災難な日常は続くようで
「何ですか?恵さん、朝から挑発してるんですか?」
現在、俺は登校中である。ああ、登校中だ。香澄が暴走してからは少しおかしくなったけど、登校中だ。今となっては普通の登校中、のはずだった。
うん、次はお前か。
「あの、あのね。昨日ちょっと触れ………話せなかったから。今日は…………」
ん?なんか「触る」みたいな語が聞こえた気がした、が。
「あなたが触る必要ないじゃないですか!」
香澄の言葉で、それが証明されてしまった。触る、とか生々しいな。
「ま、私は昨日、兄さんと戯れましたがね」
突如放たれた香澄の爆弾発言。そして、それに呼応するように帰された驚愕の音。
「「な?!」」
無論、その数は二人。
「え?えぇぇぇええええええ!たくちゃん、え?!」
「いやっ、違うんだ!違うんだって………ああ、もう涙目にならないでっ!」
香澄は笑い、恵は泣く。軽く地獄絵図な登校中。
「やはり、私の方が兄さんとの絆が強いんですね」
「ううっ………そんなことないもん。私、幼馴染だし………」
「私は妹ですよ?絆レベルでいうならば私の方が強いに決まってます」
なんだよ絆レベルって。
「とにかく!私の方が好きです!」
「いやいや、私だよ!」
「まあまあ、ここは路上なんだから静かに――――」
「「ん?」」
「いえ、なんでも」
もう、泣きたいよ。
「ていうか、なんであなたが付いてきてるんですか?ストーカーなんですか?」
「も、もともと私とたくちゃんは一緒に行ってたし」
「だから何なんですか?私がいるじゃないですか?本当に邪魔ですよ」
「あっ、あなたが紛れ込んできたんでしょう!私とたくちゃんの………わたしと、たくちゃんの………」
「………」
視線で恵を射抜く香澄。睨んでる、とかではなく、ただ単に見ている、だけだがそれでも圧迫感は感じられる。
「愛の楽園に!」
「恵?!」
「兄さん、ここまで。これは帰ったらお仕置きがありますね」
ねえ、なんで俺の方に刃先が向くの?たしかに俺に関することだよ?でも、でもさ?俺に向くのはお門違いじゃないかな?
「も、もう!とにかく学校行くぞ!」
俺は身の危険を感じ無理矢理話題を変えようとしていた。
そして、昼休み。俺の災難が果てることはなく。
「兄さん」
「たくちゃん」
そして、机をガッチャンコ。最近気づいたんだが、昼休みに食堂に行く人数が増えたような気がする。
間違いなく、俺たちのせいだな。
「さあ、昼ごはんです。一緒に食べましょう。あっ、もちろん、兄さんにだけ言った言葉ですからね?」
「むっ。さ、さ、たくちゃん食べよう。おかず分け合いっこしよ」
「兄さんの料理は新鮮なんです。他の人が手にしちゃダメなものたんです。あなたごときにあげるわけないでしょう?」
香澄よ。俺の父は再婚する前、これを毎日食べていたからな。
「まず、あなたの料理に毒が入ってるかもしれない状況で、食べさせるわけにはいきません!」
「そんなわけないでしょ!」
恵の華麗なツッコミがスパンと決まる。なんだ、こいつらめっちゃ仲良いじゃん。案外、ウマが合うのかも。
「私は愛でお弁当を作ってるの、そこに毒が入るわけないでしょ!」
うん?
「私だって、私だけの愛で食べるんです。他の人が食べていいわけないでしょ!」
は?
ああ、前言撤回。ウマが合う、合わないの問題じゃなく、何言ってるかを理解できなかった。
もう、これどうすれば収集つくのだろうか?
「おい!神辺!いるか?」
ふと、扉の開く音が鳴れば、そこには神楽が立っていた。短髪に慎ましやかな胸の、スレンダーな美少女が。
「来たぞ」
なんでお前まで。




