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2.お試し婚?!

 「はい?」


「結婚おめでとう」


「えっ?すみません、今何て仰いました?」


「だ・か・ら、結婚、お・め・で・と・う、って言ったのよ!」


「はぁ?結婚って?」


「つまり、今2人が交わしたのは固めの盃よ!私が立会人!さて次は……と、」


そう言うとマスターは嬉々として何だかがさごそポケットを探っている。


「ちょっ、ちょっと待ってください!結婚って何ですか!?言っていい冗談と悪い冗談が!マスターふざけるのもいい加減に-、」


実は私は何を隠そう去年20歳になったばかりのお酒初心者だった。だから飲みやすくて大好きな梅酒だけを飲んでいたわけで、お猪口一杯の強い濁り酒に、段々頭がクラクラになってきて、思考能力は低下の一途を辿っていた。


それでもさすがに、ただ単に面白がっているだけのマスターの悪ふざけには辟易してきた。


(嗚呼、でも頭の中がグルングルンしてきた!)


そこへ、それ迄黙っていた兎オタク男が、


「いいぜ、俺は。そういう結婚も面白いかもなぁ。付き合って色々ごちゃごちゃ考えても、結局最後はフィーリングだろう?だったら出逢った日に感じたフィーリングの方が案外合ってるかもしれないぜ?」


なんて、わけの分からない発言をしてきた。


私は「そんな訳あるか!!!」って反論したかったけど、既に呂律が回らなくなってきたのと眠いのとで、テーブルに突っ伏す寸前だった。


(誰か助けて~!お母さ~ん!)


「まぁ!良かったわぁ~!っていう事はやっぱり、お客さんはこちらの彼女に一目惚れって事でいいのかしら?」


マスターは自分の行動が肯定されて正に有頂天、事態は危険極まりない方向にどんどん進んでいた。


「ああ、実はそうなんだ。この娘よく見たら、ちょっとイナバちゃんに似てるし、すぐにムキになる性格も、結構俺好みっぽいし、今日のこのド派手な紫のカツラとメイク取ったら、案外良家のお嬢様風とみた!」


(はぁ?誰がイナバに似てるですって!?そんな事言われた事……、有ったー!!!超ピンチなんですが!!!マジで誰か来て~!!!)


喋りたいのに喋れない私は、さっきとうとう睡魔に耐えきれずにテーブルに突っ伏して、今や意識を手放す寸前だった。


「やっぱり?そうだと思ったのよ~。この娘、ちょっとイナバ入ってるわよね!でもそういうお客さんも、背広にその真っ黒なグラサンってかなり訳あり風だわねぇ、まあ野暮な突っ込みはしないのがこの商売の鉄則だからご安心を!嗚呼、でも凄いじゃない!これはもう、いわゆる運命の出逢いってやつじゃないの?」


興奮したマスターの声は歓喜に上ずっていた。


「だろ?俺もちょっとそんな気ぃしてたんだ。だからいいぜ、俺は」


「なあ、実はお前もそう思ってただろう?俺、よくベガに間違われて迷惑被ってるぜ?」


兎オタクが、テーブルに突っ伏してフェードアウト寸前の私の背中を揺り動かした。


馴れ馴れしく触って欲しくないのに、最早起きられない。止めてと、僅かに残った意識で左手で払いのけようとしたけれど、手は空しく空を切るだけだった。


すると何をどう勘違いしてくれたのか、マスターが、


「あらっ!彼女もオッケーみたいよ!!良かったわね~。私も素敵なカップルのキューピッドが出来て嬉しいわ!じゃあ最後に久々にこれの出番だわ。はい、これ、二人の幸せを祈ってご祝儀代わりのプレゼントよ」


「何だよ、これ」


完全に勘違い暴走したマスターが勝手に何か進めている!私は必死に手を振って違うとアピールしていたけれど、まるきり無視されていた。


「この店ではねぇ、ここで成立したカップルには特別にこの結婚指輪をプレゼントしてるのよ~。あなた方ちょうど20組目のカップルよ、嬉しいわぁ~。安心して!今迄に成立した19組の皆さんは、ちゃあんと正式に結婚して幸せに暮らしているから。見て、あの写真の人達がそうなのよ。あの横に三ケ月後にはあなた方の写真が並ぶ事になるのね!ウフフフ、楽しみだわ!」


「三ケ月後ってどういう事だよ?何か意味有るのか?」


二人の会話が意識の遥か遠くで聞こえる。まるでテレビの中の会話のようだ。


「ウフフ、実はそうなの!この結婚指輪はちょっと不思議な指輪でねぇ、一回したら絶対に外れないのよ。外れるのは、あなた方の心が通じ合って正真正銘の夫婦になった日、もしくは、考えたくないけれど、どちらか一方又はお互いに心が全く離れて他の人と結ばれちゃった日。それと……、ちょうど指輪をしてから三ヶ月後、それがこの仮初めの結婚指輪の有効期限。三ヶ月経ってもあなた方の心が通っていなければ、この指輪は自然消滅して、その時点で二人のお試し結婚は終了するの」


「お試し結婚?」


「そうよ、本当の夫婦になれるかどうかのお試し期間。まあ婚約期間と同じようなものだけど、でも既に仮夫婦っていうのはちょっと意識が違うと思うわよ~」


「へぇ~、そんなもん?」


「さあ、彼女が指を差し出して待っているわ!早くはめてあげてちょうだいな!」


「何かよく解らねぇけど面白そうだな!よし、じゃあっと」


いきなり空を切っていた手首を掴まれた!


(嫌ぁ~!!!)


私は朦朧とした意識の中、必死に手を動かして逃げようとしたのだけれど、まるきり抵抗にはならなかった。強引に指に何かをはめられた……、みたいだけれど、見られないからよく分からない。


(指輪って、結婚指輪って何~?嫌ぁ~!誰か外して~!)


でも……、とにかく……もう……ダメ……眠……い……、


そこで私はとうとう完全に意識を手放して、深い眠りに落ちてしまった……。


「あらあら、彼女弱かったのね~、寝ちゃったみたいよ。じゃあ仕方ない、私がするの手伝ってあげるわ」


こうして意識をなくした私は、私の意思を完全に無視されて、手を持ち上げられて指輪を持たされ、兎オタクの指に指輪をはめさせられたのだった。


「じゃあこれで本当に儀式完了っと!おめでとう!彼女寝ちゃったけど、上に休める部屋有るから、良かったらせっかくの初夜だし、泊まっていって構わないけど」


「そうか?何から何迄すまねぇな。ならそうさせて貰うか」


私は意識が無いところで勝手に結婚させられた上に、とんでもないやり取り迄されていたのに、何故だかとっても良い気分で夢の中だった……。


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