第十六話 魔法少女を色々剥がす
「……どういうこと?」
訝しげな表情のフィメーラが英留に聞く。
「俺が図星を突いちゃったんだろうな。となれば、チャンス」
「え?」
フィメーラは、わけも分からず、だが、チャンスというからにはこの状況を何とかするのだろうと黙って見ていた。
「いや、悪かったね。ネタバレしちゃって」
「もういい。さっさと帰るといい」
パナの方は落ち着いているように見せようとしているが明らかに動揺している。
「パナはあの街に住んでるのか?」
「……あっちの貴族の邸宅の隅に住居を借りている」
「ほう、貴族に仕えているのか。いつから?」
「四年前、魔法を見つけてから」
「なるほど、とりあえずパンツくれない?」
「…………やだ」
無表情のパナはうつむいて顔を赤くしてしばらくして小さな声でそう答えた。
「そっかー。貴族の邸宅はあっちって言ったよな? じゃ、みんな行こうか」
「ちょっとまって!」
パナが慌てた声でそう言って英留を止める。
「ん? どうした? パンツとブラジャーくれる気になった?」
「……増えた」
「あれ? そうだっけ? で? どうする?」
「他のものにならないかこうしょうしたい」
焦っているような、だが赤い顔でパナが言う。
「うーん、じゃあ、パンツは必須として、その服ってのはどうだろう?」
「さっきよりひどくなった」
「じゃあ、ライヌスの服やるから、それと今着てる服全部と交換でどうだ?」
「ヴァーむぐっ!」
号泣したライヌスの口をフィメーラが塞ぐ。
「どうだ? こっちも衣服を提供するんだからさっきよりはマシになってないか?」
「…………ほしい」
「えー? 聞こえないよー?」
「……お金で勘弁してほしい」
「あれ~? いいのかな~? 資金提供してくれてる貴族様に、パナの魔法は偽物だって言ってきちゃうよ~?」
一際大きな声で、英留はパナに決断を迫る。
「…………くっ」
パナが泣きそうな顔で悔しそうに歯を噛みしめている。
「ね、ねえ……」
フィメーラが遠慮がちに聞いてくる。
「あのさ、あの子を倒すと思って黙って見てたんだけどさ」
「ああ、もう少しだな」
「これって、ただの脅しじゃないの?」
「何言ってるんだ、これは駆け引きだ」
何の迷いもなく、英留はそう答えた。
「何の駆け引きよ?」
「考えてもみろ。お前はあいつに持っているパンツ全部取られかけたんだぞ? 有り金とともに。あのままなら半年はノーパンで過ごさなきゃならなかったじゃないか。だから、そういう仕返しだ」
「……パンツ全部ってあんたが言っただけじゃないの」
「そんなことはどうでもいいんだ。パナは結構可愛いから記念にパンツくらいもらってもいいだろ? だからさ、あえてガンガン要求を突き付けて、せめてパンツで許してくれ、になるだろ?」
「あ、そう……じゃ、もうあの子に危険はないってことね?」
「そうだな。なあ、インチキ魔法使い、こっちは最大の譲歩してパンツだけで許……いでぇぇぇぇぇっ!」
「痛みで死ねぇぇぇぇぇぇぇっ!」
フィメーラは思いっきり英留を木刀で叩いた。
「ぎゃぁぁぁぁぁっ!」
断末魔のような悲鳴。
「いだっ、やめっ! ごめっ!」
何度も叩き、英留を反省の言葉を喋るだけの人形にした。
「何なのだこれは?」
背後からの声。
パナの表情が一気に引き締まる。
「セーリュン様……!」
背後からの声に流石にフィメーラが攻撃をやめたので確認すると、美人でスタイルのいい女性三人がいた。
後、その中心に、立派な服を着た太った中年男性がいた。
この男が中心で、さっきの声もこの男なのだが、英留は全く眼中に入れていなかった。
なにせ彼を囲む女性が全員とても綺麗だったからだ。
しかも二人は男性の両脇を囲い、寄り添って身体を擦りよせている。
それでこの男が格好良ければ絵になるのだが、これが生理的嫌悪ギリギリの容姿だった。
「この者たちは何なのだ? 魔法の実験は進んでいるのか?」
「進んでいます……この人たちは協力してもらっています……」
先ほどまで超口下手の極致だったパナだが、今も口下手なまま、一生懸命状況を説明していた。
「えー?」
「……後で服全部あげるから!」
英留が何か言おうとしたら、切羽詰まったような声でパナが英留の耳元で言う。
どうやらこの立派な服を着た男性がパナの出資者の貴族のようだ。
「交渉成立だ、協力してやろう」
さすがに通りすがりの自分たちが出資者を失わせるのは可哀想だ。
英留も交渉は無理だと思っている。
パナは恐らくくれるだろうが、何しろ英留には怖いおかんがいる。
とはいえ、恩くらい売っておこう。
「ふむ、ならいいのだが。私の私軍の中でもお前の魔法研究には多大な金がかかっているのだ。早く結果を出さなければ──」
「ふざけるなっ!」
なんとなく、ちょっとした叱責で収まりそうになっていた空気を一気に壊す怒鳴り声。
それまで黙っているか泣いているだけだったライヌスがいきなり怒鳴りだした。
「先ほどまで偽の爆発で脅して、我々から全財産を巻き上げようとしていたではないかっ! その罪を何故隠そうとするのだ!」
「……へ?」
空気の読めないライヌスの怒鳴りに、英留もフィメーラもパナも、あと貴族もすぐに言葉が出てこなかった。
ただじっと成り行きを見つめていたライヌスは、今になってやっとあの魔法が嘘だということに気付いて、怒り出したのだろう。
英留やフィメーラがとっくに理解した上で駆け引きしていることなど理解していなくて、自分だけがこの事実に気付いてしまったと考え、ドヤ顔で自慢したかったのだ。
その情報はすべて英留の口から出たもので、英留が知らないわけがないのだが、それに気づける程、ライヌスは賢くはない。
有体に言えば物凄く馬鹿だ。
英留は元の世界にいた、ネットでみんな分かった上で乗っかって遊んでいたのに、いきなり「それはこう言うことだろ、そんなの馬鹿しか騙されねーよ!」とか、ドヤ顔で言い出す中学生を思い出していた。
「私は知っているのだぞ? その紛い物の魔法で我々を騙したのだ! 私が見破れないとでも思っているのむぶっ!」
さすがにフィメーラがその口を塞ぐ。
「むはっ! 何をするのだ、あいつは私たちを騙して──」
「ライヌスは一か月間のノーパン罰な」
「ヴァー!」
とりあえず英留は泣かせることにして、フィメーラもそれに関して咎めることはなかった。
「どういうことだ、パナン?」
「えー。すみません、この子馬鹿なんで」
「立派な女剣士ではないか? パナン、今すぐに魔法を使ってみろ」
「え、あ……」
パナはとても慌てているのは分かるが、だが何も出来ないでいた。
地面に埋まっていた爆弾は先ほど全て爆発させたからだ。
「……ちょっと時間がかかりますが」
「今すぐだ」
「じゅ、準備もありますから……!」
「呪文以外の準備がいるのか? 魔法陣を書く程度なら待っていてやる。やれ」
泣きそうな表情で追い詰められているパナ。
だが、英留たちも何もすることが出来ない。
あと、この貴族も子供泣きしてるライヌスを見て立派な騎士などと言ったりして、何かおかしいものを感じていた。
もう諦めたのか、パナはただうつむくだけだった。




