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第二十八話 決着、そして、再会

「行くわよ! ライヌスは左から!」

「左ってどっちだ!」

「えい~」


 英留が妄想に耽っていると、コントをやっているのではないかと思うような、どうでもいいような光景が繰り広げられていた。

 剣に長けたライヌスは、フィメーラの指示通りには動けず、フィメーラは剣に関しては素人だから、ライヌスが攻め、それに反撃した夏苗の隙を突こうとしていた。


 夏苗の動きは緩慢で、剣の素人のフィメーラ以下だが、それでも余裕なのは、絶対防御モードがあるからだろうか。

 いや、よく考えたら絶対防御モードは最近追加された新機能だったはず。

 夏苗のいた五年前にはそれはなく、しかもこの地で作ったシーヤは、何らかの妥協と、何らかの追加機能があるはずだ。


「気が進みませんけど~、では、殺しますね~」


 のんびりとした声で物騒な言葉を吐く夏苗。

 ……殺す?


「ちょっと待ってくださいよ! 不殺モード使わないんですか?」


 英留は戦闘中の夏苗に聞く。


「不殺モード? 何ですかそれ?」


 夏苗はそう聞き返しながら、ライヌスの剣を切る。


「くっ……私の剣が……」


 剣でしか戦えないライヌスは、それで戦意が喪失する。

 だが、確実に戦闘不能にするために、夏苗はその胴を狙い──。


 バババッバシュッ!


 火花、というよりもショートしたような音。


「……エール?」


 英留は、今にも切られようとしていたライヌスへのシーヤを、その手に持ったシーヤで止めたのだ。


「あれ~? 棚阪さんは、戦わないんじゃないんでしたか~?」

「もちろんこいつらの言う、王様のためとか魔王とか、そんなことは馬鹿馬鹿しいとは思ってるさ。でもな、俺の仲間を傷つけるのは許さない」


 英留は、不殺モードを使用しないのに、ライヌスを切ろうとした夏苗に怒っていた。


「でも~、この子、私を殺そうとしたんですよ~? 私は反撃しなければ、殺されるんですよ~? 日本でも正当防衛じゃないですか~?」

「そんなことはどうでもいいんですよ。俺はこいつを殺させない。ライヌスはな、おっぱいは小さいが、身体はとても柔らかいんだ。全身筋肉はあるんだが、その上に薄くて柔らかい脂肪層があり、それがまたとても心地よく──」


「ちょっと待て! 貴様は私のことをそんな目で見ていたのか!?」

「とにかく、こいつは俺の大切なオナ……かまだ!」

「なんだか今、不思議な発音じゃなかったか!? もしかして別の意味じゃないのか?」


 ライヌスをお仲間と言ったのに本人から責められる英留。


「そうですか~。それで私を殺すんですね~」

「いや、最近のシーヤには、不殺モードってのが──」

「これを見ても~、そう言えますか~?」


 英留の言葉を遮って夏苗が見せたのは、会議室に取り付けられたモニタだ。

 そこに映っているのは、英留の知っている人間だった。


「紗佳奈……!? どうして?」


 モニタの向こうで不安げに周囲を見回しているのは、英留の幼なじみ、紗佳奈だった。


「やっぱりお仲間でしたか。つい最近、近くで倒れていたので助けたのですよ~」

「お、おう、それはありがとう。だが、あれは何なんだ?」

「もちろん~人質です~」


 にこやかな顔で、そう答える。


「……くそっ!」


 英留は剣を下ろす。

 フィメーラやライヌスは大切な仲間だ。

 だが、紗佳奈はそれ以上の存在だ。

 紗佳奈を殺す、と脅されたら、英留は二人を見殺しにするしかない。


「私に危害を加えると~あの子の服が~溶ける液体を~」


 スパンッ!


 夏苗が言い終わる前に、英留は彼女の首から肩を不殺モードで切った。


「え? や……きゃ~」


 ワンピースの袖と、後ブラジャーを切られた夏苗は腕で胸を押さえる。


「もう~、棚阪くんは~人質がどうなってもいいの~?」

「駄目に決まってるだろっ……! だが、俺は……それでも仲間を見殺しには出来ない……っ!」


 英留は悔しそうに言う。


「もちろんどっちも捨てられない……っ、だが、目の前で仲間がやられるのは……嫌なんだよぉぉぉぉっ!」


 苦し気に泣き叫ぶ、英留。


「エール……! すまない、私はお前を誤解していたようだ……」


 剣を折られ、徒手では戦闘もできないライヌスが、英留に頭を下げる。


「私はお前を、いや、お前が私を、性的なものとしか見ていないと思っていた。まさかお前が私を、仲間だと思っていてくれていたなんて……! 私は、申し訳なく思う、私はお前を……」

「気にするな、ほら、下がってろ」


「う……む。分かったが、何故いちいち胸の部分を押しつつ、指を動かしているのか分から──」

「やめろっ! そのボタンを押すなっ!」


 ライヌスの声を遮って、英留は別に今まさに押そうともしていない夏苗に押すなと怒鳴った。


「もうゆるさないよ~? えい~。あれ~? えい~! あれ~?」

「やめろっ! やめてくれっ! あ、パナ、そこにリモコンの受信機あるからちょっとどいてくれ、うんそこ。やめろっ! リモコンが使えるようになったからってボタンを押さないでくれっ!」


