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第二十九話 謝罪会見

「えー、私たちは魔王を倒し、このエンメルの街は平和になりました」


 勇者フィメーラ・アラミスが、ぎこちない笑顔で話している。


「ただ、これまで魔王が居座っていたため、後釜を狙う魔物が後を絶ちません。ですから住民の要望でしばらくここに滞在しようかと思います」


 彼女が物を言っているのは、丸みのある、小さな立方体のレンズにだ。


「それで、国王陛下、私に報酬を頂けるのであれば、この街を頂けないでしょうか? 私はこの街で、ここの住民を末永く守り、暮らしていきたいと思います」


 これは、フィメーラの思いつきに、英留と夏苗、紗佳奈、パナが話し合って決めた作戦だ。

 ライヌスがいないが、それは仕方がない、馬鹿だから。


「どうか、勇者フィメーラたってのお願いを、お聞き入れいただきますようお願いいたします……これでいいの?」

「いいんじゃないのか? ただ、これを王様に送ってもやだって言われてたら終わりだろ?」


「あんた、昨日の話聞いてなかったの? これは王様じゃなく、宰相をされている侯爵様に送るのよ。支配に否定的な宰相様なら受け入れてくれるってことで」

「聞いてたぞ? けど、それどころじゃなかったから聞き逃してたというか」

「それを聞いてなかったって言うのよ! はあ、ま、気持ちは分からなくないけどね」


 フィメーラは叱りつつも一定の同情をした。

 何故なら、昨日のあれ以来、紗佳奈は英留と一言も口を聞いていない。

 英留が何を言っても完全に無視。

 まるでそこにいないかのように他の子と話をしていた。


 軽いセクハラも完全に容赦のないガード。

 それ以上のセクハラは、フィメーラによって止められた。

 つまり、英留は感動の再会に失敗してから一度も再会を果たしてはいなかった。

 それは英留ですら落ち込むことであった。


「はあ、しょうがないわねえ、あ、これじゃあ、お願いしてもいいです? お願いしますね」


 フィメーラは今撮った映像を夏苗に託した。


「ついて来て? あたしも一緒に謝ってあげるから」

「あ、うん」


 英留は、フィメーラに続く。

 フィメーラはここでもおかんらしさを発揮していた。



 魔王ティーラ・カーネを倒した英留たちは、今後どうするかを話し合った。

 帰るあてのあるフィメーラを除き、全員行き場がないため、この世界で結構裕福に暮らしている夏苗の手伝いをしつつ、養ってもらうことになった。


 それで、フィメーラが魔王を倒して帰ってしまうと、当然この地には王国から兵が来てしまう。

 だから、フィメーラも帰らず、ここで暮らすことになった。

 これでとりあえずは一件落着ではあるのだが、そこに出てきたのが、紗佳奈の問題だ。


 紗佳奈は英留のセクハラには慣れていたはずであったし、英留もそう認識していた。

 だが、英留がこの地に来てからのような派手でダイナミックなセクハラ、というか凌辱行為は日本ではしたことがなかった。

 何しろ法治国家である。


 だから、英留は昔からこのくらいのセクハラをずっとしていたと勘違いして、昨日の行為に及んだのだ。

 だが、紗佳奈からしてみれば、いきなり裸で抱き着きてきて横四方固めされるなど、考えられないことだ。

 だから、これはさすがに本気で怒った。


 紗佳奈は完全に絶交する、という宣言ののち、一切の会話をしなくなった。

 既にフィメーラから強打の連続を受け、ほぼ反省していた英留は、それでかなり落ち込んだ。

 フィメーラからすれば、完全に英留の自業自得だ。


 だが、こうずっと落ち込んでられても困るし、紗佳奈にはそろそろ許してほしいと思っている。

 これまでの英留を見てきて、まあ、あれはやり過ぎだろうが、あの程度はやってもおかしくはないと思っている。


「サカナちゃん、ちょっといいかな?」


 フィメーラは英留を連れ、二階の紗佳奈に割り当てられた部屋に来た。

