ノー部活、ノー青春
「どこにですか?」
「私の入ってる部活に、だよ」
部活、か。今まで入ってないのが普通だったから、この響きは特別な感じがするんだよな。
「わかりました」
別に入部するってわけじゃない。行ってみるだけ損はないだろう。
「兄さんは私との時間を大切にしてくれてるんじゃないんですか?!」
そんな香澄の嘆きは置いておいて、俺と恵そして天音さんは例の部活の部室へと案内された。
「兄さん、逃げないでください」
道中、香澄は俺の腕を握って離さなかった。別に逃げてるつもりはないんだけどな。
なんなの?逃げて欲しいの?逃げてそれを追って捕まえたいの?それがお前の願望なの?
「仲良いね」
「え、あ、はい。そうですね」
「たくちゃん…………」
どうすればよかったんだよ。
そして、着いたのが一階の奥の奥にある人気が少なすぎる教室。っていうかこんなとこあったんだ。知らなかったわ。
一年間過ごした俺でさえ知らない教室があった。なんなんだ、ここ?
「この中だよ」
と、扉を開けた天音さん。
「天音、遅いぞ」
「ごめんね〜」
少し鋭いような声と、天音さんの優しい声が交互に聞こえてくる。
「いったいどこでなにしてたんだ」
「それがね………あっ」
天音さんは対面している人の方へとつまづいた。俺ならばぶつかってしまうところだが、その人は違った。
俊敏に天音さんから逃れ、軸足でバランスをとりつつ、天音さんの後方へと回る。だが、その回避に勢いがつきすぎた。
「え?」
そのまま扉前にいた俺と激突。
「あら〜、初対面の人と仲が良いね」
という天音さんの能天気な発言は無視しといて。
「痛っ〜!誰だよ!」
ボーイッシュな声は俺の上方から聞こえてくる。俺に跨り、声を荒げている少女が目に入ってきた。青がかった短髪と、引き締まったウエスト。そして、キリッとした目。活発さを連想させる少女だった。
瞬間、目が合う。
「な?!」
と、言葉が途切れ途切れに出たのも一瞬。俺が朦朧として、触ってしまっていたものが悪かった。
ふにゃっとした感触。恵よりは、無いな。香澄と比べたら、どちらだろうか。
え?なんの話だ!なんの話をしてるんだ!
「こ、こ…………この、変態!」
右ストレート炸裂。
それは綺麗に俺の溝に決まった。
「兄さん!この女!」
そして、大乱闘が始まりました。
さて、数分経った頃。
部室内には静寂が広がっていた。そして、その中央にいたのが、天音さんだった。
先ほどまで暴れていた二人は今は大人しくなっていた。
「天音さんって怒ると怖いんだな」
そうなのだ。大乱闘中、天音さんが激怒。そのまま二人を笑顔のまま追い詰めていき、そしてこの有様になったのだ。
「だろ。天音は怒ると超怖いんだよ。え?ちょっと待てよ。天音さん、だと」
「すーちゃんなんですか?」
え?今この人のこと『すーちゃん』て呼んだ?あんな暴力的だった子のあだ名が『すーちゃん』そんなばかな。
「人前ではやめてくれよ」
と、照れているのはすーちゃん。
「で、なんでこいつらを連れてきたんだ」
「そうなの。この子たちを新入部員にしようかなって考えてるの」
「え?」
と露骨に嫌そうに俺の方を見てくる辺り、すーちゃんは俺のことを嫌っているのだろう。
そりゃそうだよな。さっきあんなこともあったし。
「折角ですけど、俺はパスしてもいいですか?」
「兄さんがそう言うのなら」
「空手部があるので」
「すーちゃ〜ん」
涙目になった天音さんを見てスーちゃんは。
「よし、そこの男、お前は入れ。そしたら妹も付いてくる。そして、横のやつ。空手部やめてうちに来い」
急に態度を変えやがった。
嫌そうだったじゃん。だから、俺だって遠慮したのに。
「でも、そんな無理やり」
「いいんだよ、天音」
よくないんだよな。
「それに部活入ってないだろ?」
「まあ、そうですけど」
「じゃあ来い」
今まで部活に入っていなかったから、行っていいのか迷ってしまう。
「一つだけ言っておく」
「なんですか?」
ゆっくり息を吐いて吸う。そしてスーちゃんは言った。
「NO部活、NO青春だぞ」
は〜。そうですか。
すーちゃん登場!




