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放課後デート?

「ばいばい」


 そんな声も俺にはかけられない。なぜなら、俺と香澄は帰るところが同じだから言う必要がない。違うやつらは元より俺には話しかけて来ないからだ。


 主にヤンデレ(こいつ)のせいで。


 そう、あくまでヤンデレのせいだ。友達がいないわけじゃない!断じてない!


 そんな言い訳を頭の中でしつつ。


「あれ?恵は?」

「知りません。っていうかあんな人のことどうでもいいでしょう、兄さん」

「いや、でも幼馴染だし」

「兄さんと私の邪魔をする人なんて、害虫でしかありません。ようやく私たちの安泰の時間がやってきましたね」


 と、香澄は本当に嬉しそうに話しかけてくる。俺としてはどうにも答えにくいが。


「というより、今日の昼も全然兄さんと喋れませんでした。………ですから、今から語らいましょう。ずっと語らいましょう。死ぬまで語らいましょう」


 こういう言葉はスルーして。


「そういえば……」


 香澄は部活に所属してるのか?と聞こうとしたときに、俺は思い出していた。


「ああ、そっか。今日恵は夕練の日だったな」

「兄さん…」


 恵のことを喋る俺に香澄は鋭い視線を浴びせていた。さながら、浮気を疑う妻のような目線だ。


 まあ、見たことないけど。


「そんなことより、兄さん帰りどこか寄りません?」

「え?あぁ、そうだな」


 今日は金曜日だし、明日は何もないはずだから、いいかな。


「わかった。駅ら辺をぶらつこう」

「はいっ♡」


 相変わらず、可愛いんだか、怖いんだか。



「兄さん!あれどうです!」


 これは放課後デートですか?いえ、兄弟での買い物です。そうですよね。


 驚くほど香澄は好奇心旺盛だった。百均ショップだったり、雑貨屋。書店にも足を運び、漫画を数冊。もちろん俺ようだ。香澄は何やら『簡単!誰でも作れる特効薬激選!』とかいう怪しさMAXの本を買っていたが。


「この前行ったショッピングモールもなかなかでしたけど。その下の、駅周辺には面白いものがたくさんありますね」

「……そう、だな」


 その笑顔があまりにも美しくて、俺は一瞬息を止めていた。本当になにもなければただの可愛い女の子なんだけどな。


「あっ!兄さん。あれはどうですか?」


 香澄が興味津々で指をさしたのはクレープ屋だった。


「ああ、クレープか」

「クレープですかぁ、一度食べて見たかったです」


 ぴょんぴょんと跳ね上がるように喜ぶと香澄。その笑顔はやはり可愛い。


「兄さん!」

「わかった、わかった」


 俺はその可愛さに負け、クレープを買ってしまっていた。買っている最中に。


「可愛らしい彼女さんですね」


 と、店員さんから言われた言葉は胸にしまっておいた。香澄に一言でも言ってしまえば、絶対に壊れるだろうから。


 いや、それが香澄にとっての当たり前だから、そんなことは起きないのか?


「あれ?香澄?」


 もどってきてみればそこに香澄の姿が見つけられない。ぐるりと周りを見渡してみると、そこに香澄が見えた。


 複数の男に囲まれている香澄を。


 要するにナンパか。香澄は可愛いもんな。仕方ない。こんなとこ来たら一回や二回は必ず合うだろう。


「嬢ちゃん、これから暇?俺たちと遊ばない?」

「いえ、暇ではありませんし、私は大切な人を待っているので」

「おお、彼氏かい?そんな人より俺らの方が絶対いい思いさせてあげられるよ」


 香澄挑発するようにその男は言う。それに感化され香澄も大声を張り上げる。


「兄さんと、お前らごときを一緒にするな!」


 数秒の沈黙と、そして笑う男たち。


「に、兄さんって。お前兄貴のことが好きなのか?ハッハッハッそりゃおもしれー」

「香澄」


 俺は流石に我慢できなくなり、その場に割って入った。


「行くぞ」


 俺がそう言って立ち去ろうとするのを、そいつらが許すわけもなく。


「ちょい待てよ兄ちゃん。今、この子と俺らとで大事な話してんだわ。だから、お前は邪魔。さっさとどっかへ行くんだな」


 そんな俺を嘲るような言葉に、もちろん香澄は飛びかかろうとする。


「邪魔は………お前らだろ!」


 香澄は今まで見たこともないような形相で、先ほどまで使っていた言葉も溶け、本心で怒っていた。


 しかし、俺はそんな香澄の肩を掴み、静止させてから、動いた。


 もちろん、狙うは………。



 決着までにそこまでかからなかった。俺はたしかに弱いが、それはあくまであの化け物たちの中での話だ。


「な、なんなんだ」

「流石にお前らの言葉には俺でもイラッと来た。俺のことを貶すならまだいい。でも、俺の妹にまで手出してんじゃねーよ!」


 そんな俺の吠えはそこに反響してくる。


「行くぞ香澄」

「はい……兄さん」

「おい!」


 この近くじゃない。遠くから、その声は聞こえてきた。


「なんだ、この惨状は?」


 俺たちを襲った集団のボスのような立ち位置のやつが、俺と香澄に向かって話していたようだ。


「お前がやったのか?」


 そしてそいつは俺に話しかけてくる。


「ああ、だが、元はと言えばお前らが俺の妹にちょっかい出したのが原因だからな」

「そうなのか?」


 そいつは仲間に話しかけていた。話しかけられた俺たちを襲った奴らはうんうんと首肯している。


 なんか、あっさりしてるな。こんな奴らだったら、違う!とか言いそうだけどな。


 なあ、香澄と。今からその話をしようとしたとき、理由が見えた。香澄が怨霊がましい目線で彼らを睨んでいたのだ。


「そうか………」


 ボスは一瞬静かになると。


「それはすまなかった!」


 とだけ、叫んでいた。

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