恵と香澄
この前ランキング見たら、ジャンル別日間ランキング現実世界〔恋愛〕で三位になってました。
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名前変更しました
[香織→恵梨]
夕食はわりと盛り上がった。
その後は各々の別行動、ということになっていたのだが。
「香澄、お風呂には入らないの?」
「後で」
香澄が俺から離れようとしない。なぜか、俺の手を握ったままずっといる。その表情をのぞいて見ても、あまり色がない、つまりは無表情ということだ。
「香澄なんで俺にべったりなの?」
「兄さんにべったりしちゃいけないんですか?それとも、できない理由があるんですか?」
香澄、なんでそんなに怒ってんの。握る手は強く、俺を逃さないようにしているし、さらにその体と体の距離も異様だ。もはやカップルだ。
「そんなにくっつかなくてもいいんじゃないかな」
「つまり、くっついてもいい、ということですね」
そういう側面もあるけど。なんでこいつは自分の思い通りの方にしかことを持っていかないんだ。
「兄さんとあんまり一緒に入れなくなるのは寂しいです………」
そう言ってさらに俺に身を委ねてくる香澄。仄かな香水の香りが俺の鼻腔に充満して、その可憐さをさらに増大化させていた。
「で、でも。あんまり近すぎは倫理的にも、社会的にもまずくない?」
「兄さん……愛は全てを超越するのです」
もう、何言ってるかわからない。
「あっ、たくちゃん香澄ちゃん」
「め、恵か」
香さんとかに見られたら終わってたな。妹に手を出す下劣で愚鈍な生物認定とかされそうだ。
「何してるの」
「え、別に何も――――――」
そう俺が言おうとしたのに。やはりヤンデレは来る。
「兄さんと愛し合っていたのですがダメでしょうか?」
もうなんでそんなこと言うの。ただでさえ、お風呂のことでちょっと意識しているのに。
「え?でもたくちゃんはそんな雰囲気ないけど…….」
「兄さんは少し鈍いだけなんです」
「た、たくちゃんは鈍くなんかないもん」
そうだ。恵言ってやれ。
「いや、少しだけ……」
「なんでだよ!」
「いや、だって………」
ああ、そういうことか。恵の恋心に気づかなかった、と言いたいのだろう。たしかに、そうかもしれないな。
じゃない!
「とにかく、兄さんは私と忙しいのでお引き取りください」
そう言って恵は俺の前に立ち、俺をその二つの腕で抱きしめてきた。いや、がっちりとホールドした。胸に感じる緩やかな2つは、きっちりと俺にぶつかっていた。
「私もたくちゃんに用があるの、だから」
俺の片方の腕を恵が持つ。そして、引っ張る。恵の方に投げ出された俺の体はしかし、そちらへは行かなかった。
もう片方の腕を香澄が引っ張っていたからだ。
「兄さんは………渡しません」
「こっちこそ、たくちゃんは譲らないから」
そして綱引き合戦の始まり。
ああ、両手に華とはこいうことか。二人とも俺を引きちぎろうとしてるけど。
「で、恵。どうしたの」
「いや、あのね……」
家の中庭らしきところに恵みと二人きりで出てきた。結局綱引き合戦は引き分けに終わり、だが俺は恵のところに来ていた。それは、あのことも訳あってだと思ったからだ。
「返事はまだいいの」
恵の言葉にホッとする自分がいた。返す言葉は決まっている。でも、それでも……。
「そのかわり……」
恵はそのまま俺の方へと走ってきて、飛び込みざまに俺に。
「え?」
キスをした。唇ではない。ほっぺにだ。
「唇はまだ恥ずかしいから。今日は、これで………」
「もしかして、これするためだけに」
「ためだけって何よ。もちろん他の理由もあるよ」
そう言って恵は俺に近づき、はっきりと聞こえるような声でこう言った。ほんのりと頬を染めて。
「香澄ちゃんとはどう言う関係なの?」
「え?だから兄と、妹―――――」
「で、でも。だとしたら、香澄ちゃんがあんなにも………積極的になるはずがないよ」
そういうことか。つまり、恵は俺と香澄の関係を気にしてたんだ。兄弟ではなく恋人に俺と香澄があるのでは、と。
「大丈夫だ、恵。俺と香澄はそんな関係じゃない」
「本当に?」
「ああ」
まあ、ちょっと向こうのスキンシップが激しいのは認めるけど。そういう関係では一切ない。絶対ない。
「だ、だとしたら私にもまだチャンスはあるんだね」
ほ、本人としては答えづらいな。俺はそんなことも相まって適当に首肯だけしておいた。だって恥ずかしいんだもん。
「私は、諦めないから。絶対、絶対に」
そんな言葉と強い眼差しで俺を見る恵。はっきり言ってその姿は可愛い。だが、俺は………。
「じゃ、じゃあ。また明日ね、たくちゃん」
「あ、ああ」
そのまま恵は立ち去って行った。
冷たい夜風が吹いているその空の下。俺はたしかにその寒さを肌身で感じていた。
だが、俺の右の頬。
そこだけは、なぜか温もりを保っているようだった。




