第十八話 最年長女児の教育
「さて、セーリュンさんだっけ? パナの借金の問題だけどさ、俺が返そうと思うんだ」
隣に立っている、全裸でカツラも失ったおっさんにシーヤを向ける。
「さて、このシーヤは右から左に動かせば、楽にお前の首を落とせる。お前の首はいくらだ? 値段をつけてみろ」
「ひっ! ひぃぃぃぃっ!」
身動き一つせず立っているだけのセーリュン。
この状況で股間もまた立っているところは尊敬してもいいくらいだ。
「だが、俺は、お前の首を、切らない。これが俺の借金返済だ」
英留は、首を切らないことで、借金を返したことにしたいと言った。
つまるところこういうことだ。
英留はいつでもセーリュンの首を切れる。
だが、セーリュンは首を落とされたくないから、金はいくらでも出すから助けてくれ、と言う。
それでもらった金で、パナの借金を返す、といういくつものプロセスが面倒だったので、一つにまとめたのだ。
「俺はお前の持つ全軍をもってしても倒せない。今日は女の子ばかりだったから、命は助けてやったが、次は俺も本気で殺す」
もちろん何度来ても、英留は服だけ飛ばして誰かに抱き着くことだろう。
だが、そんなことは今の脅しにはどうでもいいことだ。
「分ったなら消えろ。二度とパナの前に現れるな」
「ひっ! おいっ! か、帰るぞ!」
セーリュンが全裸のまま、走っていくと、裸の兵士たちが泣きながらそれに続く。
残ったのは、幼い身体を隠して茫然とうずくまっているパナと、「ヴァー」といつもの号泣をしているライヌス、そして、ほっとしたようにしゃがみ込む、衣服も無事のフィメーラだけだった。
「さ、パナ。俺たちと行こう?」
英留はパナに手を伸ばす。
「……うん」
パナは、英留の手を取る。
パナは両手で自分の身体を隠していたため、手を取ると、それが片手になって、微膨の胸が見えてしまう。
それが英留の狙いだったが、パナは何も気にしていないかのように、隠すのをやめた。
「……これから、よろしくする」
取った手を引き、ゆっくりと立ち上がる、パナ。
「お、おう……」
立ち上がると、胸も股間も隠さず、にっこりと笑う。
英留としては、取った手を離さず、必死に隠そうとして恥ずかしがるパナが見たかったのだが、こうも堂々と立っていられ、また、純粋に微笑まれると逆に困ることになった。
何しろ、パナは可愛い子ではあるが、フィメーラに叱られるリスクを冒してまで見たいと思う程魅力的な姿態ではない。
「服、着ろよ……」
同じ歳ではあるが、明らかにまだ幼い身体なのだ。
見ろと言われたらいつまでも見ていたいが、基本、おっぱいは大きい方がいいと思っている英留にとって、リスクを冒してまで見たいものでもないのだ。
「うん……でも、ない……」
「しょうがないな、ほら。これ貸してやるから」
英留は来ていたシャツを渡す。
パナはそれを受け取ると、もぞもぞと着る。
「パナはこれまでさっきのあいつらの屋敷に住んでたのか?」
「違う。離れのあの家」
指をさしたのはすぐそばの小さな家。
屋敷にそばであるが、屋敷そのものではない。
「じゃ、ちょっと服とか持って行けるものいくつか持ってくるか。これから旅に出るからその準備が必要だからな」
「うん……」
「ヴァー!」
やっと泣き止みそうになったライヌスが、服もないまま置いて行かれそうになってまた泣き出した。
恐怖で幼児化しての泣きはよくあるが、構って泣きは初めてかもしれない。
「お前は罰として裸でついてこい」
「ヴァー!」
「手で隠すことも許さん」
「ヴァー!」
魅力的な大人裸体であるライヌスには一片の容赦のない英留。
「しょうがないわねえ……これ、着なさい?」
フィメーラが自分の荷物から上着を取り出した。
長身のライヌスとはいえ、間に合わせには十分に長かった。
「すまない……街で服を買うまで借り受けたい」
「装備もなくなったわね。はあ……しょうがないわね、ライヌスは戦力だから一通りそ揃えましょうか」
「……申しわけない」
ちなみにライヌスは仲間になる際、金目の財産は全てフィメーラに渡した。
盗賊に近いような勝負を挑んでいた割には、少額であったが、大半は金ではなく物を賭けていたので、かさばるため置いてきたそうだ。
売れば金になるのにそれをしなかった当たり、世間知らずではあるが、だからこそ、金銭の管理は人に任せたいのだろう。
