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勇者×魔王ランデブー  作者: 朱鷺
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主役×ヒロイン

この世には《魔界》と《人界》の二つの世界が存在する。

この世界では、魔界に住む魔族達の王『魔王』が配下の魔族を使役し、人界において人々を苦しめている。

だが、そんな魔王に対抗せし存在が人界にはいる。

それの存在は、『勇者』と呼ばれる。

勇者と魔王の間には不思議な運命、いや摂理のようなものが在る。

両者は、一方が生まれれば他方も生まれ、一方が他方を滅ぼす。

そして残る一方が死ねば、新たな両者が生まれる。

必ず一代毎に交代を繰り返していた。

人々は勇者に、魔族は魔王に、自身らの頼れる存在が勝つことを願っていた。

しかし軍配は勇者に挙がることがほとんどで、人々は魔王の早死にと勇者の寿命の差から齎される一刻の平和を頼りに生き、魔族はその間大人しくなることが常であった。


ある時、そんな世界の理が崩れた。


再び魔王が生まれたという報せが人界へ齎される。

その報せが届いても、いまだ勇者が現れたという報せはないまま数年が経過した。

人々は勇者が誕生したという報せを、今か今かと待ち侘びた。

そんなある日、世界中に『勇者誕生』では無く、『魔王討伐』と言う報せが齎される。

突然の報せに人々は歓喜し、魔族は驚愕した。

ところが『魔王討伐』の報せから数日後、今度は人々が驚愕し、魔族が歓喜する『魔王誕生』という報せが届く。

つまりは勇者の死。新しい魔王が生まれ、魔族が活気づくという報せ。

それから人々は、すぐに『勇者誕生』の報せが届くモノだと思っていた。

だが新たな『魔王誕生』の報せから数年、一向に『勇者誕生』の報せが届くことは無かった。

既に魔王は現れているために魔族は活気づき、人界を侵略しようとしてくる。

しかし、勇者は現れない。

既に勇者の存在は一世代確認されていない。最早勇者の存在は消滅したものだと囁かれた。だが人々は、そんな現状に絶望することなく、大国が中心となり、武力による抵抗で以て魔族の侵略に何とか対抗し、一進一退の様相を維持することを可能としているのが今の世界の現状である。

斯くして、魔王を討つ存在が現れないまま、数年の時を人々は必死の抵抗で以て耐え忍んでいる。

人々は、『勇者誕生』の報せが齎されるのを、今か今かと待ち侘びている。



「ハァハァ!」

――ガサガサッザザザザザザザザザザ

 森の中を走る、まだ幼さを残した足音と息の切れる音。

それを先頭にして‘人’では無い走り方を感じさせる足音が複数、跡を追っているのが分かる。

「た、助けて・・・ハァ、助けてーー!!」

 助けを求める必死な声音から、足音から感じられた幼さが事実であることが分かる。

歳の頃はまだ七、八歳だろう。そんな子供が何から逃げているのかといえば、

――追エ、逃スナ

――若イゾ、若イゾ

――美味イゾ美味イゾ、キット美味イゾ

 それは正しく白骨死体。所々に土や泥、または腐肉や服の切れ端を纏った人型・獣型の白骨死体が十数体、その少女を追っている。

 気味の悪い声で聞こえる言葉から察するに、少女を捕らえて戴くつもりのようだ。

 彼らは死霊。悪意を胸に抱き死して尚、その悪意を怨念へと変え現世に留まった霊魂が魔粒子を纏い、特殊な力と霊体を手に入れた末に生まれたとされる魔物たちだ。

 子供を追っている白骨死体たちは、あくまでも死霊が手近な死体に憑依したものなのである。その証拠として挙げるなら、彼らの話す言葉は何処か拙さ・片言さが残り、走る速度こそ子供に迫らん速さだが、子供に追い付けていない分そこまで速いとは言い難い。更に言えば、走りに力強さが感じられない。

