神出鬼没のヤンデレさん
時系列的には一部分目『最悪、襲来』の翌日の話です。
二部分目『再婚ですか、そうですか』の続きの話は、次からです。
そこではヤンデレ成分が全くありません。なのでこれを間に挟みました。
何卒よろしくお願いします。
「ん……んっ」
宙に揺蕩う意識をなんとか掴もうとしながら、俺は身を起き上がらせようと努力していた。が、なぜかできない。
昨日は全然寝れなかったからな。妹の襲来によって。
体がすごく重い。でも、布団の中は暖かくて心地よい。こんなの起きてられるか。もう、寝る。この心地よい空間で寝る。学校なんて知るものか。
その揺蕩っていた手から急に力が抜け、そして落下。
"ぷにゅ"
と可愛らしい感覚が一つ。ああ、めっちゃ気持ちいい。と何度か右手を開き閉じ、開き閉じ。
「はう……あっ……………うっ」
…………そんな、嘘だろ。
「あっ、兄さんおはようございます」
そして横目には香澄の顔。いつ見ても可愛いその顔があった。そして予測通り俺の手は、香澄の胸の方に伸びていて。
「うわぁぁぁぁあああああ!!」
「きゃあ♡」
さっきまで虚ろだった意識が完全に覚醒し、俺は目の前のヤンデレから距離を取った。
「兄さん………続けないんですか?なかなか上手でしたよ?」
言うなぁぁぁぁあああ!妹の胸を揉んでしまったという罪悪感がぁぁぁああああ!
一方、香澄は。
「なあ香澄」
「なんですか?」
「なんで………服脱ごうとしてるの」
「なんでって、兄さん決まってるじゃないですか」
ああ、ロクでもない理由だろうね、わかったわかった。
「昨日兄さんと………その…」
「香澄、下行くぞ」
俺がそんなことを言わせるわけもなく、すぐさま言葉で流れを断ち切り、下へ行こうと促した。
だが、こいつはヤンデレだった。
「なんで?逃げるんですか?」
あぁ、怖いな。これだからヤンデレはいやなんだ。っていうかこいついつからヤンデレになったんだ?
「ねえ、なんで、なんで、なんで、なんでなんですか?」
目が怖い、目が怖い。そして、しれっと俺に迫ってくるな。
「いやちがう。断じて逃げてるわけじゃない。香澄と一緒に早く朝ごはんが食べたかっただけなんだ」
そう言えば、目を輝かせてみるみるうちに精気を取り戻して言った。
「そ、そうなんですか?!ぐへへ……」
はぁ、なんとか収まってくれた。これで―――――
行けると思ったのに。
いや、確かに言ったよ。『香澄と一緒に食べたい』って言ったよ。でもさ………。
でもさ。
「兄さんあ〜ん」
なんで、俺の膝の上に座ってんだ。それは俺の太ももとちょうど九十度になるように太ももを重ねて、要するにお姫様抱っこの座ってやる版みたいな感じの座り方だった。
「香澄これはちょっと…」
「あ〜ん」
どうやら有無を言わさないらしい。その目はまるで『兄さんは言ったことを決して違えない』と思ってるかのごとく凛としていた。
いや言ったけどさ。ニュアンスが違うんだよな。
「………」
「………」
おい!ほら見ろ。母さん父さんドン引きだぞ。そりゃそうだ。昨日までおとなしかった少女がいきなりこんなんになるんだから。
人前では自重しろって。いや人前じゃなかったら何してもいいってわけでもないからな。
「な………!」
ほら、父さんが何か言おうとしてる。言ってやれこの恥知らずに。
「仲良くなったな」
「そうね」
はあ?父さん母さんどんだけ楽観視してるの。これどう見ても危ないやつでしょ。
兄弟のスキンシップ超えてるでしょ!
そんな叫び虚しく、朝食は続くのだった。
そんで今は登校中。
「へえ、そうなんだ」
「そうなんですよ」
「それにしても恵先輩はいつ見ても大っきいですね」
それの目が向く方向は恵の胸。たしかにたゆんたゆんだ。恵が注目されているのが、これが原因の一つであったりもする。
「大っきくてもいいことないよ。香澄ちゃんぐらいのサイズがちょうどよかったな」
対する香澄は小さくはないが、大きいと言えるほどではない。
というよりお二人さん。その会話、男子がいないところでやりません?
