんだ」

「え?…………」

「どうした?」

「いや、なんでも、ない…………」


 うん?なんかちょっと焦ってるように思える。神楽は明らかに動揺したように焦っていた。


 会話の主導権をたった今俺に取られたせいで、自分に回ってくる可能性を考えられなかったのだろう。


 にしても、これは少し様子が変だ。


「まあ、普通の中学生活だったよ。普通の」


 それはなにかを懐かしむ顔だった。なにか、遠くのものを見るような、記憶の中を見るような。


 そんな、表情だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