第三話 知らない女の子の先っぽをつまんだら殺されかけた
「でっ!」
衝撃。
痛み。
だが、激痛はない。
身体も動く。
無事だったのだろうか?
「ん……」
胸の下からは柔らかな体温。
密着してるので顔は見えないが、おそらく紗佳奈のものだろう。
二人とも助かったという事か。
英留はとりあえずほっとする。
右手にはまだシーヤを握りしめていた。
ソード部分はまだ強い光を放っている。
これは止められるのだろうか?
モードを確認すると、「休止モード」というものがあるのでそれを選択した。
すると、音もなくソード部分の光が消える。
とりあえず、一息つこうと起き上がろうとするが、ふと、下でおそらく気を失っている紗佳奈の事が気になった。
いや、もちろん息をしているので、死んでいるということはないだろう。
英留が庇っていたので怪我もないと思われる。
だが、気を失っているのだ。
それは英留にとって非常に重要なことだった。
「……えーっと、財布はあるかなぁ……」
英留は超不自然に、普段入れてもいない胸ポケットの財布探した。
「あれ、ないなあ……おっと、手が滑った!」
そして、そのまま、手の平を紗佳奈の胸の側に返し、押し付けた。
柔らかな感触はこれまで何度も揉んで来た紗佳奈の──。
「……ん?」
英留は不審な点に気づいた。
確かめるために指を動かしてみることにした。
押し付けている手の指を伸ばしたり縮めたり、を繰り返す。
簡単に言えば、おっぱいを揉んだ。
「……おおっ!?」
それは、未知の感触。
彼の知らぬ間に、紗佳奈は成長していたのだ。
そう言えば最近ガードが固くなって、触れる機会はあるが、揉む機会は減っていた。
揉んだとしてもすぐに手を払われた。
その間にこんなに育っていたとは。
英留は感激した。
紗佳奈には敬意を表して名誉を与えなければならないだろう。
これからは、紗佳奈を専用のオナペットにしよう。
紗佳奈にはその栄誉を許されるだけの価値はある。
そう、これほど成長した胸にはまだまだ敬意を表さねばなるまい。
こんな何枚もの布を挟んだ上からでは駄目だ。
大きな胸は直に触り、揉んでこそ、その実力は評されるべきだ。
何しろ寝ているから、今が最後のチャンスかもしれないのだ。
そう思った英留はさっそく手を抜き、ウエストの下から服の下に伸ばす。
熱いほどに温かい体温。
滑らかな肌。
その奥に手を滑らせ、その奥へ──。
「……おお……っ!」
それは、これまでに経験したことのないような感覚。
心の奥底からの叫び、そして興奮。
それは、とても暖かく、柔らかく、だが、弾力も健在だった。
これだけのために痴漢をしてしまうおっさん達の気持ちが、今なら分かる。
いや、痴漢は女の子が傷つくから絶対駄目だが、そうしてしまう気持ちも分かってしまうのだ。
これは、いいものだ。
そして、これは人類の宝だ。
これを持っている全女の子は尊敬されるべきなのだ!
英留は一心不乱に揉み続けた。
強く揉み過ぎては壊れてしまう。
だが、出来る限り力強く揉んでいたい。
そんなぎりぎりを見極めるための調整。
それ以外の事は考えられなかった。
「ん……んん……」
だから、その女の子が目を覚ますことにも気付かなかった。
「あ……れ……? なにこ……あ……んっ!」
びくん、と身を震わせる女の子。
「……あれ?」
「……きゃぁぁぁぁぁぁっ!」
それは、英留が聞いたこともない女の子の悲鳴だった。
「何!? 何なのよこれ!?」
慌て、そして怒る女の子。
「え? あれ?」
見知らぬ女の子を不思議そうに見つめる英留。
サイドテールの金髪に白い肌、身長は紗佳奈よりは少し高いだろうか。
こちらを見て怒っているのは分かる。
「……誰?」
「あんたこそ誰よ!?」
そのまま言い返された。
「棚阪英留、英留っていうんだけど」
「エール? 知らないわよっ!」
「だろうな」
英留が知らない外国人の女の子が英留の事を知っているわけもない。
「で? あんたは?」
「あたしを知らない人間がこの国にいるわけないでしょ? あたしはフィメーラ・アラミスよ!」
「いや、知らんけど」
「何で知らないのよ!?」
お互い様のはずの相手を知らないということに、何故か怒り出す女の子。
この子が何故怒っているか。
これは英留にも分かる。
女の子は何かにつけて怒るが、その原因はそれ自体にはないのだ。
これはいつも女の子に怒られ続けた英留には完全な理解だ。
怒る原因、つまり真因は別にある。
いつも紗佳奈と一緒にいて、彼女も理不尽に怒るときは、別の原因があった。
そしてその原因はすぐに思い当たるし、それに関しては暴走して身体を弄った英留が一方的に悪い。
可愛い女の子だし、これ以上怒らせないためにも、ここは謝っておく方がいいだろう。
「……ごめん、悪かったよ」
「…………」
英留はフィメーラと名乗った女の子に頭を下げる。
フィメーラは睨んではいるが、英留の謝罪に態度が少しだが軟化した。
ここはもう少しだ。
もう少しの謝罪と誠意で許してもらえるだろう。
紗佳奈の時はどうだった?