 何故なら彼らは、あくまで魔力によって無理矢理死体に憑依して動かしていしているに過ぎないのだから。

これが死霊の一つ上に位置する亡者または不死者なら、完全に融合したか魔力で作り出した自身の肉体を持つために、動きが滑らか且つ確かなものであるのだから、もし同じ状況下なら疾うの昔に少女は捕まっていたであろう。

 そんな死霊たちに追われている少女だが、息の切れ方と靴の汚れ具合から見るに既に相当な距離を走ったと思われる。このままではいくら速く無い死霊たちとは言え、追いつかれるのが当然の結果となるだろう。

「あっ!?」

 大人であっても、疲れた状態で長距離を走れば脚が縺れるのはあること。それがこんな少女のような子供ならばこれは必然だろう。

 倒れた少女を死霊たちが素早く囲む。

――追イ着イタ、追イ着イタ

――ヤット有リツケル

――美味ソウダ、美味ソウダ

 少女を取り囲み、深い底から響く様な声で口々に耳障りな言葉を口にする。

「ハァ、ハァ・・・ゥゥ、誰か、助けて・・・お母さん、お父さん・・・」

 取り囲まれ、徐々に迫って来る死霊たちに恐怖から泣き出す少女。この場にいない両親に助けを求めるその姿は悲痛なものだ。

「ギルお兄ちゃん・・・ルナお姉ちゃん・・・」

 そんな少女が次に口にした名前は両親ではなく、村でいつも自身を含めた子供たちと遊んでくれて大人顔負けの強さを以て、魔物から村を守ってくれる憧れの皆の兄と姉の二人の名前だった。

――サア、戴コウ

 死霊の一体がそう言ったのを皮切りに、少女目掛けて一斉に群がり始める死霊たち。

 そして、少女はその無垢な魂を欠片として残すことなく死ぬ、ハズだった。

『聖よ邪を祓わせ給え――破邪聖光(はじゃせいこう)

 少女よりは大人びた、しかし成人よりはまだあどけなさを残した女性の凛とした声が響き渡る。

「・・・ぇ?」

 女性の声が響いた直後、少女を中心に半球状の光の小さなドームが出現。少女を優しく、温かく包み込んだ。

 対照的にその温かな光は、少女を取り巻く死霊たちには強力且つ聖なる力を以て、死霊たちからすれば死、即ち消滅の牙を向く。

――ギャアアアアアアアアアァァァァァァァァ・・・・・

 同時に少女に群がろうとしていた死霊のうち、少女に近かった数体の死霊が何が起きたのかも理解出来ぬままに、徐々にか細くなっていく断末魔を上げた後、消滅した。

「な、なに・・・?」

突如として現れた光に、何が起きたのか理解できずにいる少女。

しかし、さっきまで感じていた恐怖と不安は光に包まれたその瞬間から、溶けて無くなっていた。残ったのは、理解できていないのにも関わらず直観で感じることの出来る、まるで誰かの胸に優しく抱かれているかのような安心感だけだった。

少女が安心感に包まれて自然と安堵したとき、その声は現れた。

「大丈夫かミーナ? あれ程一人でこの辺りには来ちゃダメだって言っただろう。 全く・・・でも、とにかく無事みたいだな。良かった」

 先程聞こえた凛とした女性の声とは違う優し気な男性の声。

 言葉では怒っているが、その声音は心底優しく、少女の安堵した心を来てくれた喜びで埋め尽くす、いつもの声だった。

「ギ、ギルお兄ちゃん!! ぅ、うわあぁぁぁぁん」

「うわっ、とと。 ・・・もう、大丈夫だからな。 ミーナ」

 そう言い聞かせるように頭を撫でながら、少女――ミーナが泣き止むのを静かに待つ男性――ギル。彼の後ろにはもう一人若い女性がいる。その女性は、ミーナとギルのやり取りを眺め、『仕方ないなあ』と『安心した』という二つの感じが混ざった深い溜息を吐くと、口を開いた。

