頑固者たち
「はい!一回ストップ!」
見ていられなくなった俺はその決闘の間に割って入った。もちろん、足はビクビクだ。
「どいてください兄さん。そいつを殺せません」
某ヤンデレがいいそうだな。「どいて兄さん。そいつ殺せない」的な。うん、超絶怖い。
対する恵も血が頭に登っているのか、まともに話し合いができない状況に見える。
おいおい、これどうすればいいんだよ。
「兄さん。なんでそいつを庇うんですか?」
「違っ、このまま続けたって意味ねーだろ」
俺のそんな言葉に香澄はピクリとも眉を動かさない。ああ、これ相当怒ってるな。
「違いますよ、兄さん。意味はあります。兄さんに色仕掛けを仕掛けたそこの女を殺して、兄さんの身を浄化するという意味が」
ちょっと、何言ってるの?香澄も今は暴走していた。
「たくちゃん、申し訳なく思うけど、どいてくれないかな?」
「な?!」
恵までそんなことを言い出すなんて。
「そこの女に思い知らせないと」
ああ!怖いんですけど!両者が両者を睨みつけて、この緊迫状態は続く。
「ほ、本当にやめません?」
その答えは分かりきっていた。それは『NO』だ!
そして、ぶつかり合う。
「ああ!ストップって!」
そんな叫び虚しく、続こうとしていた。のだが。
「あれ?」
俺は今二人の中央に位置している。そして、二人はそのまま俺に迫るように移動している。なんか、おかしいぞ?だって、今、二人は戦っているはずでしょ?
俺の方に目線なんて向くわけないでしょう?
ねえ、そうでしょ!
「兄さん!」
「たくちゃん!」
お前らふざけんなあぁぁああああああ!
「だ、大丈夫?」
「あ、ああ。大丈夫だ。もしそう思うなら最初からこんなことするなよ」
「ご、ごめんなさい」
仰々しく謝っている恵に対し、香澄は泣きじゃくった顔で俺に擦り寄っていた。
「に、にいしゃん。大丈夫でふかぁ」
あらあら、ふにゃふにゃになっちゃって。
でも、兄である俺のことをこんなに心配してくれるなんて。香澄にもいいところがあるんだな。
「スーハー」
それを聞くまでは。
「おい」
「なんですかぁ?」
「離れろ」
「え?」
「離れろ」
「?」
「離れろ」
「兄さん、なんでなんでなんですか?」
「離れろ」
「は、はい」
や、やった。今回は勝ったぞ。
「にしても、やっぱり姉さんは強いっすね」
「そ、そんなことないよ」
謙遜しないでくださいよ、と弟子たちが恵に言葉をかけている。なかなか絵面がシュールではあるが。
「私がここまで強くなれたのは、ある人のおかげだもん」
「ん?誰なんですかい?」
「そ、それは………」
一瞬、恵が俺の方を見てくるがすぐさま目線を逸らしていた。その染まった頬とともに。
「うんうん。なんでもない」
そう、誤魔化したかのように恵は笑みを取り戻していた。だが、少しぎこちない作りにも、見えた。
そこからも稽古は続いて行く。無論俺も混ざって、だ。相変わらず香澄ら壁際で俺を見守っているだけだが、その表情が怖い。そして、主な目線の先は恵である。
「なにも起こりませんように」
そんなことを願いつつ、俺は稽古を続けていった。
「兄さんそれは私が洗います」
「いや、結構です」
嫌な予感がするので。
「いえいえ、そんなこと言わずに」
「いえいえ、本当に結構ですので」
鼻息荒くそんなこと言われたら怖いです。
「いいから、兄さん渡してください。早くっ!」
「うっ!ダメだって。これは借り物なんだから」
「知りません!」
頑固者だな〜。うん、頑固者よりタチが悪いな〜。
「兄さん〜」
でも、それを可愛いと思ってしまう自分もいた。
「たくちゃん」
「何?」
突然、恵に声をかけられた。
「やっぱり、香澄ちゃんのこと好きなの?」
「?!な、なんで?」
「いや、だって………」
恵は言うのも恥ずかしそうで。だが、若干の怒りも孕みつつ。
「あんなに、イチャイチャして」
「イチャッ、してねーし!」
「してたもん!」
あ〜。こいつも頑固者か〜。
「なに?その顔?」
「いや、別になんでもないけど」
勘付かれたか、恵がそんなことを言ってきた。
「あ、そうそう」
「何?」
「明日、デートに行こう?」
「おう。おう?」
理解が追いついていない。あまりのことに噛み砕く時間がなかったのだ。
「やった」
小声でそんなことをつぶやく恵。それだけで、俺が今何をしたかがわかった。
「で、デートぉぉおおおおおお?!」




