クラスメイトの命
サブタイトルだけ見ると、なかなか重たい話。
それと、ブックマークが500件超えてました。みなさんありがとうございます。これからも、よろしくお願いします。
今日の授業は終わり、ホームルームも終わり、いまからは下校の時間だ。俺のクラスの担任は終わるのが早いので有名なのだが。
「兄さん、帰りましょう」
なんなのこいつ!終わって秒単位で来てるぞ。どんだけ早いんだよ。ホームルームとかあるだろ。移動距離を考えろよ。物理法則を無視するなよ。
ヤンデレが加わってからの日常は本当に大変だ。朝はキス(本人曰く目覚めのキス)で起こされそうになるし、登下校は俺にべったりだし、昼休みは俺のクラスに食べに来るし、そのせいで周りからの目線が痛いし。
最悪だ。
今も、だ。クラスからの黒い視線が俺を貫いて止まない。
「香澄ちゃんは部活とか入らないの?」
そんな声をあげたのは救いの女神こと柏木恵、俺の幼馴染だった。対する香澄は笑顔のまま恵の方を向き。
「なんですか?私は今、兄さんと話してるんです。あなたのせいで兄さんとの会話の時間が減ってしまったらどうするんですか。まさか、兄さんと会話をさせないために邪魔してきたんですか。もしそうだとしたら私はあなたをころ――――――」
俺は身の危険を感じ、香澄の口を後ろから抱きつく形で抑えた。
香澄、それ以上はダメだ。
お前の身が危ない。
「に、兄さん……」
そんな俺の心配とは裏腹に香澄はうっとりとした表情で俺を眺めていた。
「そんなこんな大勢の人の前で抱きつくなんて」
香澄がそんなことを発言した瞬間。
「そうだぞ!」
「香澄ちゃんがかわいそうだ!」
「大勢の人の前でそんなことするとか、デリカシーに欠けるんじゃないか!」
ここぞとばかりに俺への一斉射撃が始まる。俺みんなからいじめられてるんだけど。俺の方がかわいそうだろ。そんな言葉責めが俺を貫く中。その声が聞こえてきた。
「これだから、神辺は」
そんな嘲るような声が空間に飛んだが瞬間、俺の腕の中にある香澄の感覚が消え去った。
「黙れ!」
その一言で教室は一気に静まり返った。
「あなた達ごときが兄さんのことを馬鹿にするな!」
香澄、俺のために怒ってくれるのは嬉しいのだが、その……本気で人を殺せそうな目でみんなを見るのは止めようか。ほら、みんなまじで怖がってるもん。遺言とか書こうとしてるやついるもん。
「か、香澄。俺は平気だから」
「ですが、兄さん。こいつらは……」
「気にしてないから」
「そ、そうですか。お恥ずかしいとこをお見せしました」
その瞬間、張り詰めていた緊迫感が解けるように無くなった。
しかし、ヤンデレがこれで終わるはずもなく。
「ですが、今度また何かあれば………わかってますよね?」
殺意のこもったそれを聞いたクラスの面々は、一斉に首を上下していた。もう逆らいません、的な。
光景が超シュールなんですけど。
「じゃ、じゃあ香澄行こうか」
「はいっ♡」
俺にだけに見せる無邪気な笑顔をみんなにも見せてあげたらいいのに。そうすればきっと、俺に頼らず生きていくことができるのに。
俺が教室を出ようとした瞬間。肩をポンと叩かれ、香澄に聞こえないように小声でこんなことを言ってきた。
「俺たちの命………お前に託した」
重すぎんだろぉぉぉぉぉおおおおお!クラスメート全員の命を俺一人に持たせんなよ!
そんな悲鳴を叫ぶわけにもいかず、適当に「お、おう」とだけ返しておいた。
「兄さん?」
「いや、なんでもない」
仕方なく、俺はそのまま帰路へと着いた。
♦︎
「ふん!」
ボワッと風を薙ぐ音が聞こえた。私は白い道着を身に纏い、その手足を使って技を繰り出していた。
「ふんっ!」
私は無意識なままその動作を加速していった。他のメンバーがいる中でも、私の動きは特に際立っていると思う。
「ふんっ!」
強く、殴る。強く、蹴る。強く、技を打つ。
その動きは可憐であり、豪快。
私はそれを続けていく。何回も、何回も。鬱憤を晴らすように、何度も。そして、そのせいで周りが見えなくなってしまっていた。
バーンッ
と、壁の破損音が耳をつく。前を向いてみれば私は壁に向かい拳を突き出していた。
そして、その拳は壁を壊すまでに威力が付いていたのだ。
「ど、どうしたの、恵?」
言われて私はようやく状況を理解した。私が殴って壁を殴って壊した事実を。
「え?あっ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
「別に良いけどさ」
「何かあったの?」
友達が私にそんなことを言ってきた。
「いや、その………」
「そういえば、神辺くんとはどうなったの?」
バーンっ
と、本日2回目。
「あっ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
私、どうしちゃったんだろ。いや、そんなのは決まってる。
香澄ちゃんのせいだ。こんなにも心がモヤモヤして、こんなにも心が苦しくなるのは。
だって、だって、私は………たくちゃんが好きだから。
「恵もそういう時はあるでしょ」
「黒帯だし」
「もう!それとこれとは関係ないでしょ!」
柏木恵――――黒帯保持者。