俺男子ですけど。
「まあ兄さんは小さいくらいが好みのようですけど」
「な?!」
「違うからな!誤解だからな!」
一瞬、恵はその目を俺に向けてきたが、俺のその言葉に正気を取り戻す。
が。この最悪はさらに燃料投下する。
「何言ってるんですか?朝もあんなに…………」
「たくちゃぁん」
半泣きになる恵。そして、叫ぶ俺。
「あああああああ!止めろ!あれは違う。違うんだ。だから誤解はやめてくれぇぇぇぇぇええええ!」
別に香澄は間違ったことを言ってるわけではないのだが、俺はそんなことにも気付かず無意味なことを叫んでいた。
そして学校。
今まで通りの授業中。その四時間目終了のチャイムが終われば、いつもと違う日常に変化した。
「兄さん」
やっぱり。やっぱり来たか。
俺のそばに立つようにしている香澄の邪魔をするかのように恵が、俺と香澄を隔てた。
「なんでここにいるのかな、香澄ちゃん」
「兄さんと一緒に食べようと思ったからですが、何か?」
「いちいち2年の教室に来なくてもいいよね」
「兄さんがいるので」
ビリビリビリビリと火花が散っている。目線と目線のぶつかり合い。それが最高潮に達しようとしていたとき。
「じゃあ、みんなで食べようか」
隼人がそう切り出していた。まじか、このムードでよく行けたな。
だがグッジョブ、隼人。
かくして昼休みは始まった。
「そういえば兄さん。この前の昼休み私の胸を揉みましたよね」
「「ブッーーーーー!」」
俺、香澄、恵、隼人が囲うグループでその内二人が吹き出していた。
もちろん一人は俺だ。だってそんなこと言われると思わないじゃん。
いや、事実だけどさ。事実だけどさ。
そしてもう一人は、恵。
涙目になって俺の方を見ている。
「あれは、お前が階段からこけそうになったから支えただけで…………不可抗力だ」
「そ、そうなんだ」
恵はなんとか持ちこたえてその話題は終わった。一瞬『チッ』と舌打ちする音が聞こえたが、聞き間違えだろう。
嘘です。バッチリ聞こえました。うちの妹の香澄です、すいませんみなさん。
「そういえば、兄さんこの前私がまだ入ってるのに、風呂場に入ってきましたよね。そして、二度見した」
「たかちゃぁん」
こいつ何回泣きそうになるんだ。
「入ってるとは思わなかったんだよ………………………………………不可抗力だ」
流石に無理がある言い訳は案外すんなりと受け入れられていた。主に恵に、だが。
これで香澄の暴露大会は幕を下ろす。
これは心臓に悪いわ。
そして、帰り。
恵とも分かれ、香澄と二人。
「今日はなんであんなに誤解を生むような発言したんだ」
怒ってはいるが、事実を言われてるからあんまり強くは怒れない。
「だって兄さんが他の女と一緒にいるから」
いやぁ、恥ずかしい。とも別に思わない。なぜなら、文面上は照れているように見えているだろうが、実際の表情はすごく怨念深かったからだ。
いやぁ、怖い。が妥当な感覚だ。
「兄さんは私とずっと一緒にいなきゃダメです」
そっと、香澄が俺との距離を縮める。肩と肩が触れ合い。その指と指は絡まり合っている。その表情は執着心か、それとも本物の愛か。
今は判断がつかない。
「だって、あの時も、この前もそう言ってくれましたし」
ふと、俺も思い出すことになる。あの時の出来事と、この前の出来事を。
♦︎
今ならはっきりとわかる。この感情はきっと愛だ。
この前までは分からなかった。会ったばかりは見当もつかなかった。
だが、今ならわかる。
これは兄さんへの『恋心』なんだと。
現時点でブックマークが89件。
ありがとうございます。
まだまだ未熟者ですが、これからもよろしくお願いします。
明日、連続投稿します。ヤンデレ成分が無いのでできるだけ早く終わらせたかったのです。
っていうことで
午後0時
午後2時
午後4時
午後6時
午後8時
に、二話づつ更新します。
ヤンデレなくて辛いとは思いますが、何卒最後までご覧ください