「ミーナってば、私のことも忘れないでよね? それよりもギル、そろそろやらないと、逃げられちゃうわよ」

 その声は、先程場に響き渡った凛とした声と同質の声だ。

その女性の言葉にギルは、マシになったが未だすすり泣くミーナを胸に抱いたまま、顔を女性の方へ向け言う。

「ああ、そうだな。 ルナもそろそろ結界維持するの疲れたよな、ごめん。 直ぐに終わらせるよ」

 そう言い終ると、胸に抱くミーナの両肩を優しく持ち、そのままお互いに顔がよく見える位置まで離すと、優しく問い掛けた。

「よし、ミーナ? 今からお前を怖がらせた外の奴らを、俺が全員ブッ飛ばしてきてやる。だから暫らく、ルナと一緒に待っててくれ。いいな?」

「ぅん、わかった。 やっつけて来てね」

「おう! 任せろ! じゃあルナ、ミーナを頼む。一分で終わらせる」

 ミーナを後ろに立つ女性ーールナに渡すと、先程までの優しい雰囲気を一変、瞳は獰猛な狩人のようなギラリとしたものにして自信に満ちた雰囲気を醸し出し、ミーナを優しく抱いていた手に、まるで刃が濡れているかの様な――俗に言う霞仕上げ――細身で少し反った片刃剣――刀――を握ると、そのまま光のドームから出て行った。


死霊たちは、突如自分たちを襲った聖なる光に慌てふためいていた。

――何ガ起キタ!?

――見タコトモ無イ女ダ!

――聖属性ノ魔法ダ!!

――シカモ強力ナ魔力ヲ持ッテイルゾ!

 死霊たちが慌てるのも無理も無い。何故なら、本来彼らは高い魔法耐性並びに物理的攻撃に低くない耐性を持ち、進化が難しく数が少ない反面、属性としては悪属性という、魔法・魔具の中でも難易度の高い聖属性を対に持つ属性を備えており、尚且つ死霊は本体である霊体だけでは物理的攻撃を上手く扱えないのだが、憑依を行って手近な死体・物体に憑りつくことで物理的攻撃も扱えるようになるため、低級の状態でも魔物として退魔師の素人・一般人には脅威として恐れられる存在なのが普通。

 耐性を持っているとはいっても完全に効かない訳では無く、耐久値を超える分の攻撃は魔法・物理の両方とも効く。なので、一般的には死霊への攻撃は出来れば聖属性、なければ他属性の魔法・魔具、物理的攻撃によって徐々に倒すのが一般的なのである。

 ここで付け加えるなら、彼らは高い魔法耐性を持っているため、例え聖属性の攻撃でもそうそう簡単には倒せないのだ。

 魔法の類であったとしても。

 にもかかわらず、今の彼らを取り巻く状況は、一言で最悪。

 何せそう簡単に出来ない筈である、死霊――自分達を聖属性とは言え初歩的な結界魔法たった一つで複数倒したのだ。

結果、その場に残ったのは本体が消滅した残骸(白骨)と、魔法から逃げ延びた死霊四体。

 その上、今の攻撃は有名な魔法使い・都市部の有力な魔法使いとして、名を馳せている人物ではない、片田舎の見知らぬ女の攻撃。

 慌てずにはいられないのが当然なのだ。

――ト、兎二角逃ゲルンダ!

――一度、アノ方ノ元へ報告シニ戻ッタ方ガイイ

 残った四体の死霊の内の一体が逃げを提案し、それに賛同すると共に『あの方』へ報告を入れるべきだと更に付け加える別の死霊。

――ソウダ、ソウシタ方ガ――

「――させねぇよ」

その提案はその二体の残りの二体の死霊には受理されなかった。

いや、正確には受理出来なかった、と言うべきだろう。

何故なら、突如現れた刀によって二体とも同時に斬り裂かれ、言葉を続けることは疎か、存在する事さえ出来なくなったからだ。

――馬鹿ナ!?

