開花前の日常⑩
ついに最後だ!
ヤンデレ解禁です。最後にちょろっとだけだけど。
私は小学生の頃、いじめにあっていた。
相手がそう思っていたかどうかは定かではないが、少なくとも私はそれをいじめだと判断していた。
裏に回る、悪風悪評。大人にバレないようにする陰湿な嫌がらせ。先生の目がないところでの暴力。
痣はみるみるうちに増えていった。
父親はもともと怒りっぽい性格だった。気に入らなければ物に当たり、それでも気が済まなければ私たちに当たる。
その痣は父の気に触ったのだろう。父の家庭内暴力はさらに増えていった。
学校にも、家にも。居場所なんて、安らげる場所なんてなかった。だから、近場の公園で私は暇を弄ぶのを日課にしていた。
「ハハハハハ」
笑い声が聞こえた。その公園で私は地に横たわっている。なぜか、いじめっ子に遭遇してしまったのだ。
そして、殴られ、蹴られの大合戦。
私は当時の持ち物を、池に投げ込まれただ放心状態でそこに横たわっていた。
「じゃあ、また明日ね」
いやだ。こんな日常いやだ。誰もいない。誰もわかってくれない。
こんな日常嫌だ。
涙があふれ出ていた。
「なあ、そのままでいいの?」
そこには私と同じぐらいの、いや少し年上くらいのお兄さんがいた。
そのお兄さんは壁を伝って池の中に入った私の荷物を取ってきてくれた。
今まで誰にもしてくれなかった。今まで誰もしなかった。そんなことをしてくれた。
私は包み隠さず、真実をぶちまけていた。
「よく、わからないけど。お前が泣いてるのは知ってる。だからお前を助ける」
そしてお兄さんは、言った。
「少なくとも俺は」
♦︎
「あれ?香澄は?」
「いないの?」
「ああ、どこいったんだろう」
香澄が消えた。やっぱり下着見たのが悪かったのかな。いや、でも、あれは不可抗力だし。
「ごめんたくちゃん。私おトイレ行ってきてもいい?」
「あ?ああ…」
「心配なんだね……」
「そりゃそうだろう。妹だし」
なにか悲しそうな表情をして、恵はその場を去って行く。
周りを見渡すがそこにはやはら香澄の姿はなく。
「帰っちゃったのかな」
そんなことをつぶやき、軽く歩き回っているとき。そのスマホが、ふと目に入ってきた。
♦︎
「んーっ!んー!」
私はもがき、叫ぶ。だかその挙動は縄に阻まれ、声は布に阻まれていた。
「叫んでも無駄だって」
「ここは薄暗い旧ホールのトイレの個室の中」
「誰も入ってこないし、ましてやトイレになんかこないって」
男の人の豪腕な腕に押さえつけられ、私は無理矢理に寝転がらされていた。
思い出す。父が私に暴力を振るったことを。
思い出す。同級生が私をいじめ、下品に笑っていたことを。
そして、思い出す。
兄さんが、あのときのお兄さんだったんだってこと。
このモヤモヤが気になっていた。だがやっと謎は解けた。
兄さんが言った言葉。
『少なくとも俺は』
私はそれに既視感を抱いていたんだ。
今ならわかる。今なら言える。
兄さんが好き。兄さんが好き。兄さんが好き。
兄さんを愛してる。世界一愛してる。宇宙一愛してる。
兄さんに会いたい。兄さんに触れたい。兄さんに見てもらいたい。
兄さん………。
気づいたのが遅すぎた。この気持ちにもっと早く気がつけていたならば。あるいは………。
「じゃあ、俺が最初な」
そんなことを巨大な男が言う。だご、その後ろから知っている声が聞こえた。
「俺の妹に………香澄に、手を出すなあぉぁぉぁぁああああああああああああ!!」
渾身の叫びが私の元に聞こえてきた。
♦︎
その拳は古く脆いトイレのドアを容易くぶち抜いた。
そしてこもっていた男の一人がばたっと倒れる。
俺が倒した。すぐさまに襲いかかってきた残りの二人も、溝内、強打ですぐに黙らす。
「香澄……よかった」
「に、兄さん……」
そして、香澄は俺に勢いよく抱きついてきた。俺の着ている衣服を涙で濡らしながら。しばらくは、このままでいようと、香澄の好きにさせようと思った。
そして、警備員たちはすぐに駆けつけ、犯人たちを連行した。どうやら、コーンだけで旧ホールと新ホールを隔てていたために、こんなことが起きてしまったらしい。
そんな話は、半分も頭に入ってこなかったが。
俺と香澄は帰り道、二人の過去の話をしていた。
「それにしても、香澄があのときのな」
「兄さん気づかなかったんですか。私のことを。守るといった私のことを、忘れてたんですか。まさかそんなことありませんよね」
だんだん顔つきが怖くなっていく香澄。なんかさっきから様子がおかしいんだよな。
「それにしても運命ですよね」
「なにが?」
「私たちです。赤い糸で結ばれてるんだと思います。いえ、きっとそうです。そうに違いありません。私と兄さんは結ばれる運命なんです。もしそうでなかった時は…………ふふっ」
「お、おう」
なんかちょっと香澄の様子がおかしくなってきているようだが、あんなことがあったんだ仕方ないだろう。
「あの時と同じですね」
「ああ」
「私が道端で父に殴られそうになったとき、兄さんが間に入ってくれた」
「目に入ったら勝手に体が動いてたんだよ。まあ、あの時はボロボロになったけどな」
「私にとっては、それでかっこよかったんです」
そんなこと言われては、照れる。
「兄さん……」
「なに?」
瞬間、風がバッと吹き荒み、香澄の長い黒髪を幻想的に靡かせた。
「私たち、ずっと一緒ですよ」
「これからも……………死ぬときも」
主人公のあの高い戦闘能力は火事場の馬鹿力っていうやつです。
ラストちょっと展開が強引だったかな。お気に召したなら幸いです。
改めて、これで今日の連続投稿は終了です。
これからもこの作品をよろしくお願いします。