謝っても許さないときは必ずこう言われた。
「英ちゃんは、何が悪くて謝ってるのか分かってるの? 分かってないから私は許さない」
つまり、俺がなにをしたのか理解しているということを言えば許してくれるのだ。
だから、怒っている原因をはっきりと言うべきだ。
英留は先を続ける。
「おっぱいの先っぽ、つまんでごめんな?」
「殺す!」
フィメーラは、背中に背負っていた剣を引き抜いて構える。
「!? ちょっと待てって! 何でそんなもん持ってんだよ!? それにちゃんと謝ったから許してくれてもいいだろ!」
目の前の、自分と同じくらいの年齢の女の子が、いきなり人が切れそうな武器を取り出したので英留は慌てる。
「どうしてそれで許されると思ったのよ? あんたみたいな街道で女の子襲ってるような外道は全員殺す! 一生そういうことが出来なくしてあげるわ! 女の子の明るい未来のために!」
「ちょっと待てって! 殺したら一生も何もないだろ!」
自分は正義だと思い込んでいる殺人鬼のような言い分を平然と言うフィメーラ。
そう言えばフィメーラの服装も見たことがない簡素なものだ。
派手な服を好まない紗佳奈でさえ、もう少し可愛い服を着ていたが、彼女の服は簡素、という言葉が似合うようなものだ。
最近のファストファッションはもっと派手だから、逆にどこで買ったんだろうと思ってしまう。
スカートはそれほど長くはない、これは合格だ。
上半身は厚手のブラウスを簡素にしたような服の上に、長めのマントを羽織っていた。
日本ではもちろん海外でもこんなファッションをしている子を見たことがない。
ただ、RPGの女主人公の初期衣装に似ていると言えば似ているのだが。
「幸せに思う事ね、この勇者フィメーラ・アラミスに殺されることを」
フィメーラはすっと、剣を振り上げる。
彼女の持つ剣先はぶれているし、おそらくこの子には少し重いのだろう。
剣に慣れているようにも思えない。
ましてや勇者などという意味不明な存在には全く思えなかった。
「ふんっ!」
ブワンッ!
「うわっ!?」
フィメーラがその剣を振り下ろし、襲いかかって来たので避けた。
剣先は遅い上に予備動作が多いので避けられた。
だが、その剣先は、英留の背後にあった細い木をなぎ倒した。
「え? 何だこれ!?」
もちろんその剣の長さ、彼女のリーチではそこまでは届かない。
だが、その剣の振りであの距離まで切られたのだ。
英留も避け方を間違えていれば、一緒に切られた可能性もある。
「ふふふ、これが伝説の勇者一族だけが使える剣、聖剣メリックよ!」
悦に浸るように笑うフィメーラ。
勇者とか聖剣とか何言ってんだこの子、と思ったものの、現状目の前の脅威は変わらない。
とにかく、英留としても先っぽをつまんだくらいで殺されてはたまらない。
「分かった悪かった。俺の先っぽもつまませてやるからを。許してくれよ」
「……本当に、殺されたいようね」
謝罪すればするほど、フィメーラの機嫌が悪くなっている。
これはもう駄目だ。
何としてでも身を守らければ。
そして、目の前にあったのは、聖剣、ではないが最先端武器のシーヤ。
これならあるいは。
「命乞いなら聞かないけれど、言い残すことはない?」
フィメーラが剣を構えて近づいてくる。
英留はシーヤを持ち直して、起動を探す。
どれだ? ……これか。
「でもさっき、先っぽ立ってたよな? あれって俺が揉んでたのが気持ちよかったからじゃないか?」
「死ねぇぇぇぇぇぇぇっ!」
フィメーラが般若の形相で剣を振り上げて襲いかかって来る。
英留はシーヤをオンにする。
ぼう、と浮かぶ剣先。
フィメーラの剣をそれで受けとめ──。
ごとん
「……へ?」
フィメーラの間の抜けた声。