――我ラ死霊二物理的攻撃ガコウモ簡単二効クワケガ無イ!!

 残った二体の死霊が混乱のあまりに、当初検討していた『逃げる』という現状最も最適な行動を忘れて喚く。

 そんな二体に今し方先の二体を切り裂き消滅させた男――ギルが淡々と告げる。

「喚きたい気持ちも分からなくはないが、悪いが急いでるんだ。 きちんとあの世に行って、議論してくれ」

 その言葉を告げ終ると同時にギルは手に持つ刀を一閃。

 残る二体の死霊の意識はそこで途絶え、これによって先程までこの場にいて少女を襲おうとしていた複数の脅威(死霊)は完全に消え去った。


「はぁ、技なんて使うまでも無いな。 おーい、二人とも出て来て大丈夫だぞ~」

 先程までの獰猛な雰囲気は今はすっかりと鳴りを潜め、結界の中でミーナやルナに使っていた優し気な声音で結界内の二人に呼びかける。

「ギルお兄ちゃーーん!」

 ギルの声を聞いて安全だと認識したルナが結界を消し、それで周囲の様子が見える様になってギルを見つけたミーナが嬉しそうな声を上げて手を振りながら、ギルの元へと駆けていく。

「おおっと! ハハハ、ほらミーナ、約束通り、お前を怖がらせた奴らは皆ブッ飛ばしてやったからな~。 もう安心だぞ」

「うん!! ありがとう!! やっぱりギルお兄ちゃんは強いね!」

「当然だろう? ミーナの、皆の兄ちゃんなんだから、皆を守るためにも強くて当然さ」

「エヘヘ、ギルお兄ちゃんは、ミーナと皆の自慢のお兄ちゃんだよ!!」

 そんな風にギルがミーナとやり取りをしていると、ゆっくりと歩いてルナがやって来た。

「流石ね、本当に一分で倒しちゃうんだから。 普通ならパーティでローテーションを組んだりして、持久戦が主なのに。 本当、恐れ入るわ」

「それはこっちの台詞だよ。 高い魔法耐性持ちの死霊を、初歩的な聖属性魔法の結界で複数同時に倒すなんて。流石だよ、ルナ」

 互いに互いを褒め合う二人。そんな二人の間に流れる空気は至極穏やかで、和やかな空気であり、戦闘直後にこのような遣り取りをこんな風に出来ることから、二人の仲が相当に深いものだと分かる。

「ミーナもそう思う!! ルナお姉ちゃんも皆の自慢のお姉ちゃんだよ!」

「フフ、ありがとう。 さ、称え合いはこれ位にして、帰りましょう、村に」

「そうだな、帰ろう」

「賛成! 私、早くお母さんとお父さんに会いたくなっちゃった」

「帰ったらうんと甘えればいいさ」

「うん! たっくさん、ただいまって言う!」

 ルナが帰ることを口にしたことで、ミーナは心底嬉しそうにニコニコしながらギルと手を取る。早く早くと急かす気持ちが抑え切れていない様子だ。まあ、ミーナはまだまだ幼い少女である。そんなミーナは、ついさっきまで沢山の恐怖の存在に追い回されて命の危険に晒されていたのだ。その危機から逃れられ、頼りになる兄と姉が来てくれて、危機の最中に会いたいと強く願った両親の元へ安心して帰れるとなったのだから、抑え切れて無くても仕方の無いことだ。

「その前に、ミーナ。 一つ約束してくれる?」

 急かす様子のミーナに向けて、ルナは厳しい目線で話し掛ける。

「・・・な、なぁに?」

 ルナの厳しい目線の訳を子供特有の鋭さで感じ取ったのだろう。

 その証拠に、ミーナの返事にはこれから言われる話しの内容を先取りしたように、恐る恐ると言った感じが込められている。

 そんなミーナの返事を受けて、ルナはミーナの側まで歩くとしゃがみ込んで、距離を詰めて目線を合わせる。

「もう二度と、どんなことがあっても、一人でこの辺りには来ないって、約束して。 いつもしっかりしてて、約束を破ったりしないアナタが、どうしてこんな所に居るのか、聞いたわ。 友達――ベルたちから色々言われて、嫌で、許して欲しくて、来たんでしょう? 細かいことはベル本人から聞いたわ。 確かに、『良い子ぶって、皆と一緒に来ない奴』なんて言われたら、傷付くわ。 しかも、『そうじゃないって証明したかったら言いつけを破った証拠を持って来い』って言われたんだものね」

