三つ巴の綱引き
「付き合いたい、か」
結局そこに行き着いた。ヤりたいだか、ヤりたいだか言っていたが、ここに行き着いた。というかここ以外が問題なわけだが。
「どうすればいいと思いますか?」
赤坂さんは俺たち部員に尋ねてくる。
「襲う」
「縛る」
「奪う」
「うんうん」
順に、恵、香澄、神楽、天音さん。
うん、まともなやつがない。襲う、まあ攻撃するという意味で告るに変換できなくもない。縛る?ここでよくそんな単語が出てくるな。奪う………なにを奪う気だよ。
そして、天音さん。何に対してなんですか?
「ふむふむ」
ちょっ、赤坂さんメモしないで!
「普通に告白でいいんじゃないか?」
それを阻止するために、なぜか誰も口にしなかったその単語を言葉にした。
おい、なんでみんな俺を見る。普通のことしか言ってないだろ。
「告白、ですか。そんな勇気があったなら………」
赤坂さん。襲う、縛る、奪う、の方が勇気がいると思うんだが。
「………わかりました。告白します」
よしきた!
メーデー、どうしてこうなった?
「好きです…………付き合ってください!」
と、頬を赤らめた赤坂さんが俺に向かって告白をしていた。文字が書かれた手紙を渡しながら。
瞬間―――――。
「このクソ女がぁぁぁぁああああああ!」
香澄が猛獣のごとく雄叫びをあげた。そして、赤坂さんに飛びかかる。
「なに、兄さんに色目使ってんですか?兄さんは私のものなんです。あなたごときが告白していい次元じゃないんですよ?わかってますよね?」
「え?!え……あぁ」
涙目になって助けてを求めているのは赤坂さん。そりゃそうだ。だって香澄超怖いもん。
「だいたい、なんで兄さんに告白練習させるんですか?」
「ここに男がそいつだけだった」
「そんなの神楽さんがやればいいじゃないですか?」
「な、なんでだよ!」
神楽が爆弾発言をするまで3秒前。
2、1。
「だって短髪で、男の子口調で、それでいて胸もぺったんこじゃないですか。もうほぼ男じゃないですか!」
「な?!おまっ!」
「はいはい、神楽さんがやっといてください。兄さんはこっちです」
強引に俺の手を引いて行こうとするのは香澄。柔らかい女の子の手が俺の手を包み込む。だが、それだけでことは終わらず。
「ちょっと待て。神辺は渡さない。こいつに、やらすんだ。それじゃないと意味がない。それと私は女だ!」
「なんですか?勝手に兄さんの手に触れないでください」
もう片方の俺の手は神楽に掴まれていて、言うならば綱引き状態になっている。
「兄さんは私のです。どいてください。邪魔です。なんで人のものを取ろうとするのですか?」
「神辺妹、お前ちと強引すぎるんじゃねーか。神辺の気持ちとかまるで考えてないじゃないか」
「兄さんは私のことが好きなんです。そうと運命が決定づけているんです」
キャー。恥ずかしいな。そんなことを大声で叫ばないでー。ほら、赤坂さんちょっと引き気味じゃん。なにこの兄弟、みたいな目で俺らの方見てるじゃん。
「ともかく兄さんはこっちへ」
「いや、神辺はこっちだ」
「たくちゃ〜ん!」
なんで、お前が入ってくるんだ!見れば恵は俺の方に抱きつきに飛びかかっている。その両手を左右に広げ、がっつこうとしている。
「あの、高原先輩これは………」
赤坂さんが天音さんに対して質問をしていた。そりゃそうなるだろう。この惨劇を見れば少しは恐怖感を持つだろう。
「みんな、少し暴れすぎじゃないかな?」
「ひっ」
質問した赤坂さんが悲鳴をあげるほどそれは黒いオーラを纏っていた。
要するに怒っている。とてつもなく怒っている。
「「「「すいません………」」」」
俺たち4人はなすすべなく謝罪の意を表していた。香澄といえば悔しそうな表情で頭を下げていた。こいつが本能的に怖がるって、天音さん半端ないな。
かくして、三つ巴の綱引きは幕を下ろした。