音の先である地面にあったのは、先ほどまでフィメーラが握っていた剣の剣先。
フィメーラの剣メリックは、シーヤと交錯する際、あっさりと切れてしまったのだ。
「え? ええっ!?」
何が起こったのか、理解しているのかしていないのか、フィメーラは、自分の手にある柄の先少ししかない剣と、地面に落ちた剣先を何度も交互に見ていた。
そして、シーヤを見て、また剣先を見る。
「……メリックがぁぁぁぁぁぁっ! 勇者の聖剣がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
状況を理解したのか、フィメーラはそう大声で叫び、膝まづいて、折れた聖剣を手に取った。
「ど、どうしよう、これじゃ魔王倒せない……どうし……」
フィメーラの瞳は急激に潤み、見ている方が慌てるほどに急速に、その目は水滴を零れ落とした。
「ヴァァァァァァァ!」
いきなりの本域の号泣。
それは、年頃の少女の泣き方ではない。
幼子が親とはぐれた時のような、なりふり構わない号泣だ。
「あの、えっと……ごめん」
いきなり人を殺そうとしてきて、剣を折られて号泣する。
明らかにメンタルのヘルスが健康でなさそうな女の子だ。
正直、英留ですら扱いに困るタイプだ。
とはいえ、このまま放置も出来ない。
それに、今の状況を聞いておかなきゃならない。
とりあえず彼女を落ち着けよう、と英留は口を開く。
「俺も悪かったけどさ、人を襲うのはやっぱり良くないと思うんだ。そりゃ、俺もちくびつまんだのは悪かったと思う。それは謝るよ。だけどさ、それでもやっぱり人を殺すのは駄目だと思うんだ」
「ヴァー!」
「剣も折れたし、これからは優しく人を愛して生きていこう、な?」
英留はフィメーラの背中を撫でてやった。
いつもならここでセクハラの一つでもするが、流石に号泣するヘラーさんにはそんな事をする勇気はなかった。
「くすん……くすん……」
そのうち号泣は収まり、さめざめ泣きに移行した。
「まあ、さ、このくらいなら瞬間接着剤で何とかなるかも知れないし、コンビニあったら買ってくるからさ、もう泣きやんでくれ、な?」
「……シュンカンセッチャクザイ? コンビニ?」
まだ涙も鼻水も垂らしたまま、フィメーラが弱々しく訊ねる。
「えーっと……この辺、コンビニとかないのかな?」
ここは確か江東区だったはず。
こんな何もない場所もあるが、かなりの都心だから、一キロも歩けばコンビニの一つくらいあるだろう。
「コンビニって、何?」
「いや、何って……て言うか、鼻拭けよ。ほら」
英留はポケットティッシュを取り出し、手渡した。
「……?」
フィメーラはそれを受け取って不思議そうに眺め、首を傾げる。
垂れたままの鼻水だけが、垂直に動いた。
「ああっもうっ!」
しびれを切らした英留は、フィメーラの手からポケットティッシュを奪い、一枚取り出して鼻を拭いてやる。
「むにゅむにゅむにゅ……あにふぉれっ!?」
足りないのでもう一枚出しているときに、そのティッシュを奪われる。
「何これ? 布? 紙? 物凄く柔らかいんだけど!」
ただの街で配られていたポケットティッシュに興味津々だ。
「ただのティッシュだけど、見たことないのか?」
「な、なによ? 田舎者だって言いたいの?」
慌てて取り繕って怒るフィメーラ。
「いや、田舎者って言うか」
いまどき、ティッシュがない田舎なんて存在しないだろう。
少なくとも、日本なら。
いや、冷静に考えると、自分は確かシーヤを持って逃げて、ハイパードロップドの中に入り、絶対防御が破壊してこうなったのを思い出す。
亜空間に移動する、なんてのは現実的じゃないが、地球のどこか知らない地域に飛ばされた可能性もある。
ではここはどこだ?
紗佳奈はどこに行った?