 泣き叫ぶ英留。

 この時、おかんは全てに感づいていたが、しばらく放っておくことにした。

 夏苗のボタン操作で、モニタに映る紗佳奈の頭の上から、ゼリー状の液体が流れ落ちてきた。


 向こうの声は聞こえない。

 ただ、最初は気持ち悪がっていただけの紗佳奈が、その液体が服を溶かすのが分かって慌て始めた。

 液は無情にもどんどん落ちてくる。


「やめろっ! このままでは、紗佳奈が、裸に……ねえこれ、もっと一気に落とせないの? ちょっとリモコン貸して? あ、この流量ってのでいいの? お、増えた増えた、ありがとう、返すね? やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! そんなに大量に落としたら、すぐにでも紗佳奈が全裸になってしまうじゃないかぁぁぁぁっ!」


 食い入るようにモニタを見ている英留。

 呆れたようにため息を吐くフィメーラ。

 卑劣な魔王め……という態度で様子を見ているライヌス。

 飽きたのでソファでうとうとしているパナ。

 そして、やっと英留の行動を理解した夏苗。


「くそっ、完全に服が溶けてしまったじゃないかっ! 許せないっ!」


 激昂する英留に、ああ、十分に堪能したのね、とまたため息を吐くフィメーラ。


「こうなったら、夏苗を倒すっ!」


 英留は、まるで最初からそんな筋書きであったかのように、シーヤ不殺モードで、動きの緩慢な夏苗を何度も切る。


「え……や、きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 鈍感そうに見える夏苗も、流石に全裸は恥ずかしいのか、胸を抱いてうずくまろうとした。

 だが、このパターンは既にライヌスや、この前の貴族の護衛でで学習していた英留。


 完全に身体を隠す前に抱きつき、フィメーラが止めるまでの数秒が勝負だと理解している。

 英留は、シーヤを投げ捨て、その豊満な胸に抱き着いた。


「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 泣き叫ぶ、夏苗。


「参ったかぁぁぁぁぁっ! お前なんて吸ってやふんぐっ!」


 英留がその乳の首に口をつけようとした瞬間、フィメーラに思いっきり頭を蹴られた。


「ヴァー!」


 気が遠のきそうな眩暈がする中、ライヌスが剣を失い、また英留の行為であの時を思い出し、治ったはずの幼児化が再発した。


「だいじょうぶ、パナがついてる」


 それをパナが慰めていた。


「てててて……」


 頭がまた痛く、立つとよろけそうだったので、座ったままの英留。


「とにかくっ! この人に勝ったからそれでいいわよね?」

「お前が殺さないって言うならいいけどさ、俺は」

「……あたしとこの人の殺し合いでは、あたしは負けてたから。あんたが殺さなかった以上、あたしはそれに従うわ」


 少しだけ憂い顔を見せたフィメーラ。


「じゃあ、お前はどうするんだよ? 倒したって報告しなきゃならないんだろ?」

「報告するわよ。その上で──」

「あ、そうだ、紗佳奈! 紗佳奈ってどこにいるんだよ、夏苗?」


 戦いの中、ナチュラルに十歳も年上の女性を名前呼び捨てに変えた英留。


「えっと、この二階の奥です~、あ、あの、出来れば私の服も~」

「分かった、一番俺が気に入ったパンツ持ってくるよ」

「あのあの、それは、別の方に~」


 夏苗の声をあえて聞かずに走り出す英留。

 二階の一番奥の部屋は、外にスイッチがあり、鍵がかかるようになっている、完全な閉じこめ用の部屋だ。


「おっと、服が溶ける液体まみれの部屋だったな」


 そう言うと、英留は服をすべて脱いで部屋の入り口に折りたたんだ。


「よし、行くか」


 全裸になった英留は、ボタンを押して、扉を開く。


「紗佳奈!」

「え_ あれ? 英ちゃん!? どうしてここに?」


「紗佳奈ぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

「ちょっと待って! 今なんだか変なスライムみたいなのが落ちてきて、服が消えて、って、どうして英ちゃんも裸きゃぁぁぁぁぁっ!」


 英留は、感動の再開を、ほぼ完全に台無しにした。

 全裸ぬるぬるの紗佳奈に、全裸で突っ込み、まだ、ハグなら分かるが、紗佳奈が逃げたため、なぜだか柔道の横四方固めを繰り出した。


 これは両腕をそれぞれ、首の下、そして、足と足の間を通して相手の胸の辺りに顔を置いて抑え込み密着する技で、男女混合の柔道でも女子にかけるのは禁止とされている技である。


 それを、裸の女の子に、裸でかけたら、よく言って変態である。

 ぬるぬるの嫌がる女の子にかけるのは、どれだけ控えめに言っても外道(クズ)である。


「紗佳奈ぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 会いたかったぞおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

「きゃぁぁぁぁぁぁっ! やめてっ! 離れてっ! せめて足だけでも抜いてぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

「これやっ! これが欲しかったんやぁぁぁぁぁふんぐぅっ!」


 幼馴染の女の子をほぼ凌辱していた、少なくとも女の子の尊厳を奪っている最中であった英留は、その腹部を思いっきり蹴り上げられた。


「アホかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 フィメーラの怒鳴り声が部屋の中に響く。

 その後しばらく溶けない木刀で全裸のまま殴られ続け、本気で心から反省する直前にフィメーラの体力が尽き、英留は全身打撲のみに終わった。


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