告白作戦、手紙を書こう
「やっぱり、女の子らしくラブレターとか渡せばいいんじゃないか?」
恋文。ラブレター。
無縁な響きだな。俺の周りにはそんなの介さずに近寄ってくるやつがいるからな。
「そうですね。どんな風がいいんでしょうか?」
赤坂さん(壊れ気味)が俺たちにそう問うてきた。
「それはだな」
「それはですね」
順に神楽、香澄。お前らにはビラの時の前科がある。嫌な予感しかしないのだが。
「いいですよ、神楽さん。お先にどうぞ」
「お言葉に甘えさせてもらおうか」
非常に緊迫した空間の中に絶賛入室中です。超絶怖いです。でも、逃げれません。それもそれで後々怖いから。
「とりあえずこの前みたいな地雷は踏まねー」
おう!この前のこと反省はしていたのか。四文字で完結するとかいう異例の事態だったもんな。
よろしく頼むぞ。
お前の後ろに控えているエースはやべーやつだから。
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桜の木の下であなたをお見かけした時から、私の心はずっとあなた色に染まっていました。昼夜を問わず、雨でも雪でも、あなたのことばかりを考えてしまいました。
その気持ちを抱え今、この手紙を書いてます。
好きです。付き合ってください。
♦︎
「お!」
部室から感嘆の声が上がる。
主に俺と恵と天音さんだが。
「なかなかやるな、神楽!」
「だろ?」
「すごいね」
恵もその文を賞賛している。これはこれで決定でいいんじゃないか?
「あの………盛り上がってるとこすいません」
赤坂さんが恐縮しながら手を挙げていた。非常に言いにくいといったような表情をして。
「私と箱舟くんが出会ったのは今年の春なんですけど…………桜の木の下であってませんし、普通に教室でしたし。雪なんて降ったことありませんし」
「あ」
その場にいた全員が凍えただろう。これは全部、恋愛小説でありそうなフレーズだ。
「どこかで見たことあるな……て思ってたんだけど。神楽ちゃんもしかして」
「ああああ!言うな!自分でも後悔してるんだから!」
恵は恋愛小説を読んでいる。だからこそ、分かったんだろう。さっきのも作品に対しての賞賛だったのかも知らない。
「全く、盗作だったとは」
「な、神辺妹はなんかあるのかよ」
「任してください」
そのまま筆を取り、紙にすごい熱量で書き始めた。
ああ、嫌な予感しかしません。
「ふう、できました」
しばらくすると、そんな声をあげた香澄が俺の近くまで寄ってきた。
「兄さん、これです」
「なんで、俺だけに見せるんだよ」
そんなことを言いつつ、紙に書かれた内容に目を通していく、そして内容は秒で理解できた。だが、ちょっと…………。
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好きです好きです好きです好きで好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです。
顔が好きです。なんでも、好きです。汗も、唾液も、体も、唇も、兄さんが関わるのであればなんでも。
とにかく好きです。大好きです。
好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです
好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです
好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです
好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです好きです
付き合ってください
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「ラブレターはとにかく熱量です。自分の愛の大きさを表現するためのラブレターですから」
「おう?」
言ってることは間違ってない。でもさ、いくらなんでもこれはないでしょ。好きですしか言ってないじゃん。
ていうかあの短時間でよくここまで書けたな。
「いや、これはいくら彼でもドン引きだぞ」
「?彼って……箱舟っていうやつのこと?」
「あ、ああ。お前は知らないのか」
「有名なのか?」
「超な」
嘘でしょ。やっぱり俺はぼっちなのか。
「いうならば、お前の上位互換的存在だ」
「どゆこと?」
「つまりだな…………」
神楽は耳を向けるように指示する。まるで、赤坂さんに聞かれたくないような感じだった。
「複数人の女子を侍らせているやつだな」
「串刺しにされろ」
あらあら、口が勝手に。だが、そんな奴がいたのか。怖いな。複数人の女子と、て。そんなことできるやついるのかよ(います)。
「…………お前もだからな」
神楽の小声は俺に届くことがなかった。
「で、どんな風に書けばいいんでしょうか?」
ガヤガヤとした喧騒の中で赤坂さんの声は消されそうになるも。
「こんな風でどうかな」
恵はその言葉を拾い、そして受け答えしていた。
「ずっと前から好きでした。付き合ってください?こんな単調でいいんですか?」
「いいの。まあなんで好きになった、とかは少し入れた方がいいかもだけど」
「確かに、さっぱりしていて読みやすく、かつ一番愛が伝わりやすそうですね」
恵よ、軌道修正してくれてありがとうな。さすが、俺の幼馴染だぜ。
その恵が俺と目があったかと思うと、少し恥じらいを持った形相で、テクテクと歩いて来て。
「はい、これ」
と、ピンク色の頬を隠しながら手紙を渡してきた。
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好きです、付き合ってください。
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お前もか!




