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第二十話 女子会話

「だからね? あたしは勇者フィメーラ・アラミスで、魔王ティーラ・カーネを倒すために旅をしていたの。でもね、エールが聖剣メリックを折っちゃったから、あいつに魔王を倒してもらうために一緒に旅をしているだけなのよ?」


 何とか長々と説明したまとめを口にして、ほっと一息つくフィメーラ。

 ライヌスとパナの部屋は、基本は英留たちの部屋と同じだが、若干ベッドや窓の位置が違う作りになっている。

 ライヌスとフィメーラが椅子に座り、パナがベッドに寝そべって話を聞いていた。


「ふむ……大体は理解したのだが。聖剣とやらがなくとも、勇者であれば戦えるのではないのか?」


 少し考えたライヌスが、そんなまっとうな事を口にする。


「……無理よ、訓練なんてしてないんだから」


 フィメーラは言いにくそうに言う。


「どうして? そしつがあるのにしないのはわるいこと」

「……だって、あたしは、自分勇者の子孫だって知らなかったのよ」


 初めての、告白。

 それは、英留にも言っていない事だ。


「あたしの両親は、あたしを普通の女の子として育てたかったから、誰も勇者なんて知らないような田舎に引っ越して、そこで暮らしてたの。だからあたしも、その村で普通の女の子としてこれまで生きてきたのよ?」


 フィメーラは笑っているが、その表情は悲しげだった。


「それで、魔王ティーラ・カーネっていうのが現れたからって言って、王様は必死に勇者の一族を探して回ったらしいわ。それで、あたしのところまで行きついて、あたしはいきなり魔王討伐の旅に出ることになったの」

「そう。わるいとか言ってごめんなさい」


「いいのよ。あたしも無理だと思ってたし。だけど、あのメリックって聖剣は物凄く強くって、魔法も使えて、大抵の敵は簡単に倒せた。だから魔王もいけるかなって思ってて、でも、それをエールに壊されて」

「ふむ。あの男は悪の権現なのだな? 分かるぞ? あいつはあれだ、うむ。外道(クズ)中の外道(クズ)だ」


 英留の話になり、ライヌスが思いっきり口汚く罵る。

 がボキャブラリーが貧困なので、結局何も言えなかった。


「うん、でも、本当に悪い奴ならあたしに付き合うこともなかったし、いつもふざけてるけど、あたしについて来てくれるし、悪い奴じゃないと思ってるわ。性根からスケベだけど」

「そうか。まあ、あいつがスケベな事だけは認めよう」


 ライヌスは英留がいないのをいいことにとにかく英留の悪口で盛り上がりたいようだ。

 とは言っても、フィメーラも基本的には英留を性格は最低だが、悪い奴とは思ってはいない。

 パナは英留が大好きなので、悪口を言うことはないだろう。


「エールは、格好いい。パナをたすけてくれた」

「む……だが、パナン殿も服を吹き飛ばされたではないか? 何故恨まないのだ?」


「でも、パナをたすけるためだから、仕方がない」

「む……むむぅ……」


 ライヌスは悔しそうに唸るだけになった。


「フィメちゃんの聖剣は、なおせないの?」

「……無理ね。完全に真っ二つになっちゃったし、刃の方は危ないから捨ててきちゃったから柄の方しかないのよ……でも、あいつの剣はメリック以上だから、行けるかなって」


 少し悲し気に微笑むフィメーラ。


「まほうでなおせるのでは」

「だから、あたしはちょっと前まで普通の田舎の女の子だったのよ。魔法なんて使えないわよ……」


 本当に、自分が勇者であると初めから知っていたら、もっと強くて、英留の力など必要なく魔王を倒せたのだろう、と思うと悔しくて仕方がない。

 だが、自分をただの娘として育てた両親の気持ちも分かるし、魔王さえいなければ自分は一生幸せに暮らしただろう、と思うと、これまでそう育てれくれたことには感謝もしている。

 結局魔王が現れたという事実がもたらした結果論に過ぎないのだ。


「魔法は、さいのう。けんきゅうは、あたらしい使い方をもさくするさぎょう」

「え?」

「パナはべんきょうは出来たけど、まりょくがなかった。だけど、フィメちゃんはゆうしゃだからあるのでは」


「魔力があれば使えるものなの?」

「うんむ。魔法はたいないのまりょくを駆使する力のそうしょう」


 舌足らずな口調で小難しいことを言い出すパナ。


「メリックはフィメちゃんも使えたと言ってるけど、魔力があれば使えるまどうじょうの役割だったとおもわれる」

「魔導杖……魔法使いが持ってる杖だよね? それであたしが魔法を使ってたってこと?」


 メリックは剣であり魔導杖でもある。

 その見解は、魔力も使えない中、必死に魔法を勉強していたパナだからたどり着けたのだろう。


「おそらく、メリックには高度な魔法じゅつちきが組み込まれていた」


 思いっきり噛んだが、表情が真面目なので突っ込めない。


「魔法、術式?」

「そう。それが、フィメちゃんの魔力できどうして魔法を起こしていた。だから、何も教わってないのに、できた」


 パナは、あくまで推測ではあるが、メリックには魔法術式、つまり、呪文を唱えることと同じ効果のある物が埋め込まれていたという。

 それで呪文も魔法の使い方も知らないが、魔力だけはあるフィメーラが使えたのだと。


「……ま、まあ、でも、もう壊れちゃったから使えないのよ」

「直せるのではないか」


「あたしだって、直せるものなら直したいけど……どうやって?」

「魔法をつかう」


 魔法があれば直せる、とパナが言う。

 彼女は魔法の知識だけはあり、ただ、魔力がなかった。

 だが、フィメーラにはそれがあり、知識をパナから分けてもらえれば、直せるかも知れない。

 パナは、そう言っているのだ。


「出来るなら、やりたいけど……出来るのかな……?」


 期待とそして、不安の表情のフィメーラ。


「フィメちゃんに勇者並みの魔力があるなら、覚えれば出来る。ここにそのためのまどうしょがある」


 パナは持ってきた荷物の中の本を一冊取り出す。


「……これを読まなきゃいけないの?」


 フィメーラが物凄く嫌そうに、渡された本を見る。


「まどうしょを読まないと、しゅうとくはできない」

「うん、それは分かってるけど……」


 フィメーラは胸に押し付けられた本を渋々受け取る。


「あ、あのさ、パナちゃんってこれを読んだんだよね? 内容を教えてもらうってのは出来ないかな?」

「細かいところまで覚えていない。じっせん出来ないから、覚えられない」

「そ、そう……」


 少しひきつった表情のフィメーラ。

 魔導書を読む、というのが苦手というよりも、本を読むこと自体が苦手なのだろう。


「それは大丈夫、よみやすい。ぼうとうで注目出来そうなとぴっくをつくって、最初に出て来るのがめいんまほう。それで、とちゅうでなかだるみにならないようくふうされていて、後半にはクライマックスがあってかたるしすがある」

「……何言ってるのか分からないけど……分かった、読んでみる……」


 覚悟を決めた表情でフィメーラが魔導書を抱きしめた。

 途中から話についていけなくなっていたライヌスは、とりあえず今空腹を宣言してもいいのだろうか? と悩んでいた。


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