「それよりもだ、ライヌス。この事態はお前が招いたと分かっているのか?」
「私が? 何の話だ?」
全く純粋な表情で不思議そうに英留を見るライヌス。
本当に、心の底から自分の何が悪かったか理解していない、最年長者。
「ライヌス、ちょっと来い」
「? どうしたのだ? ……ヴァー!」
素直にそばに来たライヌスの着ている上着をめくると号泣を始めた。
「こらっ、エール! 何泣かせてるのよ!」
「いやだってこいつ、全然自分が悪いと思ってなさそうだったからさ。」
「知らないものはしょうがないじゃないの! そういう時は教えてあげないとまた同じことするわよ?」
当たり前のことを言うフィメーラだが、実際はここではパナを含めて最年少だ。
「ライヌス、ちょっと聞いてね? さっきのことだけど……」
最年少おかんが最年長幼児にゆっくりと説明を始めるので、英留はパナ家に入り、荷物をまとめてきた。
「服をかえす」
「おう。持って行くもの、決めたか?」
パナは先ほどまでと同じく、黒いつば広の三角帽にマント、そしてミニワンピースの色は白から青に変わっていた。
そんな服を身にまとったパナから貸していたシャツを受け取る。
「まどうしょもつをいくつかと、着替えのシャツとパンツ。パンツはおかねに困ったら売る」
「いやまあ、うん。うちにはおかんがいるから売れないと思うけどな……」
英留はシャツを着ながら答える。
シャツは、パナの匂いが移っていたのでしばらくは楽しめる。
「それよりお前、ちゃんと魔導書も持ってたんだ?」
「もちろん、べんきょうしようとした。でもよく分からなかった」
つまり、魔法使いと偽ってもらった研究費で魔法の勉強しようと思ったが、理解出来なかったわけだ。
「で、あの爆発はどこで勉強したんだ?」
「あれは、ああいうセットを売ってもらった」
「セット?」
特撮用爆発セットでも売っているのだろうか?
「誰から買ったんだ?」
「ぎょうしょうの女のひと。さんじゅっさいてまえくらいのきれいなひと」
「行商の女の人、か……」
三十手前くらいの美人の行商が、この世界では珍しい商品を売り歩いている。
それは恐らく、英留が会った人ではないだろうか?
「なあ、その人って、ゆるふわパーマかけてなかったか?」
「ゆるふわぱーま……何のことか分からない……」
「髪がさ、こう、少し波打っててさ、ボリュームアップさせてる感じの」
「そんな感じだった。その人がていきてきにこの街に来るから、買っていた」
「そっか」
それは恐らく、英留にこのシャツを売ってくれた人だと思われる。
この世界であの髪型は他に見たことはない。
もしかすると彼女は自分と同じ世界から来たのではないだろうか? という疑問も浮かぶ。
だが、そうだとしても行商出来るほどの物を持って来ていることは不可能だろう。
そう考えると、この世界で魔法とは別の研究をしている人たちがいると考えた方がいい。
「私は、夫のなまえをしらない」
「……夫って、俺の事か?」
「もちろん」
確かに、英留は愛人にしたいというセーリュンからパナを奪い、そして、無理やりだが借金を返した。
それは見方によれば、パナを奪って自分のものにした、とう風にも取れる。
何にしろ、金で買われたパナ自身は、自分は英留の物だと思い込んでいる。
「これからよろしく」
「ちょっと誤解もあるが、まあ、よろしくな?」
英留自身、女の子は大好きで、パナの事も嫌いではない。
だが、こんな幼気な子が恥ずかしがらずにいるところにエロいことはしにくい。
外道にも罪悪感はある。
号泣するライヌスにはそれ以上の事は出来ないし、無抵抗の見た目幼いパナにも出来ない、フィメーラは怖くて出来ない。
出来るのはライヌスを号泣させるまでだろうか。
「これからはあいじん三号として生きていくかくごは出来ている」
「いや、その覚悟はいらない」
「ちなみにどっちがせいさい?」
「いや、どっちも違うからな?」
英留としては騙されやすそうなライヌスも、尻に敷きそうなフィメーラも、仲間としてはかけがえがないが、結婚相手としては残念でもある。
「すると、パナがせいさい……」
「いや、それも……いや、三年後くらいなら……」
パナは英留と同じ歳だが、基本性格も見た目も幼いので、対象にはなりえない。
とはいえ、これから数年したら著しく成長を遂げるかもしれない。
そうなると、富豪も認める美しさなのだ。