 そう、本来このミーナと言う少女は、大人しめで優しい子であり、友達との約束・大人から言いつけ等はしっかりと守る、責任感の強さも持ち合わせた『良い子』なのだ。

 だがやはり、まだまだ幼くてわんぱくな子供たちの間では、そんなミーナの責任感からくる部分が気にくわないことが多々あるのだ。

 結果として、今回ミーナが言いつけを破ってこの低級魔族・魔物が居る領域に来た切っ掛けの出来事が起きてしまったのだ。

 出来事の内容は至極簡単なもの。それなりの年齢の者からしたら幼稚とも捉えれるだろう理由である。

 村にいるミーナの同年の友達であり、同年以下の子供たちのリーダーの位置にいるガキ大将的存在のベルと言う少年が、『言いつけは守るべきだ』という主張を繰り返して自身の探検――と称した村の周辺にある危険な場所に無断で出掛けること――を邪魔するミーナに対して、自分勝手な怒りと鬱陶しいという感情を抱き、まだまだ幼い自制心ではおさえきれずにその感情をストレートな言葉に替えて言い放ったのだ。


『いつもいつも、『言いつけは~』ばっかりで良い子ぶりやがって!! それで俺と皆の邪魔ばっかりしやがって、お前なんてもう二度と仲良くしてやんないからな!!』

『だ、だって、危ないから行っちゃ駄目だって言われてるんだから、守らなくちゃ・・・・・・』

『うるせぇ! そうやって皆の遊びを邪魔してんだぞ! お前のせいで全然楽しくないんだよ! 皆そう思ってるんだからな!? お前はもう二度とお前とは遊ばないからな!!』

『そ、そんな・・・良い子ぶったりなんて・・・・・・遊ばないなんてぇ、ゥゥ~~~!』

『フ、フン! 泣いたって許さないからな!』

『フゥゥぅ、ウゥゥゥ、ヒック、ご、ごめん、なさいぃ・・・ヒック』

『ぅ、ぁ、~~~!! わ、分かったよ! 許してやるよ!』

『ヒック・・・ほ、本当?』

『ああ。 でも、条件がある。 許して欲しかったら、お前も俺たちと同じだって証拠になるものを持ってくるんだ。 いいな?』

『証拠になるものって、何を?』

『色々あるだろ? 『血濡れの薔薇』とか、『極楽茸』とか、とにかくあの辺りにあるものを持って来い、そしたら許してやるよ』

『・・・・・・本当に?』

『ああ、本当さ。 まぁ、持って来れたら許してやるけど、どうせ無理だろうから、何なら暫らく俺たちのことを大人たちに黙ってるんなら許してやっても――』

『分かった、じゃあすぐに行ってくる!』

『え? あ、いや、だから内緒にしてくれるなら別に――』

『行ってくるから絶対約束守ってね!!』


 といった感じのやり取りの末に、ミーナは言いつけを無視し、また仲間に入れてもらうために危険を犯すことにしたのだ。

まぁ、詳しく背景を見たら、どうもベルは無理難題を吹っ掛けて、別の要求を通そうとしていた様だが、それが伝わらずにミーナが無理難題を真に受けた、と言うのが真実のようだが・・・・・・。

話しを聞いたルナとギルはそれを理解している。 が、それはそれとして、ベルが使った無理難題は吹っ掛けていいレベルの内容ではないし、そもそも子供の好奇心が原因で犯したとは言え、ベルたちが言いつけを破っている時点でベルたちが悪いのだ。

