悩みを聞きます!
「人、来ませんね」
退屈気味に香澄はそう呟いた。お悩み相談室開設から1週間。今まで来た人数は0人。
「どうしてなんだ?」
神楽が世界の終焉が訪れたような顔でそんなことを言っていた。
「あの広告のビラの出来は悪くないはず、何がいけないんだ」
たしかにそれはそうだ。あのビラなら少なくとも2人は来ると思っていてのだが。
「まあ、誰かに悩みを誰かに打ち明けるのって難しいですからね」
「そういうものなのか?」
という神楽の疑問に香澄は淡々と答えていた。
「そういうものなんです」
過去に香澄は俺へ悩みを打ち明けたことがあったな。子供の頃だったけど。
「あ、そうです。暇ですから悩み聞きましょうか?神楽さん」
「あ?」
お互い睨み合って火花を散らしている。煽り煽っての大乱戦だ。
「なんで私が神辺妹に悩みを打ち明けないといけないんだ?」
「なんですか?折角人が悩みを聞いてあげようとしているのに。その態度は?」
肌が冷めるような感覚が、空間に冴え渡って行く。
「余計なお世話だ」
「そうですか、そうですか」
香澄。なんか神楽に張り合うようになってないか?
♦︎
「で、どうしてこうなった?」
現在、俺は部屋の中央に設置された椅子に座らされている。周囲には面々が揃っており、俺の方を眺めている。立ちたいが、とても立てる状況じゃなかった。
っていうか、なんでこうなったんだよ。
「兄さん…………悩みを言ってください」
「え?なんで?」
「なんでって。わたしにはわかります。兄さん、今悩みを抱えていますね」
う〜ん。そんなわけないはずなんだけどな。まあ、自分の思い通りに解釈してしまう。それがヤンデレだからな。仕方ないか。
「ほら、ねーじゃねーか。こんなの時間の無駄だろ」
と神楽は茶化すように香澄に言葉を浴びせていた。
「いえ、そんなはずありません」
いいえ、そんなはずあるんです。
「兄さんの目を見てください。悲しそうじゃないですか」
「そ、そうか?」
いや、別に悲しくないけど。どちらかというとこんな尋問みたいなことされて恐怖感さえあるんだけど。
「そうなのか?おい、悩みって何があるんだよ」
どうして、そんなこと信じちゃうんだよ。神楽、純粋かよ。迫られても、逃げ出すことができずにいた。
「たくちゃん。悩みがあるの?」
お前も来たかー。そして、歩幅を開けて俺へと迫ってきた。
「なになに?拓人くん悩みがあるの?」
天音さんまで…………。ちょっとまって。
近づかないで。やめて、怖いんだけど。襲われそうで、超絶怖いんだけど。
そんな心の声も虚しく、その四人は俺へと迫ってきた。
一人は小さな胸を抱えて。一人は活発で健康的な体を兼ねて。一人は女とは思えない戦闘力を持って。一人は豊満なバディを介して。
「おい、みんな。ちょっと…………それ以上は近づくな」
恐怖のあまり俺は立ってしまった。
「兄さん!悩みを聞こうとしているのに、なんで立っちゃうんですか!」
「今のどう考えても悩みを聞くオーラじゃなかっただろう!」
思わず俺は叫んでしまっていた。それに対し、香澄たちは。
「兄さん。逃げないでください」
「たくちゃんの、ためだから」
「悩みがあるなら言えよ」
「拓人く〜ん」
なんで、こんなにも人の話を聞こうとしない奴が多いんだ。
そんな感じで、室内で大騒ぎしていた時。
"ガタン"と突然扉は開いた。
「悩み、聞いてもらっていいですか」




