開花前の日常②
「そういえばこの前、なんの用事があったの?」
登校中、恵は俺にそんなことを聞いてきていた。まあ、この前は迷惑かけたし、こいつに言っても別に言いふらさないと思うし、大丈夫だろう。
そう思い、俺は恵にその出来事について話した。
「へぇ〜。再婚か〜。いいな、ロマンチックだな」
「そうか?」
「そうだよ」
そういうものなのか?女子の感覚はよくわからないな。そう言って茶髪の髪を揺らす恵。
ちなみにこいつの茶髪は地毛だ。
「たくちゃん新しいお母さん、いい人だった?」
「ん?ああ。いい人だったよ。料理めっちゃうまいし」
「ええ!たくちゃんにうまいって呼ばれるほどの腕なのその人」
一体恵の俺基準はどこに存在しているのだろう。今度暇だったら聞いてみよ。
できれば、上の方がいいなぁ。なんて考えてていた時。
「増えた家族ってお母さんだけ?」
と、恵が開口していた。
その真意はわからないが、別に黙っとくようなことではないだろう。
「いや、妹ができた」
「へぇー。妹、ね。可愛い?」
「可愛いっていうか、美人って感じだな」
恵の顔が強張り、冷めて行くようにみるみる表情が暗くなっていった。まあそれも一瞬。
表情はだんだんと朗らかに戻っていった。
(何を考えてるの私。妹ができただけでしょ。それとこれとは関係ないでしょ。たくちゃんがその子のことを………美人って言ったのは、なんかモヤモヤするけど。でも妹だからセーフ)
恵は何かを慌てたかのように、話題を強引に変えた。
「そうかぁ〜。結婚か〜……………私もいずれ、たくちゃんと」
「なんだ?」
「ひゃい?!………なんでもありません」
どうしたんだろう、そんな疑問は頭の片隅に置いて、とにかく香澄をどうにかしないとな。なんとか慣れ親しもうとしている感じはあるのだが、やっぱり年相応のあれがあるのだろう。分かっていても、本能的に突き飛ばしちゃうあれが。
ここは兄として妹に助け舟を出してやらねば。
俺はそんな決意をこっそりと抱くのだった。
♦︎
兄さん……。
兄さん…………。
「兄さん…………。あなたは…………」
私は登校中、そればかりを口ずさんでいた。
兄さん、兄さん、兄さん。
頭が、脳がそれに埋め尽くされて行く。その人の一挙一動が気になる。その人の声が気になる。その人の匂いが気になる。その人の全てが気になる。
どうしてしまったのだろう。私の頭は。どこかおかしくなってしまったのだろうか。
私は兄さんと一度も会ったことがないはずなのに、どうしてこんなにも兄さんのことを気になってしまっているんだろう。
ああ、早く会いたい。
でも、この気持ちの正体がわからない。
兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん兄さん
呪詛のようにその羅列が脳内に並んで行く。
一体これはなんなのだろう。
「兄さん…………あなたは誰なの?」
続きは午後2時です