柏木家について
ついに姉の名前が、解禁。
名前変更[香織→恵梨]
読み方は『えり』です。
「話していこ?」
「な?!」
「だめ?」
恵は可愛くそんなことを言ってくる。やめろ上目遣いやめろよ。可愛すぎんだろ。
「昔はよくやってたし」
「で、でも俺たちもうこんな歳だし」
「昔はやってた」
その強い眼力に俺もなぜかあっさりと折れてしまう。
「わかったよ」
俺は渋々その風呂へと戻って行った。
戻ったはいいけど、話す話題がなんもない。そして超絶気まずい。恵を横目にしても俯いたまま何も話そうとしないし、俺といえば反対方向を見て気分を紛らわそうとしているし。
「たくちゃん……」
ふと、恵がなにかを切り出した。
「ん?なんだ?」
「香澄ちゃんのこと、どう思ってるの?」
この前香澄にも同じ質問されたな。同じような返しでいいだろうか。
「もちろん好きだよ。あと、恵のことも」
「ははは…………」
乾いた、落ち込んだ笑みを見せる恵。いつも表に出てるその明るさが今日はなぜか出ていなかった。
「たくちゃんは優しいからね」
小声でそう言った恵のそれは俺に届くことはなく、同時に恵の心を締め付けていた。
「たくちゃんにとってはまだ、私はただの幼馴染かもしれないけど……」
それも小さな声で、か細く薄い声でその周囲を回る。だがやはり、俺の元へその声が届くことはなかった。
「私は、たくちゃんのこと好きだよ」
しかし、次の一瞬、発された声は俺の元に届くことになる。空気を震わせ、波となり、そして俺の鼓膜へ届くことになる。
「俺だって――――――」
そう言おうとした直後。
「私は」
俺の言葉に被せるように、大声を茜は出していた。その表情はひどく真剣で、それが嘘ではないことを意味していた。
「幼馴染として、とか。友達として、とか。じゃなくて…………」
そして、その言葉を紡ぐ。
「一人の男の人として、たくちゃん」
赤面した顔を隠しもしないで恵は必死になっている。
「あなたが好きなんだよ」
そして、それは紡がれた。
「え?」
俺は一瞬理解に追いつかない。
恵が俺のことを好き?幼馴染としてじゃなく、友達としてじゃなく、ひとりの男の人として?だって、恵は幼なじみで、そういう関係じゃなくて。もちろん、嫌いなわけじゃないけど、急にそんなこと言われても。
「急にそんなこと言われても戸惑うよね」
どこか寂しそうな眼差しをした恵。
「いいよ。けど返事は返してね。そうじゃないと、私悲しいから」
「ご、ごめん」
「たくちゃんが謝ることじゃないよ」
「じゃ、じゃあ俺はこれで」
そのまま俺は逃げるようにその場を去って行った。
俺は、最低の人間だ。
そのテーブルは椅子に座るタイプではなく、座布団の上に座るタイプのテーブルだった。
建造さん、文香さん(母)、恵梨(姉)、恵、そして俺、香澄の順番でテーブルを囲っていた。
「それじゃあそうね、香澄ちゃんもいるし。自己紹介から始めましょうか。お互い久しぶりでもあるんだし」
かくして自己紹介は始まった。
「俺は柏木建造。得意なものは拳術、組手、試合だ。よろしく」
謎のテンションからの武闘派アピール。この人はいつも凄いな。
「じゃあ私ね。建造の妻、文香です。得意なものは手芸、料理に、あとギターかしら」
「え、ギターやってたんですか」
「ちょっとだけよ」
へえ、知らなかった。改めて自己紹介するもんだな。
「ちょっと聞かせてくださいよ」
「分かったわ」
そう言って文香さんは手持ちのスマホを取り出し、その映像を流し始めた。そこには…………。
『ギリギリ、ファッ◯ュー!』
そんなことを全力で叫ぶ集団が。微妙に後ろから音楽が聞こえるから、バンドか何かだろう。
へ?
まさか………!
「お恥ずかしい」
まじかあぁぁぁぁぁぁああああああああ!
この人そんなことやってたんだ。凄いな。ある意味建造さんより凄いわ。
「はいはい、終わり。次は私の番ね」
そう言って立ち上がったのは恵みの姉である――
「柏木恵梨。好きなことは、そうね………。ゲーム、漫画、アニメ、それと恵かしら」
なかなかの生活がうかがえる人だな。
「あっ、嫌いなものはそこのやつ」
そして、俺は指を刺される。なんで嫌いなもの言うの。誰も言ってなかったじゃん。
「前例は覆るものなの」
俺の脳内など察したかのようにそんなことを言う香さん。腹立ってきたわ。
「じゃあ、私は柏木恵、よろしくね。好きなものは、りんごと、ケーキ、それと………」
一瞬俺の方を眺めるが。それは一瞬。真っ赤に染めた頬を隠すように、すぐに座った。
「じゃあ次は妹ちゃんの番か」
「俺の番だ!」
香さんの俺嫌いは正直に直して欲しい。
「俺は神辺拓人。好きなものは、焼き菓子とか、かな」
俺はすんなりと終わったが次の番は……,
「じゃあ、私ですね。私は神辺香澄です。兄さんの妹で、同時に運命の人でもあります」
ほら、やっぱりこうなった。
「私の運命の人を横取りしようとは思わないことです。もしそのようなことがあれば………」
柏木家全員ドン引きだぞ。
ストンと可愛く腰を下ろし、それは自己紹介の幕下げを意味していた。
「少年………」
建造さんが低い声音で切り出した。うん、こうなると思ってた。絶対なると思ってた。
「めっちゃ兄好きな妹だな」
さっきまでの鈍重な雰囲気とはまるで違う、フランクな雰囲気に早変わりしていた。
俺は一つ言いたい。
は?
ブックマークが1500越えしてました。
本当にありがとうございます!これからもよろしくお願いします。