だったら、パナという選択肢も──。
「いやいや! 駄目だっ!」
脳裏に紗佳奈の顔が浮かんだ。
「?」
不思議な顔をするパナ。
「いや、俺たちはそんな関係じゃないからさ。いや、俺としてはみんなと退廃的にどこかの屋敷で暮らすのもいいと思うけどさ、あのフィメーラって子が勇者らしいから、魔王を倒しに行かなきゃならないんだ」
「まおう……?」
パナの表情。
それはえ? 魔王を倒しに行くとかなに馬鹿なことを言ってるの? という感じではなく、魔王ってなに? という表情だ。
「やっぱり魔王を知らないのか……」
「知っている。知らないはずがない」
むっとしたように答えるパナ。
「いや、張り合わなくていいから」
「あの人はさいきんお腹が出てきた。おさけの飲み過ぎかもしれない」
「いや、そこらのおっさんじゃないからな?」
知らないなら知らなくても恥ずかしくはないのだが、どうもプライドか許さないらしい。
「私もすべてのにんげんを知っているわけではない」
そういう問題でもないのだが、知らないものは知らないようなのであえて言う必要もないだろう。
しかし、ライヌスもパナも魔王を知らないとなると、本当に魔王は世界を脅かしているのか? という疑問も湧いてくる。
勇者のフィメーラにしても、王から言われただけで知らないようだ。
後でもう少し詳しく聞いてみようと思う英留。
「じゃ、準備はいいか? こことはもうお別れだけどさ」
「へいき。パナも生まれはよくない」
「そっか……」
冷静に考えるなら、英留についてくるよりも、セーリュンの愛人になった方が裕福でそれなりに幸せな人生になったのだろう。
だが、それでも英留は目の前で女の子があのおっさんのものになるのが許せなかったのだ。
「それに、これからは……だれ?」
「俺? そう言えば言ってなかったな。俺は英留だ」
「エール。エールがパナを幸せにしてくれる」
迷いなくそう言われ、少し戸惑う英留。
「一応言っておくが、魔王を倒す旅の途中だから贅沢は出来ないぞ? 毎日寝るところを確保するのも大変だ」
「それはどうでもいい。エールがいるならいく」
「そうか……」
思い返せば、パナが絶望したあの局面で、救いの手を差し伸べて、強引にそれをつかみ、パナからは絶対的存在だったセーリュンを追い返した存在である英留に、パナが惚れてしまっても責めることは出来ないだろう。
とはいえ、英留にとってパナは身も心も幼すぎるため、恋をする対象ではない。
先ほどパンツをくれと言ったのも、それ自体で性欲を満たすという、青少年的な感情ではなく、屈辱的な表情が見たかったという外道的な感情なのだ。
好きになられると逆に困る。
何も出来なくなる。
ライヌスのように、英留を仲間でありかつ克服すべき敵だと思っている場合には気軽にセクハラが出来るのだが。
「じゃ、そろそろ行くか?」
「いく」
パナは小さな荷物だけを持って、四年間住んだ家から旅立つ。
「だからね? あの場面であのおっさんに知られたらまずいでしょ? だからみんな黙ってたの」
「何故だ? あの時には彼女は敵だったはずだ。知られて困ることはないだろう」
「だからぁ……」
外に出ると、フィメーラがライヌスにまだ説明している最中だった。
しかもいまだに理解していなさそうだ。
「……あ、エールとパナ。もう準備は出来たの?」
フィメーラが英留たちに気付いて、歩いてくる。
「なんだか難航しているようだな?」
「そうなのよ……あたしも頭いい方じゃないけど、あの子はちょっと……本当に、アレで……」
困ったようにフィメーラが言う。
「しょうがないなあ、じゃ、もっとレベルを下げて教育してやるか。おーい、ライヌス、ちょっと来い」
「うむ、パナとやら、貴様もこれからは私たちと来るのだろう、ならヴァー!」
こちらに歩いてくるライヌスが、年下で半日この一行の先輩ということで何かを偉そうに言おうとしたところ、上着一枚の裾を、英留がめくった。
「今後、同じようなことをしたら、一日ノーパンな? スカートもフィメーラの半分の長さにしてもらう」
「ヴァー!」
「だから、今後は、絶対に重要な場面では喋るな? 分かったな?」
「ヴァンッ!」
号泣しながら、犬のようにうなづくライヌス。
「よし、じゃあ、今日の宿を探そうか」
「……あんた」
呆れるフィメーラを背に、英留は街道に戻り、歩き出した。




