戦闘用妹?
「え?」
こいつは、俺と香澄が出かけた時に絡んできた輩のボス。そんなやつがどうしてこんなとこに。
道場破りか?
「おう!来たか!」
「え?!」
建造さんの元気そうな言葉が飛べば、門下生たちは笑顔で挨拶を返している。そう、門下生たちは。
そして、俺の頭の中にある説が浮上する。それは見事事実を射抜くことになるのだが。
「まさか………!」
「うん。この人たちはここの生徒さんだよ」
えー。意外だな。
こんなところに通ってるなんて知らなかったよ。たしかに強そうだったもんね。ここに通ったら強くなるもんね。ああ、なるほど。だから、ボスはあんなにも優しかったんだ。
えー!意外すぎんだろ!
ヤンキーとか不良とかがここに来るとか知らねーわ。聞いたこともねーわ。
そんな俺の頭の中のタイフーンなど知る由もないその男は。
「牛原圭介です。よろしくお願いします」
と、自己紹介をしていた。
「こ、こちらこそ」
そのあまりの迫力に思わず返事を返してしまった。
「はぁ!」
そんな気合の入った声が道場では聞こえていた。腕が宙を舞う音、足が勢いよく地に付く音。無論、俺もその音源の中の一人だ。
「せいやっ!」
ああ、懐かしいな。昔はこんな活発に声を出してたんだった。大声を出す機会もなくなったからな。やっぱり久ぶりに感じる。
だが、やはり。この前の件があったせいかもしれないが。
牛原圭介。お前には違和感しか感じねー!
横目には香澄の笑顔が映る。壁際によって俺の方をじっくりと眺めていた。その瞳は獲物を喰らう大蛇のようだった。
「じゃあ。ウォーミングアップは済んだろう?今から試合を始める」
建造さんがそんなことを言うと、各々は自分の相手を探しにか、動き始めた。
「た、たくちゃん。私と―――――」
「恵さん。お願いします」
俺になにかを言おうとした恵だったが、その恵に試合のお誘いが殺到。そのまま、試合する流れとなってしまっていた。
無論、恵が負けるわけがないのだが。
「たくちゃん。やろ?」
恵の突然の上目遣いによって俺は目眩を起こしてしまう。だって、可愛すぎるんだもん。
「あ、ああ」
後ろから黒い眼差しが俺を指している気がするけど、気のせいだろう。そうだろう?香澄。
道場中央に設置された場所でそれは始まる。
最初は俺の突貫だった。小学生の頃も、とにかく前に突っ走って先手必勝するのが、俺の作戦だった。
作戦というには杜撰すぎるが。
もちろん、恵はそんなもの軽々と避ける。横から迫った恵の拳を腕で逸らすように防ぎ、間合いを取った。
一度、呼吸を整えてから、お互いじわじわと接近して行く。足を地面に擦るようにして、間合いを詰めていく。
そして、動いたのは恵。
一瞬で俺までの距離を詰め、その腹に拳を入れ込もうとしていた。それを俺は寸前で回避する。ほぼ、条件反射だ。まぐれだ。
そして、恵の横を取るように俺は迫るのだが、その瞬間恵も俺の方向を向く。
よって、二人の顔の距離は異様に短く、すぐそこに見れる範囲だった。
「あっ!」
「ひゃっ!」
そして、俺の胸板に柔らかくかつ反発的なものが押し込まれる。ピンク色の唇から溢れる甘やかな吐息と共に。汗ばんだ胴着の胸あたりは少し開けていて、中がうかがえるようだった。
「………たくちゃん、見ないで。恥ずかしい」
「ああ!ごめん。すぐにどくから、今すぐどくから」
「いや……見ても、いいんだよ?」
なに、言ってんの?そんな恵の顔はやはり真っ赤に染まっていて。だが、逆にその表情が俺の何かを刺激するようで。
そんな、思考に脳が侵されそうになったとき。ある凛とした声がその場に広がった。
「兄さん?」
「ひっ!」
暗く、虚ろな瞳が俺を捉えている。もちろんそれの持ち主はヤンデレである香澄だ。
もう、生きてるのかも怪しいレベルの瞳なんですけど。
「怖がらないでください。悪いのは全部あの女ですから」
そう言い終えると、香澄は恵の元へと詰め寄った。そして、渾身の右ストレート。それを察知していたのか、恵は戦闘態勢に入っていた。振るわれる右拳を逸らすように避ける。
「死ねっ!」
そして、間髪入れずの第二撃。空いた左手からその拳は振るわれる。恵はこれを後方への跳躍で回避する。
「ちっ!ちょこまかと!」
香澄は絶えずその攻撃を続けている。乱打乱打乱打乱打。狂ったようにその攻撃は続いた。それを恵は軽々と逸らし、受け止め、避け続けていた。
明らかに香澄の優勢に思えた。
が、香澄は次の瞬間恵から間合いを取るように後ずさっていた。
そして、香澄がさっきまでいた場所に向かって、恵の拳は振るわれていた。ボワっと風の音が辺り一面に広がった。それほど、その攻撃威力が高かったことがうかがえる。
「姉さんと、互角?」
牛原の方からそんな声が聞こえた。
「一体、彼女は何者なんだ?」
「妹、のはずだけど」
妹がこんな武闘派タイプとか聞いてませんでした。