 ちなみに英留はしばらく、一番奥の、内側からは開かない例の部屋を割り当てられている。


「あ、はーい、いいですよ?」


 何度ここに来ても応答すらない英留とは違い、快く返事をする紗佳奈。


「入るね? ごめん、こいつも連れて来たんだけど」

「ああ、私の知らない人ですね? いらっしゃい」


「紗佳奈、本当にごめん。マジで反省してるから」

「あ、お茶淹れますねー」


 紗佳奈は、まるで英留など存在しないかのように振る舞っている。


「エール、昨日やってたドゲザってのしてて?」

「あ、うん……」


 英留はフィメーラに言われて土下座をする。


「それで、こいつって、歯止め利かないから、こっちに来て結構派手にやってたのよ。そのせいで元々のサカナちゃんにも同じことしちゃったんじゃないかな?」


 英留はフィメーラの口調があまりに優し気で気持ち悪い、お前何食ったんだよ? と思ったが、そんなことを言えば取り返しがつかなくなるので黙っていた。


「……じゃあ、ここに来てやったこと全て言ってみて?」

「あ、うん。ここに来て最初には、このフィメーラの胸を直に触って、あと、ちくびを摘まんだ」

「ちょ、ちょっと!」


 紗佳奈はまだ怒った表情だが、フィメーラの方が焦る。


「あと、その後も胸を何回か、スカートめくりも数回やってる」

「あ、あたしはいいのよ! もう契約書もあるから二度とされないし……!」


「謝って」

「え?」


「フィメーラさんに謝って」

「あ、うん、ごめんなさい」

「う、うん……」


 なんだか妙な空気になる。

 自分は第三者としてこの二人の仲裁に来たのに、気が付くと謝られていた。


「それから?」

「あ、シーヤを使ってライヌスを──」


 こうして英留はこの世界に来てからのセクハラ行為を告白し、ここにいるメンバーに限り、謝罪させられた。

 それで、気が付くと全員がその部屋に集まっていた。


「それで、夏苗を全裸にして、ちくびを吸おうとしたらフィメーラに蹴り上げられたんだけど」

「じゃ、謝って?」


「うん、ごめんなさい」

「べつに~しょうがないですよ~男の子だから~」


 大人のお姉さんは快く許してくれた。


「それで?」

「あ、うん。幼馴染の紗佳奈に、裸であることを知った上で部屋に入り、抱きしめようとしたら逃げたから、固め技をかけました」


「それで?」

「幼馴染だからこれくらいは許してくれると思って調子に乗りました。ごめんなさい」

「…………」


 謝ったが、紗佳奈からは何の反応もない。


「あの……紗佳奈、さん?」


 英留は恐る恐る聞く。


「……まあ、英ちゃんだから、いいんだけど……はあ……やっぱりそれだけで、私も結局他の子と同じなんだね?」

「それは違う、これまで紗佳奈がいなかったからこうなったんだよ!」


 これまでずっと土下座をしていた英留が反論する。


「紗佳奈がいればずっと紗佳奈だったんだよ! いなくなったから、俺は他の子で代用したんだ。それでも我慢できなくて、久しぶりに会った時は、歯止めが利かなくなったんだ!」

「英ちゃん……」


 紗佳奈が、少し驚いたような、嬉しいような、そんな表情を浮かべる。


「やり過ぎたのは、悪かった。でも、俺は──」

「ふむ、では私たちは代用品としてあのようなことをされていたのか」


「ひどいです~」

「たとえエールでもゆるせないことはある」


 先ほど謝罪された彼女たちは、代用品扱いをされ、ひどく怒っていた。


「ちょっとこっちに来い。何、殺しはしない。死ぬほど痛い目に遭わせるだけだ」

「じゃあ~、私は、死にたくなるほど恥ずかしい目に~」


「パナは甘えるの」

「ねえ、あのさ、さっきちゃんと謝ったよね? ごめんって言ったよね? ねえ、ちょっと! 助けて!」


 英留は三人に連れていかれた。


「ま、こうなるかな」

「そうですね」


 残ったフィメーラと紗佳奈は、笑いあった。


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