故に、二人――特にルナはベルを筆頭に今回の件に加担した子供たちを全員叱ったのだ。

 ルナの全てを見透かした瞳に見つめられ、ミーナは俯く。

 そして、少しの間を開けてから話し出す。

「・・・・・・うん、ごめんなさい。 勝手に来ちゃって。 怒ってる?」

 ルナの視線におずおずと目を合わせ、問い掛けるミーナ。

 そんなミーナにルナは、優しく、温かな口調と雰囲気で語りかける。

「当たり前でしょ? でも、それより今こうしてミーナが無事で、ちゃんと約束をしてくれて嬉しいから、私たちは、怒らないわ。 でも、お母さんとお父さんからは、しっかりと怒られなさい。 今のアナタには、アナタの両親がどれだけ心配したかを知っておく義務があるから。いい?」

 そのルナの言葉を受け、ミーナは途中で一瞬だけ恐れを瞳に宿したが、ルナの言葉が進むに連れて、恐れが消えて行き、代わりにその瞳には涙が宿っていった。

「ぅん・・・・・・ありがとう。 ルナお姉ちゃん、ギルお兄ちゃん」

「分かってくれたのなら、もう私たちが言うことはないわ」

 ルナはそう告げるとミーナを優しく慈しむように抱き寄せた。

 そのままミーナの背をぽん、ぽんと二回優しく叩くと、背に回した腕を外してミーナの小さな手を包み込むように穏やかに握る。

 そして、これまでの様子を見守っていたギルに対して、

「行きましょう。 そろそろ行かないと、皆に心配掛けることになるわ」

「ああ。 っても、もう大分心配掛けてる気もするけどな」

 そう返すギルの言葉を無視してルナはミーナの手を取ったまま来た道を帰る。

 無視されたギルはそれが当たり前の如く、それ以上何も言わないまま、二人の後を守るようにして来た道を帰る。

 そうして二人は無事ミーナを助けて目的を達成し、三人で村へと帰った。



 三人が村へと帰るために、その場から村へと続く道へ向かい進んでいる。

 その様子を眺める者が二人。

 両者ともフード付きの体をすっぽりと覆うローブに身を包んでおり、目深に被ったフードにより、両者の顔や性別、体格などは窺うことが出来ない。精々、それぞれのローブの色が違うために、両者を識別することが出来るくらいだ。

 その二人がいる場所は、三人が歩いている場所から二キロは離れた、上空(・・)

 その上、眺めている二人の姿は心なしか透けている。

 そんな二人のうち、緑のローブの者が言葉を発する。

「良いな、あの二人。 男の方は動機も十分のようだし、あの様子だと、女の方は必ず男に付いてくるだろうな」

 若い男声が言葉を紡ぐ。

 その男声に続き、今度は透き通る美しい声が答える。

「確かに、私も良いと思うわ。 でも、本当に了承してくれるかしら?」

 その透き通った声音から、男に答えた赤いローブの人物が女性だと窺える。

「絶対に頷くさ。 そういう性分だよ、あのタイプは」

「でも、やっぱり少し悪い気がするわ。 私たちの都合で、巻き込むなんて・・・」

「俺たちの都合でも、その都合があの二人の目的に成れば、両者は目的を果たそうとそう協同体となるんだし、問題はないさ」

「・・・それも、そうかしら・・・・・・」

「大丈夫、何も心配はいらないさ。 選ぶ過程は誘導的かも知れないが、理由はしっかりと教えるんだ。 最終的に決断を下すのは、あの二人自身なんだから」

 二人のローブの人物が、一体なにを目的としているかは分からない。

しかし、決して良いものでは無いと言うことだけは予想が付く。

そして、二人のローブの言うあの二人――ギルとルナは、これからそれに巻き込まれることになる。

それが、今後の世界各国の人魔の存続に関わる出来事だと二人が理解するのは、そう遠くない未来の話しである。


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