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ヤンデレvs幼馴染

 今も、今までも、たくちゃんは私の側にいてくれた。


 幼い頃から鍛錬や修行ばかりで他に手がつけられなかった。学校にお友達はいたけど、遊ぶなんてことはできなかった。


 放課後はすぐに帰って、練習があるからだ。


 毎日毎日それが続いた。何度もループしているようで、退屈で。ただ、機械のようにそれをこなしていく毎日で。


 救われない毎日で。


 別にそれがあるからといって、友達と疎遠になったわけではない。むしろ、学校にいるときはとても楽しい時間であった。


 無表情の毎日が、色褪せた毎日が、その時だけは鮮やかな光彩を得ていた。


 でも、やっぱり。私は耐えられたなかった。


 私だけだった。こんなに、力が強いのは。


 私だけだった。放課後にすぐいなくなるのは。


 私だけだった。友達に遊ぼうと言えなかったのは。


 その疎外感に、孤独感に私はいつも苛まれていた。


 でも、そんな時だった。


 私をそんな日常から救い出してくれた子がいた。


 それが、神辺拓人。


 私の…………………初恋の相手だった。


 ♦︎


「恵、あの映画は…………なんなんだ?」

「なにって………」


 俺はあのどす黒い映画の内容について恵に尋ねていた。だって、あれだよ?最初は純愛ものと思って見てたのに、途中から原作者変わったのかと思ったくらいに話が変わってたもん。


「ただの、恋愛映画でしょ?」


 そう、そうなのだ。映画館から出ても、周りの人はあの内容に納得していたのだ。


 俺がおかしいんだろうか?分からないが、たしかに引き込まれるような世界観であったのは否めない。


「でも、すごいな。あんなにストレートに自分の気持ちを言えるなんて」


 うん、男の子はあんなことされたら嫌ですよ。ストレートも考えものですよ。


「私も………うんん、なんでもない」


 そう言って取り繕ったような笑みを浮かべた。恵はなにかを我慢しているようでもあった。


「じゃあ、そうだな…………昼ごはんでも食べに行くか」

「あ、うん」


 よかった、元気そうな顔に戻った。あれ?恵ってこんなに食事が好きなんだったっけ?



「色々あるな」


 俺たちが入ったのはどこにでもあるような普通の洋食店。映画館を出て、わりと近くにあるところだ。評判も悪くはなく、日当たりもいいところからここを選んだ。


「あんまり、こういうとこ来たことなかったからな」


 だが、メニュー表が読めない。なんだ、このカタカナの羅列は。


 か、カルパッチョ?なんだ?音楽家にいそうな名前だな。


 そんな場違いなことを考えている俺とは違って、恵は手慣れたようにメニューを見ている。


「来たこととかあるのか?」

「え?あ、うん。友達と」

「じゃあ、なんかおすすめとかあるのか?」


 それに恵は首肯すると、机で隔てられた俺の方に向かって身を乗り出してきた。そして、そのボリューム満点の胸が机に張り付いたかのように、弾んでいる。


「め、恵。ちょっと、やめてくれないか?」

「え………」

「いや、違う!その、身を乗り出すのを」

「うん?」


 恵は軽く見回した。そして、自分の状態に気づいたのだ。


「………!」


 赤く染まってく頬。俯いていく頭。


「ちょっとお手洗いいいかな………」

「あ、うん……」


 気恥ずかしくなったのか、恵はその場を後にした。


 ♦︎


「はぁ、なんでこんなにうまくいかないんだろう」


 お手洗い場に入った私はため息混じりにそんなことを言っていた。たくちゃんにみてもらおうとするたびに、うまくいかない。


 どうしてなんだろう?緊張してるのかな。


 でも、このデートはとても楽しい。


 なんていっても、たくちゃんとのデートなんだから。


 私の、私の初恋の人とのデートなんだから。


 そう考えると、頬が緩んで―――――


「随分と楽しそうですね」


 え?


「私の兄さんとのデートはそんなにも楽しいですか?」


 え?え?どうして?ここにいるの?


 だって、だって。ここって確証はなかったでしょう?


「あなたの姉さんに聞いてきてみればビンゴでしたね」

「な?!」

「ふふっ」


 そして、目の前の少女――――――神辺香澄は妖艶に微笑む。


「あ、それと聞きましたよ」

「なに、を………」

「兄さんと、あなたの出会いの話を」

「それが、どうしたの?」


 私は弱り切った心情で、ほぼ衝動的に開口していた。


「あなたが通っていた、まああなたのお家ですね。そこに兄さんが現れた」


 その通りだ。たくちゃんは道場に現れた。その時はまだ姉さんも通っていた。だから、か。


「そして、あなたは兄さんと同じ時を過ごすようになった」


 これも、その通りだ。


「あなたは当時、あの道場が嫌いで嫌いで仕方なかった。なぜなら、あなたはもっと友達と遊びたかったから、もっと他のことをしたかったから」

「…………」

「いろんな人が来る中で、あなたと兄さんだけは毎日通っていた」


 香澄ちゃんはその話を続ける。


「あなたは兄さんに同じ思いを持った同士だと当時感じていた」

「うん、そうだね」

「でも、兄さんは」


『最初は親に無理矢理入れられたけど、友達と遊べなくなったけど、あんまり他のことできなくなったけど、やるからには頑張らないとな』


 そう、たくちゃんはやるからにはなんでも全力でするような男の子だった。


 私とはまるで反対な。


「だから、あなたは兄さんのことをこう思ったはずです」


『すごい人だ』


「と」


 ああ、香澄ちゃんがいいたいことなんとなく分かったな。


「恵さん。あなたら本当は兄さんのこと」


 そして、香澄は言葉を繋げた。私が聞きたくもない言葉を。


()()()()()()()()()()じゃないですか?」

「………」

「あなたが持っているのはあくまで『尊敬』の念。それを『愛情』と勘違いしてるだけなんじゃないですか?」


 その言葉は、深く、鋭く、強く、私の胸に突き刺さった。

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